追及
「お兄ちゃんいる?」
夕方になり詩織は帰ってきたと同時に、良平の部屋を訪れた。
少し息が荒く、急いで帰ってきたことが予想できる。
何かあったのだろうか?
「その様子を見るに告白は成功したみたいだね」
未だに良平にくっついている桃花を見て、詩織はそう言った。
「うん」
やっぱり詩織は桃花が告白するのは知っていたようだ。
本来なら兄と親友が付き合ったのだから祝福したいが、詩織は若干白い目で二人のことを見ている。
「何かお兄ちゃんが桃花を妊娠させたことになっているんだけど、どういうことかな? 私はお兄ちゃんとも桃花とも繋がりがあるからメッセで凄い聞かれるんだけど……」
流石に妊娠したことにするなんて言ってなかったようで、詩織は二人を、特に桃花を睨む。
学校の皆も驚いただろうが、詩織が一番驚いたことだろう。
何せ妊娠させたと言われる本人の妹なのだから。
「おかげでお兄さんと付き合えたよ」
「いや、そういうことを聞いているんじゃなくて……」
詩織はため息をついて呆れるしかなかった。
もちろん詩織には良平が桃花を妊娠させたことなんてないのはわかっている。
「桃花は妊娠したって嘘をついてまでお兄ちゃんと付き合いたかったの?」
「うん。そうだよ。迷惑をかけたことは謝るけど、お兄さんとどうすれば付き合えるかって考えたら、これしか思い付かなかった」
何故そうしたのかわかったが、納得はできていない。
確かに良平にはそこまでしないと付き合えないかもしれないけど、流石にやり過ぎだと思っている。
普通の女の子だったらともかく、桃花は学校中の人が知っているので、絶対に良平は何かしら言われてしまう。
いくら無表情の良平といっても流石に傷付いてしまう可能性があり、大切な家族であるからそれは避けたい。
「もちろん妊娠したっていうのは訂正するんだよね?」
妊娠が勘違いであれば、良平が強く言われることはない。
嫉妬とかはされるだろうが、何かされるということはなくなる。
「うん。お兄さんと付き合えたのだから、嘘をつく必要はないし」
「そっか。桃花はお兄ちゃんにベタ惚れ?」
「うん」
桃花は本当に良平のことを離さないと思わせるくらいに強く抱きつく。
それに桃花は妊娠したという嘘を良平と付き合うためだけについたわけじゃない。
「ここまで話題になっているのであれば、私に告白してくる人はいなくなるかな」
「そうだね。かなり減ると思うよ」
妊娠したと勘違いするほどに愛し合っているのであれば、どんな人でも告白しようと思わないはずだ。
男避けと思われるかもしれないが、良平のことは本気で好きだし、付き合えたのは純粋に嬉しいと思っている。
「話を聞く限りお兄ちゃんは桃花のこと好きじゃないみたいだけど、大丈夫なの?」
「まあ、嫌ってわけじゃないから。最初は断ったんだけど」
「そか。まあ、後悔しないようにね」
良平が納得しているのであれば、詩織から何か言うということはない。
むしろこれで現実の女の子に興味を持ってくれれば嬉しいことだ。
「私はお兄さんに妊娠させられても後悔はしないよ。むしろ結婚できるから嬉しい」
「いや、お兄ちゃんに言ったんだけど……」
桃花はどうしても良平の子供が欲しいように思える。
今まで付き合ったことないのだから、浮かれてしまっても仕方ないが、高校生の内にそこまで考える必要もないだろう。
思春期だから子供を作る行為に興味がある可能性もあるが……。
「俺は大丈夫だから、詩織が心配しなくていいよ」
「うん。お兄ちゃんがそう言うのであれば……」
良平は相変わらず無表情で何を考えてわからないが、嫌がっていないなら問題はないだろう。
「前から思っていたけど、詩織ちゃんってブラコンじゃないよね?」
「違うよ。家族として心配してるだけ」
「ならいいんだけど。いくら家族でもあまりにも仲が良かったら嫉妬しちゃうかもだし」
確かに良平と詩織は兄妹にしては仲が良い方かもしれない。
たまにだが、引きこもりの良平を荷物持ちやナンパ避けとして連れ出すことがある。
これからはそういったことはできそうにないだろうけど。
「どうせなら今日はうちでご飯食べてくか? お弁当のお礼に夕御飯ご馳走するぞ、詩織が」
「そこはお兄ちゃんがご馳走するところでしょ。私は桃花のお弁当を食べてないし」
「あはは。詩織ちゃんの料理は美味しいからね。私としてはお言葉に甘えたいな」
またしても詩織はため息をついてから、夕御飯の準備をしにキッチンに向かった。
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