好きになったら
「うーん……」
朝になり良平は起きて、いつもとは違う感覚に襲われた。
桃花が良平に抱きついて寝ているからだ。
初めて見る桃花の寝顔……とても可愛らしく、写真を撮って学校でオークションを開けば高値で売れるだろう。
もちろんそんなことはしないが。
「桃花、そろそろ起きて」
肩をさすって起こそうとしたけど、桃花は「うーん……」と薄い反応をするだけで起きる気配がない。
それどころか「お兄さ~ん」と寝言を言い、さらに力を入れて抱きついてくる。
まるで夏休みの自分を見ているようだと良平は思ったが、そろそろ起こさないと学校に遅れてしまう。
本当にヤバい時間になったら詩織が来てくれるだろうけど、余裕を持って学校に行きたい。
どうやって起こそうか考えた結果……。
「起きてくれたらキスするよ」
「おはようございます」
一瞬で起きた。
「お、おはよう」
これで起きるとは思わなかったが、起きてくれたので良しとしよう。
「お兄さん、キスしてくれるんですよね?」
どうやらキスという単語に反応して起きたようで、それをおねだりしてきた。
そして良平からのキスを待つかのように、そっと瞳を閉じる。
「するの?」
「はい。お兄さんから言ったんじゃないですか」
確かにそう言ったのは良平なので、ここでやらないと言っても桃花からしてくるだろう。
良平は「わかった」と頷いて、ゆっくりと桃花に顔を近づけていく。
「んん……」
朝だから軽く触れる程度のキス……それは以前にした時より何故か桃花の想いが伝わってくるかのようだ。
それは良平が桃花に興味を持ち始めた影響だろう。
このままいけば詩織が言っていたように、桃花によって良平はもっと感情を持つようになるかもしれない。
「……んん……お兄さん……」
良平からしてくれたことが嬉しいのか、桃花は幸せそうな顔になる。
離れたくないのだろう、良平の頭数を抑えてもっとキスを求めているかのようにも見える。
「お兄ちゃん、桃花、そろそろ起きないと……」
前に桃花が泊まった時と同じように、詩織が部屋に入ってきて、二人を見たまま止まってしまった。
まさかキスをしているとは思ってもいなかったのだろう。
詩織は「ごめん、今度からノックしてから開けるようにするよ」と言いながら、ゆっくりとドアを閉める。
「えへへ。お兄さんからキスしてくれました」
「途中で思い切り詩織が部屋に入ってきたけどな」
「そうなんですか? 気づきませんでした」
キスに夢中になっていたために、桃花は詩織が入ってきたことに気づかなかったようだ。
「着替えて学校に行く準備するか」
「はい」
桃花は良平がいるにも関わらず、当たり前のように服を脱ぎ出す。
そんな桃花を見てため息をつき、良平も着替えるのであった。
☆ ☆ ☆
「まさかもうキスをしているとは思ってもなかったよ」
良平、桃花、詩織の三人は学校に向かっていた。
まだ遅刻する時間ではないので急ぐことはなく、桃花は良平の腕に抱きつきながら登校中。
「お兄さんからキスしてくれたので、幸せでいっぱい」
「お兄ちゃんから? 意外……」
脅されて付き合った良平からするなんて全くの予想外だったようで、詩織は目をパチクリとさせて驚いている。
「桃花が中々起きなかったから、キスをするって言ったら起きた」
経緯を知って、詩織は「ああ」と頷く。
良平にベタ惚れの桃花がちゃんと眠れなかったことを簡単に想像できたからだ。
「これから毎日キスをして起こしてくださいね」
「マジ?」
「はい」
別にキスをするのは嫌じゃないからいいのだが、毎日していたらどうなるか良平には全くわからなかった。
「うんうん。お兄ちゃんがいい感じになってきたよ。これなら現実に戻ってくる日も遠くないよ」
「ずっと現実にいるんだが……」
「そんなことないよ。お兄ちゃんが桃花のことを本気で好きになった時……きっと桃花以上にゾッコンになると思う」
確かに今まで感情が希薄だった分、愛を知ったら良平が桃花から離れられなくなる可能性がある。
全ての感情が桃花の方へいき、彼女の全てが欲しくなってしまうだろう。
「本当ですか? そうなったら結婚まで待ったなしですね」
「俺にはまだその未来が見えない……」
まだ愛を知らない良平にとって、そうなることが全く予想ができない。
「大丈夫です。私がお兄さんのことをゾッコンにしてみせますから」
桃花は良平にキスをして、周囲からの視線を釘付けにするのだった。
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