もしかしてリア充?

 良平が教室に着くと、クラスメイト──特に男子たちがこぞってやってきた。


「佐藤の恋愛術を教えてくれ」

「是非とも妹を紹介してください、お兄様」

「いきなり何?」


 今までこんな風に話しかけられたことがなかったので、良平は思わず反応してしまった。


「皆、どうやって神崎さんと付き合うことができたか気になるんだよ」

「そんなことを言われてもな……」


 恵里菜も気になるのか、男子たちにさらっと混ざっている。

 告白してきたのは桃花の方だし、寝ながら抱きしめてしまったから惚れたなんて言えるわけがない。

 桃花は今までどんな告白も断ってきたから気になるのは仕方ないが、そんなことを聞かれても困る。


「恋愛術に関しては何とも言えないし、詩織の紹介は本人に聞いてみないとからわない。それとお兄様とか呼ぶな、気持ち悪い」


 本人の了承なしで、連絡先を勝手に教えるわけにもいかないだろう。

 詩織の口から彼氏がほしいとか聞いたことがないが、そもそもいるのだろうか?

 ナンパ避けに良平を連れていくくらいだから、彼氏はいない可能性のが高い。

 詩織については流石に家族だから良平も大切に思っており、男を紹介するのには慎重になる。

 身体目的で近づいてきた人を紹介するわけにはいかないのだから。


「一つ言えるのは俺から告白したわけじゃないから、俺が教えることは何もない」


 絶対に良平から告白したと思っていたようで、クラスメイトたちは目を見開いて驚いている。


「まあ、あの様子を見ていたら神崎さんのがベタ惚れっていうのがわかるよ。いいなぁ、私もあんなに好きになれる彼氏ほしいな」


 頬を少し染めながら、セミロングのサラサラとした亜麻色の髪先を指でくるくるとさせている。

 鈍感な良平にはわからないが、確実に恵里菜はあざとい。

 桃花ほどではないにしろ、可愛らしい容姿をしているし恵里菜もモテるだろう。


「彼氏くらいはできるんじゃないか? えっと……」


 名前が思い出せないのか、恵里菜を見て考え込んでしまう。


「三司恵里菜だよ。昨日自己紹介したよね?」


 未だに名前を覚えない良平に不満で、恵里菜は頬を膨らます。


「そうだった。彼氏くらいはできるんじゃないか? みつか……言いにく……恵里菜は可愛いんだし」


 現実の女性にほとんど興味を示さない良平であるが、可愛い、可愛くないくらいは思う。

 ただ、どんなに美少女が誘惑しても無意味なだけ。

 だからなのか普通に可愛いとか言う時がある。


「言いにくいって理由で名前を呼ばれたのは初めてだよ……」


 三司という名字はそんなにいないが、そんな理由で名前を呼ばれるなんて思っていなかったようだ。


「でも、ナチュラルにそんなことを言うんだね。だから神崎さんは良平くんのことを好きになったのかな?」

「良平くん?」

「うん。そっちが名前で呼んでるんだし、私だって名前で呼んでいいよね?」

「まあ、いいけど」


 別に名前を呼ばれるくらいは何とも思わないので、何も問題はない。

 両親以外に名前を呼ばれたことが初めてということがあり、良平が少し反応しただけだ。

 こうやって良平が反応しているのは、桃花のおかげだろう。

 少し……少しずつではあるが、こうやって反応するようになってきている。

 感情を面に出すのはまだ先になりそうだけど。


「もう名前を忘れないでね、良平くん」


 そろそろ予鈴がなるからか、恵里菜は自分の席に戻って行った。


「神崎さんだけでなく、クラスのマドンナである三司さんと親しげに話すなんて羨ましいぞ」

「そうだそうだ。リア充は爆発しろ」


 桃花がいるからあんまり目立っていないが、恵里菜はこのクラスで一番の美少女だ。

 あんな可愛い彼女がいるのに恵里菜とも親しく話している……クラスの男子から色々言われても仕方ない。


「物凄く面倒くさい……」


 こんな風に人が寄ってくるだけでもなれていないのに、これ以上何かと言われるのは勘弁してほしい。

 色々聞かれるのは面倒なので、良平から聞いてみることにした。


「今度デートに行くんだが、どこかいいとこあるか?」


 映画を観ることは決まっているが、それ以外のプランはない。


「俺は純情なチェリーだからそんなことは知らん」


 絶対に純情なのは嘘だろう。

 下心があるから近づこうとしても、女性から嫌われてしまうんだ。

 クラスメイトが嫌われるのは良平にとってどうでもいいことなのだが。


「というかデートしたことないのか?」

「今は一緒に住んでいるから、家でイチャイチャしてることが多い」


 一緒に住んでいるという言葉に、クラスメイトは絶句してしまう。

 そして「同棲……毎晩あんなことやこんなことを……」などと言いながら、泣いている人までいる。

 クラスメイトが思っていることは何もしていないが、一緒に住んでいると言ったのは失敗だっただろう。


「てか俺は人と話すのになれていないから、少しずつ聞いてほしいんだが……」


 一気に聞かれたら、良平じゃなくたって面倒になる。

 恋愛術に関しては話すことはできないけど、少しくらいなら話すことは可能。


「リア充なんだから文句を言うな」

「そうだ」


 このやり取りは、先生が来るまで続くのだった。

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