彼女と一緒に同人誌を読む

「土曜日は桃花と一緒に映画を観に行くから昼御飯はいいや」


 夕食後。良平、桃花、詩織の三人はリビングでのんびりとしていた。

 詩織は良平の言葉に「わかった」と頷き、出かけることを予想していたようだ。


「あ、日曜は予定開けておいてね。掃除するのと日用品とか買いに行くから」

「掃除とか面倒くさい……」

「私の部屋を用意するための掃除だったら別にいいよ? どうせお兄さんの部屋にずっといるし」

「ダメ。絶対に勉強しなくなるから」


 詩織の指摘は最もだ。

 今でも桃花は良平から離れないのだから、二人きりになったら絶対に離れることはない。

 そんな中で勉強をすることなんてないだろう。

 だから集中して勉強をする部屋は絶対に必要になる。


「まあ、しゃーないか」

「うぅ~……そうですね」


 一応、二人は納得したみたいだ。

 自分の部屋があったとしても、桃花はほとんど良平の部屋にいることになるとは思うが……。


「じゃあ、ずっと一緒にいれる今の内に部屋でイチャイチャしましょう」

「う、うん」


 二人は良平の部屋に向かう。

 そんな二人を見て、詩織は少しため息をつくのであった。


☆ ☆ ☆


「お兄さんってエロ本とか持ってます?」


 部屋でのんびりとイチャイチャしていると、桃花が突然質問をした。

 彼氏の好みとかが気になるのだろう。


「エロ本というか同人誌なら持ってるよ」

「同人誌ですか?」

「うん。アニメや漫画の二次創作品」


 現実の女の子に興味がない良平はエロ本なんて持っていなく、同人誌を数冊持っている程度。

 現実に興味がない影響なのか、良平は性についても希薄になってしまっている。


「読んでもいいですか?」

「いいけど」


 良平は本棚にある同人誌を取り出して、桃花の横に座る。

 本を読もうとすると、桃花が「こうやって読みましょう」と言い、良平の膝の上に座った。

 これでは良平が読みにくいが、既に内容は知っているから問題はない。


 同人誌を読み出して少しすると……。


「エロくないじゃないですか」


 少し不満があるようで、桃花は頬を膨らます。

 どうやら同人誌から良平の性事情を知りたかったらしく、十八禁のを読みたかったようだ。

 この様子を見ると、桃花の方が性に興味津々。


「エロいのは俺の年齢では買えないんだが……」


 十七歳の良平には法律上、買うことはできない。

 たまにスマホを使い見ることがあるので、スマホを見たいと言ってきたらヤバいが。


「お兄さんくらいの年齢だったら皆持ってそうですが……あ、もしかしてスマホですか?」


 今の時代はスマホで電子書籍として読むことができる。

 基本的に紙の本を好む良平だが、若干エロいやつはスマホで購入して読む。

 ちなみに今読んでいる同人誌は主人公とヒロインであるあいかが付き合っているという設定で、読んでて甘ったるくなるような話だ。

 良平はそういったものが好みなのだろう。


「スマホにもあるが、そこまでエロいってわけじゃないぞ」

「そうなんですか? お兄さんは本当に変わってます」


 二次元のならエロいのを持っていると思った桃花だが、良平はそれすら持っていなかった。

 同人誌は大人向けが多いけど、もちろん一般向けのも沢山ある。


「続き読む?」

「そうですね。せっかくなので」


 同人誌を読みたいというより、この体制だと良平に包まれているような感じになるので、それを堪能していたいという気持ちが強い。

 桃花は背中を良平にピタッとくっつけて、そのまま同人誌を一緒に読んだ。


☆ ☆ ☆


「同人誌って絵が綺麗なんですね」

「そうだな」


 パソコンで描けるからトーンや効果などが沢山使われており、下手な商業誌より絵が綺麗だ。

 同人誌は話より絵で売れるだろうから、作家は絵に力を入れる。

 もちろん話が面白いに越したことはないが。


「漫画を読んだ時から思ってましたが、あいかってヤンデレなのですか?」

「そうかもね」


 漫画の方では付き合っていないからそこまでではないが、この同人誌は完全にヒロインがヤンデレと化している。

 主人公の首に噛みついて歯形をつけたりするくらいに。


「お兄さんってヤンデレの女の子が好きなのですか?」

「うーん……俺は感情が希薄だから、こうやって感情を面に出せるのは少し羨ましい」


 良平は自分から望んで感情を抑え込んでいるわけではない。

 本当にほとんど何も思わないし、何か思うとしたら家族に何かあった時だろう。

 だからこそこんなにも人を愛せるヤンデレの女の子に興味がある。


「そうですか。でも、お兄さんが感情を面に出していたら、私は好きになっていなかったでしょうね」


 良平が他の人と同じようなら、桃花が部屋に忍び込むなんてことはまずなかった。

 感情が希薄だから驚いた顔が見たい、喜んでいる顔が見たい……桃花はそう思っている。


「だろうね。良くこんな難儀な性格をしている俺を好きになったものだ」

「本当ですね。もし、写真を消すと言ったら別れたいと思いますか?」

「いや、どんな理由であれ一度付き合うと決めた以上は別れることはしない。俺にとってデメリットが多かったら話は変わるけど」


 それは良平にとって、桃花が彼女であることにメリットがあるということ。


「良かったです」


 心底嬉しそうに、桃花は良平の胸に顔をうずめて温もりを味わった。

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