好きなところ
「えへへ……えへへへへ~……」
「ニヤけすぎ」
「だって嬉しいんですもん」
良平と桃花はそろそろ寝るために、ベッドに入っている。
一緒に寝れることが嬉しいのか、桃花はさっきから口元が緩みっぱなし。
「ベッド狭くない?」
「問題ありません。お兄さんとくっつけますから」
学校では一緒にいれる時間が少ないので、家にいる時はなるべくイチャイチャしていたいのだろう。
一人用のベッドに二人で寝るのは少し窮屈だが、良平が桃花のお願いを断ることはない。
どんだけ桃花にくっつかれても寝ることができるから。
「お兄さんの身体温かいです。もっと感じたい」
既に密着しているのにも関わらず、桃花はさらにくっつく。
腕を背中に回し足も絡めてきて、これ以上ないくらいに密着している。
色仕掛けをしても良平には意味がないとわかっているのだが、やっぱりくっつきたい。
思春期なのだから、好きな人に触れたいと思うのは普通のことだ。
「くっつく分には全然いいんだけど、寝れなくても責任は取らないからね」
「大丈夫です。それとも寝れないようなことをしてくれるんですか? 私としては凄く嬉しいですけど」
「しないよ。俺は寝たいから」
「連れないですね」
わかっていたことだが、良平は桃花の身体に全く興味を示さない。
普通の男が桃花と一緒にベッドにいたら、まず間違いなく襲っているだろう。
「俺に色々と期待されても困る」
「そうですね。でも、そんなお兄さんのことが好きすぎてたまりません」
良平自信感情が希薄だから、相手の考えていることなんてわからない。
だから桃花を満足させることなんて出来そうにないし、どうすればいいのかもわからない。
もしかしたらしばらくして別れるって言う可能性はゼロではないが、この様子だとほぼないと思っていいだろう。
それほど桃花は良平のことを好きなのだから。
「俺は少し桃花に興味が出てきた」
「本当ですか?」
「うん」
興味が出たと言われただけで、桃花はあり得ないほど嬉しくなってしまう。
興味を示してもらうだけでもかなり時間がかかると思っていたからだ。
「俺はこんな性格だし、ずっと彼女なんて出来ない……というかいらないとすら思ってた。脅されてとはいえ付き合うことになって、それでも別れたいとは思っていないから興味くらいは持つ」
脅されていなかったら付き合うことはなかったが、別れたいとも思わないのは桃花には何か魅力があるからなのかもしれない。
その魅力が何なのかはわからないし、わかるまで時間がかかるだろうけど、その何を知りたいと思ってしまうほど。
「それにこの髪は良いと思ってるかな」
「髪ですか?」
「うん。アニメキャラみたい」
良平は桃花のピンクの髪を触る。
ヨーロッパの方で稀にいるストロベリーブロンドと呼ばれる髪色だろう。
天然な桃色の髪なんて、それくらいしか思い付かない。
「産まれて初めてこの髪で良いと思いました」
「そうなの?」
「はい。ずっとこんな色だし凄い目立ってたんですよね」
周囲ではほとんど黒だし、いても茶色か金色。
そんな中で桃色の髪である桃花が目立たないはずがなく、そのせいで小学生の時は少し浮いていた。
今では浮くことなんてなくて、逆にモテるのだけど。
「染めたいとは思わなかったの?」
「そこまでは……別に虐められていたわけじゃなかったですし」
虐められなかったのは、桃花の性格が大きいだろう。
パーソナルスペースという、他人に近づかれると不快に感じさせる空間を桃花は感じさせない。
それと容姿が良いのも相まって、好きになってしまう男子が多いのだろう。
だから現実の女の子にほとんど興味がない良平ですら、こんなにも自然に桃花に触れることができる。
他の人に脅されたのでは、間違いなくこんな風にしていなかっただろう。
「お兄さんに触られるの好きです」
ゆっくりと目を閉じて、桃花は髪を触られる感触を楽しんだ。
アニメのキャラみたいというので髪が気になるのは少し府に落ちないが、良平が良いと言っているのてあれば些細なこと。
「同じシャンプーを使っているのに、何で桃花の髪はこうもサラサラなんだ?」
既に二人ともお風呂に入っており、使ったのは佐藤家にあるシャンプーやトリートメント。
なのに良平と桃花では髪の質感がまるで違う。
「髪は洗い方によって変わるんですよ。明日から私が洗ってあげましょうか?」
「いいの?」
それは良平と一緒にお風呂に入るということ。
「いいですよ。お兄さんといれる時間が増えて嬉しいですし」
裸を見られる恥ずかしさより、良平と一緒にいたいという気持ちのが大きいようだ。
「まあ、そういうことならお願いしようかな」
「はい。約束ですよ」
本当に幸せそうな顔をする桃花。
「俺は眠いから寝るね」
「はい。おやすみなさい」
幸せな気持ちのまま眠れれば良かったのだが、良平に興味があると言われて嬉しすぎ、しばらく寝ることができなかった桃花であった。
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