好き
「桃花って海外の血が混ざってるの? 髪なんて日本人とは思えないし」
自室でのんびりとしている時、良平はふと、桃花の髪が気になって聞いてみた。
普通の日本人で桃色の髪は考えられないから、身内に海外出身者がいると思うのが普通だろう。
「そうですね。おばあちゃんがヨーロッパの出身ですよ。私の髪はストロベリーブロンドと言って、天然は向こうでも珍しいって聞いてます」
ストロベリーブロンドとは赤みがかった金髪のことをさし、光が当たるとピンクに見えるのが特徴だ。
桃花が言うように非常に珍しく、全人口の一パーセントにも満たないと言われている。
しかも大人になると赤みが抜けたり、強くなったりすることが多く、桃花のように綺麗なピンクに見えるのは珍しい。
光が当たるとってことは、暗いとこでは綺麗な桃色に見えないのだが。
「顔は日本人っぽいけどね」
「似合わないですかね?」
「いや、本当にアニメキャラみたいでいいと思う」
良平が優しく髪を撫でてあげると、桃花は嬉しそうな顔をして瞳を閉じた。
そしてそのまま良平の胸に顔をうずめさせ、桃花は幸せを味わう。
「お兄さんって感情があまりないですけど、優しいですよね」
「そうか?」
「そうですよ。文句すら言わないじゃないですか」
「まあ、嫌ではないからな」
確かに良平は性行為以外については、桃花のことを受け入れている。
脅されて付き合ったら普通は愚痴の一つくらいは漏らすだろうが、良平は何も言わない。
そんな良平だからこそ、桃花はどんどんと好きになっていくのだろう。
「同じシャンプーを使ってるのに、桃花の髪は本当に良い匂い」
良平は桃花の後頭部付近に顔を近づけて匂いを嗅ぐと、彼女の顔は一瞬にして顔を赤く染まった。
女の子特有の匂いのせいだと思うが、本当に自分の匂いと違いすぎる。
自分の匂いなんて良くわからないのだけど。
「私の匂い臭くないですか?」
「臭かったら嗅ぐなんてことはしない」
「それもそうですね。本当に嬉しいです」
最愛の人が少しでも自分のことを良いと思ってくれるのだから、桃花にとっては幸せだろう。
「この髪を触るの癖になりそう」
「いっぱい触ってください」
今まで髪なんて何とも思ってなかったが、桃花の髪を見ていると触りたくなる。
撫でるように優しく触ると、桃花な何故か甘い声を出した。
「どうした?」
「お兄さんにされること全てが気持ち良いんですよ」
髪に感触があるわけではないが、桃花には髪を触られるだけでも感じるようだ。
「髪って味するのかな?」
「お、お兄さん?」
試しに舐めてみたのだが、思っていた通り味がない。
髪なんだから当たり前のことだけど、匂いからして甘い味がしても良さそうなものだと、少しだけ良平が思ったのは桃花には秘密だ。
「めちゃ触れ合ってるのに髪を舐められるの恥ずかしいの?」
桃花の顔は湯気が出そうな勢いで真っ赤に染まっている。
「恥ずかしいですよ。普通は恋人同士でも髪を舐めたりしませんよ」
「そうなのか?」
良くわからなくて良平は頭を傾げるが、普通は彼女の髪を舐めたりしない。
本当に感覚が変なだけで、いくら髪フェチの人でも舐めることは中々しないだろう。
せいぜい見たり、匂いを嗅いだりくらい。
匂いを嗅ぐのも変だと思うが……。
「そうですね。でも、お兄さんが舐めたいと思ったら、いくらでも舐めていいですよ?」
「いや、見たり匂いを嗅いだりするのはいいけど、舐めたいとは思わないかな……」
照れながら言っている桃花の言葉を良平はバッサリと断りを入れる。
一瞬だけ寂しそうな顔をする桃花であるが、すぐにいつもの顔に戻った。
「でも、桃花の髪は好きだよ」
「……え──?」
好きという言葉に反応し、桃花の目が見開かれる。
今までは良いだったのに、今回は好きという言葉を良平が口にしたからだ。
「アニメみたいっていうのもあるかもしれないけど、このサラサラとした髪は魅力的。だからこの髪は好き」
良平は素直な感想を口にした。
「あ、あ……」
「桃花?」
綺麗な瞳にうっすらと涙がたまっていき、桃花は満面な笑みを浮かべる。
どこから見ても悲しくて浮かんだ涙じゃなくて、嬉しいから出た涙。
「初めて、お兄さんに……私のことで好きって言われました……。嬉しすぎて……どうにかなってしまいそうです」
「そういえばそうだな」
独占したいや良いと言ったことはあるが、良平は産まれて初めて現実の女性に好きと言った。
今ので嬉しさいっぱいなら、良平が本気で告白したら桃花は幸せで溢れるだろう。
髪という限定的な好きであるが、桃花にとってはそれだけで嬉しいこと。
「本当に、この髪で……良かったです……」
大粒ではないけれど、桃花の瞳から涙が流れる。
良平は指で涙をすくって、それを舐めてみた。
「しょっぱい……」
「涙ですからね……まさか舐めるとは思いませんでしたが……」
「何て言うか、もったいなかったから」
「もったいないって……髪も舐めましたし、お兄さんは赤ちゃんみたいです」
「桃花の全てを独占できるなら赤ちゃんにでもなろう」
「ふふ、どうなろうと私の全てはお兄さんのものです」
桃花は腕を良平の背中に回して抱きつき、この幸せな気持ちを味わうのだった。
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