独占欲の塊
「断られた……」
「それは当たり前だと思いますよ」
良平と桃花は学校が終わると同時に近所にある市役所を訪れていた。
市役所で何を断られたと言うと……。
「お兄さんの年齢では婚姻届けは受理させません。それに親の同意すら取ってないじゃないですか」
ふと、独占欲にかられた良平は、何故だか婚姻届けを出そうと考えた。
桃花は十六歳で結婚できるのだが、良平は十七歳で結婚できない。
それに十八歳になったとしても、未成年では親の同意がなければ結婚なんて無理だ。
普通に「十八歳になってから親と一緒に来てください」と職員に言われ、それ以上は取り合ってもらえなかった。
良平だってまだ結婚できないことは知っているはずなのだが……。
「まさか結婚しようとして市役所に行くなんて思ってませんでした。私としては物凄く嬉しかったですけど」
何故行くか告げられないまま良平に市役所まで連れて行かれ、婚姻届けを貰おうとして桃花は驚いた。
「桃花をもっと独占したいんだよ」
独占したいからっていきなり結婚を考えるなんて、良平以外にいないだろう。
そもそもそんな想いでいきなり市役所で婚姻届けを貰おうとか、プロポーズや色々なものをすっ飛ばしている。
「独占は好きなだけしていいですよ。結婚は十八歳になったらしましょう」
落ち込んでいる良平に、桃花は優しく言葉をかけた。
今日の行動からこのまま独占され続けていれば良平と結婚することができ、桃花にはそれ以上嬉しいことはない。
一つ懸念があるとしたら、一緒にいすぎて結婚をする気がなくなることだが。
「仕方がないから諦めるか……」
良平はそう呟いて、市役所を後にするのだった。
☆ ☆ ☆
「……婚姻届けを出そうとした?」
「うん」
家に着いて市役所ことを詩織に話したら、これ以上ないくらい驚いている。
当たり前だ。まだ結婚できない歳なのにそんなことを聞かされれば、誰だって驚くだろう。
さらにはベタ惚れしている桃花が出そうとするならまだしも、脅されて付き合った良平から出そうとしたのだから驚きは倍増だ。
「お兄ちゃんは桃花のこと好きなの?」
「うーん、どうだろ……桃花を他の人に取られたくない気持ちはある」
「そう……」
これは桃花のことを好きだが、それを実感できていない、もしくは好きになりかけている可能性がある。
桃花ほどの美少女に誘惑されたら大抵の男は堕ちるだろうが、良平も堕ちはじめているということだ。
「結婚すれば流石に桃花に手を出す人がいなくなるだろう?」
「もう桃花に告白する人なんて皆無だけどね」
教室であんな大胆な告白をしたのだし、今や桃花に告白する人なんていない。
誰もか桃花は良平にベタ惚れ状態……そう思っている。
「とにかく他の人に渡したくないから、これからどんどん桃花を独占するんだ」
「お兄さん……嬉しすぎます」
良平はうっとりしている桃花を抱きしめて、それを見た詩織は嬉しつつもため息をついた。
現実の女性に一切興味を示さなかったから、詩織は良平が結婚なんてしないと思っていた。
だから良平が結婚しようとするのは嬉しいことだが、何もかもすっ飛ばしてしようとしたことに呆れてしまいため息をついてしまったのだ。
「お兄ちゃんって独占欲強いんだね」
「うん。桃花に対してはそうかもしれない」
良平が唯一興味を持っている女性は桃花で、彼女を何が何でも離そうとしない。
妹である詩織にも多少の興味があるかもしれないが、桃花に対する独占欲はその比でないと言ってもいいだろう。
「もう、幸せすぎてヤバいです。私の全てはお兄さんのものですよ」
「良かった」
彼氏に溺愛している桃花に良平はキスをする。
詩織がいるにも関わらずねっとりと濃厚で、見ているだけでも恥ずかしくなってしまう。
全くキスを止めない二人を見て、詩織はまたため息をつくのだった。
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