二人きりの夜
ご飯を食べ終わり、良平と桃花は自室でのんびりとしている。
今までの桃花だったら、この家にいる時はリビングか詩織の部屋にいたが、良平と付き合い始めたので、今は良平の部屋だ。
「そろそろ帰らなくて大丈夫か? 外はもう真っ暗だけど」
「お兄さんと離れたくなくて帰れません」
別に一緒にいる分には構わないので、良平は「そか」と呟いてからテレビをつける。
さらにはレコーダーを起動させて録画したアニメを見ようとした。
「お兄さんってどんなアニメが好きなんですか?」
「可愛い女の子が出てくるの」
予想通りの回答だったので、桃花もテレビを見る。
「一話から見るか?」
「いいんですか?」
「問題ないよ」
良平が再生ボタンを押すと、テレビにはこの前桃花が読んだ漫画のアニメが再生された。
「何か漫画と絵が全然違うんですけど」
「それは良くあることだから」
漫画とアニメでは描いている人が違うから作画も変わってくる。
できることならもう少し似せてほしいが、アニメを作るのは大変だろうから、絵柄が違うのはしょうがない。
桃花は今までアニメというのをほとんど見たことがないのだろう。
今見ているのだって良平が見ているからであって、そこまで興味があるわけではない。
脅して付き合ったのだから、アニメくらいは好きに見させてあげようと思っている。
そうしないと流石に不満が溜まってしまうだろう。
その内デートに行ければいいけど、今はこうやって一緒にいれるだけで幸せなので、全く問題はない。
☆ ☆ ☆
「続き見る?」
「お兄さんが見たかったらでいいですよ」
男向けのアニメだから桃花には合わなかったようだ。
途中からずっと良平のことを見ていたので、桃花にとってはアニメより良平。
「そういえばお兄さんの連絡先知らないので、交換しませんか?」
「わかった」
二人はスマホを取り出して、連絡先を交換した。
桃花は交換できて嬉しいのか「えへへ」と笑みを浮かべる。
普通の人だったらこれだけで恋に堕ちてしまうんじゃないかと思わせるくらいの破壊力だ。
「本当に帰らなくて大丈夫? 親とか心配するんじゃない?」
「うちの親は結構放任主義なんで大丈夫ですよ」
なら遅く帰ったとしても問題ないだろう。
「このままいると泊まりになりそうだから、家まで送ってくよ」
「……そうですね。着替えもないですし、明日は学校がありますしね」
離れるのが嫌なのか、桃花は少し悲しそうな顔をする。
元から泊まる準備をしていたり、週末などで次の日が休みであれば問題はないけど、今日は帰ってもらうことにした。
恐らく良平から言わないと桃花はずっと離れないだろう。
一晩中抱きつかれただけでこんなになるのだから少し不思議ではある。
良平にとってはその辺りはどうでもいいことなので、何も言わないが。
「詩織、これから桃花を家まで送ってくるね」
外に出る前に詩織の部屋の前まで行き、声をかけておく。
すると「わかった」と返事が来たので、二人は家を出る。
「付き合うってことは週末とか一緒に出かけた方がいいのか?」
「そうですね。私としてはデートできたら嬉しいです」
良平とデート出来るのであれば、桃花にとってこれ以上嬉しいことはない。
「アニメだけど観たい映画があるんだが、土曜に行くか?」
「もちろん行きます」
どこであろうと良平といれるのだから断る理由はなく、映画であればずっとくっついていられる。
だから桃花に断る理由がない。
良平にとっては映画を観たいだけかもしれないが、誘われるなんて思っていなかったようで、嬉しくて桃花の頬が少し赤くなる。
こうやって誘ってくれるってことは本当に嫌でないとわかるからだ。
「じゃあ、上映時間とか調べておくから、待ち合わせの時間は後日決めよう」
「はい。ありがとうございます」
しばらくは家でのんびりとしているものだと思っていたが、早速初デートの約束ができて、桃花の顔はニヤけている。
良平のことを考えるだけで想いが膨らんでいき、どんどん好きになっていく。
もし、良平の口から好きって言葉が出たら、どうなってしまうか桃花自身もわからない。
幸せすぎてさらに離れられなくなるだろう。
でも、やっぱり好きって言われたいし、両想いになりたい。
一応彼氏彼女になれたのだから、これから好きになってもらえるように頑張るだけだ。
時間はたっぷりとあるのだから。
「うう~……もう着いちゃいました」
楽しい時間は過ぎるのが早く、三十分なんて桃花にはあっという間だ。
離れるのが嫌なのか桃花は良平に抱きついており、帰ってほしくなさそうにしている。
「桃花はいつも何時くらいに学校に向かうの?」
「八時くらいですけど……」
ここからなら歩いて二十分ほどで学校に着くので、もう少し遅く出ても間に合うくらいだ。
「じゃあ、八時にここに来るから」
「いいんですか?」
「うん」
明日は妊娠について勘違いだったと説明してもらう必要があるから、一緒に登校した方が都合がいい。
「ありがとうございます。お兄さん、大好きです」
桃花は良平の唇に自分の唇を重ねた。
「ふふ、私の初めてのキスをあげちゃいました。では、また明日です」
明日も一緒にいれるからなんとか良平から離れることができ、桃花は自分の家に帰った。
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