初デート 映画

「えへへぇ~、お兄さんと初デート」


 土曜日。良平と桃花はデートのために、映画館に訪れていた。

 映画館は家族連れやカップルが多く、少し面倒だと思う良平。

 何故なら人々というかほとんどの男が桃花のことを見て、彼氏である良平に殺意の込められた視線を向けてくるから。

 可愛い女の子がデートのためにお洒落をしているのだから、周りが桃花のことを見ても仕方ないだろう。

 でも、殺意を込めた視線を向けてくるのは勘弁してもらいたい。


「上映時間までまだあるから、椅子に座って待ってよう」

「はい」


 もう飲み物やお菓子は買ってあるから、時間まで待っているだけ。

 椅子に座ると、桃花は良平の肩に自分の頭を置いてイチャイチャ。

 そして良平は桃花の肩に手を置いて、さらに自分に引き寄せる。

 少しでも離れてしまったら桃花に声をかける連中がいるだろうし、面倒になるから彼女を離さない。

 バカップルだと思わせ、桃花にナンパしてくる男を近づけさせない作戦だ。

 人とあまり話さない良平に、ナンパの追い返し方なんてわからない。

 だからこうして良平からもくっついて、声をかける連中を遠ざける。

 実際に効果があるようで、チャラそうな人たちはもう桃花のことを見ていない。


「悪いな。桃花には退屈になるかもしれないけど」

「大丈夫です。お兄さんと一緒というのがいいんですから」


 今日観る映画は男性向けのアニメなので、間違いなく桃花は興味を持たない。

 桃花についてはイチャイチャ出来ればいいだろうから、ずっとくっついていればいい。


「そうか」


 そう言いながら頭を撫で、二人は時間まで過ごした。


☆ ☆ ☆


 入場開始時間になり、良平と桃花は指定されている席に座る。

 数日前の予約だったから席は端の方になってしまったが、観れるとこなので問題はないだろう。

 当たり前だけど来ている客はほとんどが男で、桃花以外に女性の客はほぼいない。

 人気アニメの映画化ということで、男の客で満席に近い状況なのだが。


「桃花ってよくナンパされるの?」

「駅前とかに一人で来たらされますね。でも、いきなり聞きましたね」

「皆、桃花のことを見てたから」


 まだシアターが明るいから桃花のことを見ている人がおり、彼女の可愛さが伺える。

 良平にもっと感情があったら自慢したいと思ったかもしれないが、見られるのは非常に居心地が悪い。

 何故、リア充がこの映画を観に来ているんだ? という視線が向けられ、フラストレーションがたまってしまう。


「まあ、私は目立ってしまいますから」


 可愛いのもあるだろうが、桃色の髪はどうしても目に入る。

 同人誌の即売会とかで売り子をやったら、物凄く人気が出そうだ。

 桃花は良平にだけに見られたいので、売り子なんてやらないだろうけど。


「そうだけど、何だかな……」


 普通に注目を浴びる以外に、異性に桃花を見られるのは少し嫌な感じがした。

 それが何故だか、今の良平にはわからない。

 もちろんそれが良平の勘違いという可能性もあり、今はそこまで気にする必要はないだろう。


「ふふ、本当にいい感じですね」


 表情には出ていないはずだけど桃花は何かを感じとったのか、笑みを見せてくれる。

 桃花は詩織より人の心理を読み取ることに長けているようだ。


 数分がたって予告が流れて、映画の本編が始まった。

 最初は桃花も映画を見ていたのだが、やっぱり興味がないようで良平のことを見始める。

 映画館で携帯などを弄るのはマナー違反であるから、桃花には良平を見るしかできない。


「桃花、退屈だったら俺の膝の上に座っていいよ」


 良平が耳元で呟くと、桃花の顔が真っ赤に染まっていく。


「い、いいんですか?」

「いいよ。映画を観ることはできるし」

「では、失礼して」


 後ろの人の邪魔にならないように、桃花は良平の膝の上に座る。

 それによりふわりと香る女の子特有の甘い匂い……数日前には全く気にならなかったが、今は少しだけ気になってしまった。

 何故だろう? いくら考えてもそんなことはわかるわけもなく、映画の序盤が過ぎた。


☆ ☆ ☆


「桃花」

「何ですか?」


 映画の終盤……色んな伏線が回収されて、物語のクライマックスで一番盛り上がるとこ。

 それなのに話しかけてきたからか、桃花は少し驚いたような顔をする。


「首に噛みついていい?」

「……え?」


 良平からそんなことを言うなんて思ってもいなかったのだろう、桃花の目が点になる。

 それにいくら暗いとはいえここは二人きりではない……だから桃花はフリーズしてしまう。


「噛んでいい? しっかりと歯形をつけたい」


 朝につけたのだが、歯形はすぐに薄くなる。

 この映画のジャンルがラブコメというのもあるかもしれないが、良平は桃花に歯形をつけたいと思ってしまった。

 ヤンデレヒロインに影響されたのだろう。


「本当にいい傾向です。いっぱいつけてください」

「んじゃあ早速」


 桃花の髪をどかしてから思い切り噛みつく。

 どんなに快感になるといってもやっぱり痛いのだろう、桃花は顔を少ししかめる。

 でも、それはそんの数秒で。


「はぁん……んん……」


 すぐに気持ち良くなったようだ。

 声は映画の音でかき消されて他の人には聞こえていないが、無意識に口を手で抑える。

 甘い声は良平以外の人に聞かせてたくないなどと思っているのだろう。


「お兄さん……んん……」


 いつもなら桃花が身体を大きく震わせたら止めるのだが、今回は止めることがない。

 それどころかさらに力を入れて噛みつき、それが桃花を快感に溺れさせる。


「ごめん。ちょっとやり過ぎた」

「いえ、物凄く嬉しいです。これなら妊娠できる日も遠くなさそうですね。そしてお兄さんと結婚します」


 本当に妊娠願望が強いなと思い、良平は映画の続きを観た。

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