第5話 浴室の人


 倉橋くんは事故物件に住んでいる。前の住人が、浴室で自殺したと聞いた。

 そのため、たまに出るらしい。

 夜中、浴室の電気が点いているときがある。消し忘れかと思って電気を消すと、中から「キャッ!」という悲鳴がする。たまに「やめてよ!」と続く時もある。

 倉橋くんは一人暮らしで、浴室に誰かがいるはずはない。

 そんな時、思い切ってドアを開けてみても、誰もいないそうだ。

 そのまま消灯しておくと、翌日にはトイレが詰まったり、排水溝からものすごい異臭がしたりと、何かしら水系のトラブルが起こる。だから、最近は点けっぱなしにしておくそうだ。そうすると、次の朝には消えているという。

「月に一回あるかないかだから、修理代より電気代の方が安いですよ。おかげさまで家賃もかなり負けてもらってるし」

 だから不満というほどでもない、と彼は言った。


 ただ、腑に落ちない、という。

「電気消されて『キャッ! やめてよ!』なんて、変でしょ」

「確かに。お前幽霊だろ! って思うよね」

「それもそうなんですけど、どう聞いても男の声なんですよ」

 前の住人がどんな人だったのかは、教えてもらっていないそうだ。

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