ペアリング

 学校が終わった後、良平は桃花を連れて駅前のショッピングモールにあるアクセサリーショップに訪れていた。

 店に入って何を買うか想像したのだろう、桃花の顔がさっきからニヤけっぱなしである。


「どんなのが桃花に似合うんだろうか?」

「何でもいいですよ。お兄さんが選んでくれるのが大事です」


 見た目や値段なんなより、良平が選んだ物が欲しいようだ。

 良平はバイトをしていないのでお金がそこまであるわけではないが、指輪を買ってあげるくらいは問題ない。


「何か気になっている物はございますか?」


 ゆっくり指輪を見ていると、女性店員が話しかけてきた。

 正直、選んでいる時に話しかけられるのはウザいと思うが、店員にしても買ってもらおうと必死なのでどうしようもない。


「彼女にはピンクっぽいやつで、俺はシルバーのペアリングが欲しいです」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 店員は条件に合った指輪を何個か出して、二人に見せてくれる。

 女性用のは完全にピンクというのではなく、金色も混ざったような感じだ。

 男性用のはどこにでもあるようなシルバーリング。

 基本的に良平は見た目とか気にしないタイプなので、桃花が気に入ればこれにする。


「これ可愛いです。はめてもいいですか?」

「どうぞ」


 桃花は一つの指輪を手に取ると、左の薬指にはめた。


「いいと思うぞ。それにするか?」

「いいんですか?」

「うん」


 店員に「これをください」と言い、桃花用と自分用に指輪を買った。

 予想より指輪の値段が高かったのは桃花には内緒だ。


☆ ☆ ☆


「えへへ、えへへへへへぇ~」


 良平から初めてのプレゼントである指輪を左の薬指にはめて、桃花は嬉しさのあまり物凄くだらしない顔をしている。


「桃花キモい……」


 帰ってきて早々にあまりにもニヤけている桃花を見て、詩織は白い目で感想を述べた。

 良平から指輪をプレゼントされて嬉しい気持ちはわかるが、せめて一人の時にしてほしいものだ。


「詩織ちゃんが最近辛辣だよ」

「そりゃあ、ニヤニヤしてる桃花を見たらそう言うよ……」


 決して気持ち悪いとかではないが、詩織は思わず口にしてしまった。


「お兄さん、部屋でイチャイチャしましょ」

「うん」


 桃花は良平を連れて、部屋に向かった。


「えへへへへぇ」


 部屋に入るともう一度ニヤけだす桃花。


「凄いニヤけぶりだな」

「だって嬉しいんですもん。初めての彼氏から送られた初めてのプレゼント……幸せ過ぎます」


 彼女は彼氏からプレゼントされると喜ぶものなのかと、良平は頭のメモに書き込んだ。

 指輪が結構高かったからしばらくすることはないが、クリスマスや誕生日に何かプレゼントするのもいいかもしれない。


「まあ、桃花が嬉しいなら良かった」

「ありがとうございます。ずっとしてますからね」

「俺もしとく」


 良平の左薬指にも指輪がつけられており、もう完全にバカップルと言ってもいいくらいだ。


「何かアニメでも見ようかな」


 ここ数日はアニメを見ていないので、レコーダーに見ていないのがたまっている。

 あまり見ないとハードディスクがいっぱいになるから、消化しなければならない。


「イチャイチャしながらならいいですよ」


 アニメに興味がない桃花は、良平にイチャつきながら過ごす。


「お兄さんはアニメのどこが好きなんですか?」

「う~ん……可愛い女の子が出てくるのはもちろんのこと、ヒロインは好きになったら凄い一途だし。まるで桃花みたいだね。アニメから出てきたみたい」

「お、お兄さん……」


 良平の言葉に桃花は顔を真っ赤にした。

 アニメ好きな良平の最大限の褒め言葉だというのを桃花がわかったからだろう。

 本当に嬉しすぎて口元がニヤけてしまい、良平の顔を見ることができない。


「アニメ見る前に噛んどく」

「は、はい……んん……」


 いつも噛んでいる首筋に噛みつき、良平は桃花をさらにニヤけさせるのだった。

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