彼女は独占されたい

「うーん……」

「どうしたんですか?」


 お風呂から上がった後、桃花とイチャイチャしながらも、良平はあることを考えていた。

 それは、もし桃花のことを好きになったらどうなるのか……だ。

 先ほど別れない証拠のためにキスをしたが、良平は自分からキスをするなんて思ってもいなかった。

 キスは愛情表現の一種であるけど、それは口の中の細菌を交換するようなもの。

 でも、桃花とのキスは嫌だとは感じなかった。


「詩織がさ、俺が桃花のことを好きになったら離れられなくなるって言ってたじゃん?」

「言ってましたね」

「本当になるのかなぁって思って」

「なってくれるのであれば、私としては嬉しいですけどね」


 良平が好きになった時のことを想像したのか、桃花は物凄くだらしない顔になっている。


「離れられなくなるってのは今の桃花みたいになるってことだ。俺がそうなるなんてまだ想像できない」


 確かに興味はあるが、離れられなくなるまでではない。

 それに桃花みたいになるってことは、他の異性と仲良くしてほしくないと言っていたことから、独占したくなるってことだ。

 本当にずっと一緒にいて、妊娠させようとするのだろうか?


「もし、俺が桃花のことを独占したいと言ったらどうする?」

「喜んで独占されます」


 考えるまでもなく即答だった。

 惚れるきっかけがあったとはいえ、桃花の良平に対する愛は相当だ。

 学校で妊娠したと嘘を言ってまで周りに良平のことを好きだとアピールし、写真を使ってまで付き合うことに執着した。


「お兄さんは私の全てを独占していいんですよ。私の身体、性格、これからの時間全てを……何もかもお兄さんのものです」


 その言葉はとても嘘とは思えない。

 本当に全てを良平に捧げて、一生離れることはないだろう。


「そうか。ありがとう」

「お兄、さん……?」


 お礼を言われるなんて思ってもいなかったのだろう、桃花は目を見開いて驚いている。


「こんな俺のことを好きになってくれたんだ。お礼くらい言っても不思議ではないだろう」

「えへへ、えへへへへぇ~……」


 先ほどよりさらにだらしない顔になっていき、桃花は良平の胸に自分の顔をうずめた。

 病的に依存している桃花にとって、良平からお礼を言われるのは物凄く嬉しいこと。


「俺は桃花に何もしてあげれてないのに、こんなにも好きになってくれるよね」

「イチャイチャしたり、キスしてくれたりするじゃないですか」


 確かにそうだが、それはほとんどが桃花から望み、良平がそれを受け入れているだけにすぎない。

 良平から桃花に何かするということはほとんどしていない。

 土曜日にするデートも良平が観たい映画を観るのであって、桃花はそれに付き合ってくれるだけ。

 もちろん桃花にとってはデートできるだけで嬉しいと思っているだろうが、映画は完全に良平の自己満足。


「そうだけど、桃花はそれでいいんだ? 俺は何もしてないのに」

「はい。でも、私のお願いを聞いてくれたら嬉しさは倍増です」

「お願い?」


 桃花は頷くと、自分の首筋にある髪をどかした。


「私の首に歯形をつけてください」

「歯形を?」


 思っていなかったお願いに、少しだけ良平は目を点にする。


「はい。同人誌でヒロインが主人公に歯形をつけてたじゃないですか?」

「そうだな」


 同人誌の内容を思い浮かべると、あいかは独占したくてそんなことをしていた。

 思い切り歯形がついていたので、とても痛そうだったが。


「私は独占するというより独占されたいという気持ちが強いので、読んだ時に歯形をつけてほしいと思いました」

「でも……」


 お風呂に入った時に見たが、桃花の肌は一切のシミなどがなく、汚れていない。

 そんな肌に歯形をつけるとなると、いくら良平でも抵抗がある。


「お兄さんが絶対に嫌だと言うのであれば我慢します。でも、少しでもつけていいと思うのであれば、歯形をつけてほしいです」


 学校では会うことができないので、歯形で自分は良平のものだということを実感したいのだろう。

 そもそも歯形をつけられたいという女性は少ないだろうが、それを桃花はしてほしいということだ。

 同人誌を見た時に言わなかったのは、流石に断ると思っていたからだろう。


「まあ、桃花がそれを望むのであれば」

「はい。お願いします。しっかりと残ってほしいので、思い切り噛みついてください」


 首筋に近づいていき、良平は強みに噛みつく。

 人に噛みつくなんて初めてしたから加減なんてわからないが、これくらいでいいんだろうか?

 悲鳴みたいな声を上げているから、少し加減した方がいいのかもしれない。


「んん……もっと、強くしてください……」


 痛いはずだが、まさかの言葉だった。

 首筋に噛みついてあるから桃花の表情を確認できないが、問題なさそうなので良平はさらに力を入れて噛みつく。


「はぁん……もっと……もっと強くていいです」


 悲鳴から甘い声に変わっていき、さらに強くしてほしいとおねだり。

 痛みからなのか良くわからないが、桃花は少し身体を震えさせている。

 いや、これは確実に痛みで震えさせているわけではなさそうだ。

 痛みのせいでなっていたら、もっと強くしてほしいなんて言わないだろう。


「ああ……痛いのにお兄さんから与えられている痛みだと思うと、気持ち良くなってきます」


 どう反応すればいいかわからない。

 この震えは気持ち良さからきているものなようだ。


「はぁん……何か、何かきます……」


 今までで一番大きく身体を震えさせ、桃花はぐったりとしてしまう。

 心なしか少し息も洗い。


「大丈夫?」

「はい。とっても気持ち良かったので、毎日してほしいです」


 本当に予想外の反応過ぎる。

 毎日つけてほしいということは桃花は完全にドMであり、痛みが快感になる人種だ。


「痛くないの?」

「凄い良かったです」


 うっとりとした表情で、桃花は歯形ができたとこを触っている。

 良平には何で良いのか意味不明だが、桃花にはこれがいいのだろう。


「はぁぁぁ~……お兄さんに傷物にされちゃいました。今日も寝れないかもしれません」

「お弁当食べたいから寝てほしいんだけど」


 詩織の料理も美味しいが、桃花のお弁当を食べたい。


「はぁーい。でも、幸せ過ぎてヤバいんです」


 結局、歯形をつけられた余韻に浸りすぎて、桃花が寝た時間は良平より遅かった。

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