妹の嫉妬
「あのさ……ご飯の時くらい離れたら?」
晩ご飯。良平と桃花はカフェの時のようにイチャイチャしながらご飯を食べてるから、詩織が白い目で二人を見ている。
良平が桃花の肩を抱いて引き寄せ、彼女が「あーん」てしたり、口移しで食べさせたりしてくるので、詩織はため息が止まらない。
「ん? 何で?」
良平の言葉に詩織は絶句する。
桃花からじゃなくて、まさか良平の口からそんな言葉が出るなんて思ってもいなかったからだ。
「何でってイチャイチャさせられてるとこ見せつけられたら、めっちゃウザいよ」
他の人がイチャイチャしていれば、周りからしたらストレスがたまるだろう。
「今日行ったカフェでは、皆こんな風にしてたけど」
「あそこに行ったんだ……」
詩織もカップル御用達のカフェを知っている。
「詩織は行ったことあるの?」
「ないよ。彼氏いないし」
思っていた通り、詩織に彼氏はいない。
クラスメイトに詩織のことを紹介してと言われたが、良平は面倒くさいと思っていて紹介する気が全く起きない。
「詩織ちゃんは彼氏欲しいと思わないの?」
「特に思ってないかな。桃花みたいになると思うと嫌……」
「酷くない?」
「酷くないでしょ」
妊娠したと嘘をついてまで良平と付き合ったのだし、このイチャイチャも彼女が脅してやっていると思っていそうだ。
彼氏にベタ惚れになるのはいい……でも、詩織には桃花みたいになるなんて考えられなかった。
「桃花を悪く言うな」
再び絶句する詩織。
少しだけど感情が込められた声で、詩織は今まで良平がこんな風になることは見たことがなかった。
物心ついた頃からほとんど無表情、声にも全然抑揚がなく、そんな兄が桃花を悪く言われて怒りを露にしたのだ。驚かない方がおかしい。
「お兄ちゃん、どうしたの? 熱でも出た?」
驚いたと同時に少し心配になってしまう。
「熱なんて出てないから」
良平は「何なんだ?」と呟いて、桃花の顔を自分の胸にうもれさせた。
それはまるで桃花には俺がついているから大丈夫だという想いが込められているようにも見える。
「お兄ちゃん、本当に桃花のことを妊娠させるんじゃないの?」
今の様子を見ていると、近いうちに桃花の言葉が現実になりそうに思えてしまう。
どこから見ても二人はバカップルであり、部屋に行ったら行為を始めてしまいそうなほどだ。
「お兄さんの子供欲しい……そして結婚……」
確実に妊娠した時のことを想像していて、桃花はうっとりとした表情に。
「桃花には結婚してから妊娠って言葉を知らないの?」
「お兄さんと結婚できるのであれば、どっちでもいい」
桃花の言葉に「そう……」と頷いてから、詩織は残りのご飯を食べた。
☆ ☆ ☆
「ふぅ~……」
ご飯を食べ終わり後片付けを済ませた詩織は、ため息をついてリビングのソファーに座った。
そしてスマホに届いたメッセージの返信をしていく。
「将来は桃花のことをお義姉ちゃんって呼ぶことになるのかな?」
ふと、独り言を呟いてしまう。
先ほどの光景を見た限りだと、桃花が脅してイチャついているようには見えなかった。
それどころか良平が桃花に好意を持ち始めてもおかしくないほどに。
良平が現実の女の子に興味を持ってくれるのは嬉しいこと……なのだが……。
「桃花が親しくしだしたのは最近なのにな……」
自分は何年も一緒にいて兄の感情を引き出すことはできなかったのに、桃花はたった数日で少しだけだが良平の感情を引き出した。
それに嫉妬せずにいられない。
もちろん良平は血の繋がった兄だから恋愛感情があるわけじゃないし、これからも異性として意識することなんてないだろう。
だから良平が彼女を作るのは問題はない。
でも、詩織には良平が桃花のために感情を出したのが羨ましかった。
「よし……」
詩織は何かを決心したかのように立ち上がり、音を立てないように歩き出した。
そろ~り、そろ~りと、詩織はゆっくりと部屋に向かった。
そしてドアに耳を当てて、中の様子を伺う。
ドアの奥には良平と桃花がおり、どうしているか気になってしまったのだ。
こんなことをするのは良くないとわかっているが、聞き耳をたてずにいられなかった。
「あぁ……お兄さん……気持ちいい……はぁん……」
桃花の甘い声が聞こえてきて、詩織は驚いてしまう。
こんな声が聞こえてきたということは、思っていた通り本当にしているのだろうか?
いくら良平の感情が希薄とはいえ、桃花のような美少女から誘惑されたら欲情しても不思議ではない。
付き合いだして数日だけど、桃花は良平の子供を欲しがっている。
二人きりだと誘惑しているに決まっているだろう。
「あ、お兄さん……きます……きすよぉ……」
これは間違いなくやっていると思ってしまった詩織。
普通にイチャイチャしているだけではこんな声なんて出すはずがないし、これは子供を作る時に出す声だ。
流石にこれ以上聞く耳をたてるのはまずいと思った詩織は、顔を真っ赤にしながらその場から去っていく。
「はあぁぁ……やっぱりお兄さんに噛まれるの好きです」
良平が桃花に噛みついた時に出た声だとは、詩織は知るよしもなかった。
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