写真

「いつまでくっついているんだ?」

「ずっとがいいですね」


 学校から帰ってきて良平の部屋にいるのだが、桃花が離れる様子はない。

 それどころかさらに密着して、自分の身体についた二つの大きく育った武器を押し付けている。

 恥ずかしい思いをして押し付けてるのに、全く無反応な良平を見て桃花は頬をリスのように膨らます。


「どうした?」

「別に何でもないです。お兄さんは女の子の胸に興味がないんだなって思っただけですよ」


 明らかに不機嫌な顔だ。

 それはそうだ。普通の男子高校生だったら胸を押し付けられたら絶対に嬉しいたずだし、女性特有の感触や匂いなどで何かしらの反応があってもおかしくない。

 それなのに良平の反応がないので、若干自信をなくしてしまいそうだ。


「胸に興味はあるぞ」

「まさか貧乳好きですか? 流石にそれはどうしようも……」


 桃花の大きな胸に興味を示さないのだから、良平は小さい人が好きなのかと思ったのだろう。


「桃花ってベッドに置いてあった漫画読んだでしょ?」

「読みましたね」

「あいかの胸は大きかったろ」

「確かにそうですね」


 桃花が読んだ漫画はヒロインの水着回があり、あいかの胸は桃花くらいあった。

 だから良平は決して貧乳派ってわけではない。


「じゃあ、何で私のには反応しないんですか?」

「二次元が好きだから」

「いやいや、二次元が好きでも普通は反応すると思いますよ」


 アニメが好きな人だって結婚したり恋人を作ったりするのはネットで調べて桃花も知っている。

 それに桃花は童顔、小柄、巨乳というオタクにはたまらない容姿だ。

 だから普通の女好きな男より、オタクの方が反応するかもしれない。


「そんなことはいいとして学校でのことだけど、何で子供ができたとか言ったわけ?」

「そんなことですか……まあ、今のお兄さんにはそっちの方が気になりますよね」


 ドキドキさせたいがためにやったのだとしたら、いくら何でも悪質すぎる。

 流石に桃花が悪戯や人を陥れるためにやったわけではないのは良平もわかっているので、何かしらの理由があるのだろう。


「お兄さんは私が普通に告白したら付き合ってくれますか?」

「付き合わないな。好きでもないし」

「ですよね。だからなりふり構わずいくことにしました」


 流石の良平にもここまで言われたら桃花がどう思っているのかわかった。


「私は……お兄さんのことが好きです」


 顔を真っ赤にしながら桃花は良平に告白をする。

 普通に告白しても結果は見えているから、学校で子供ができたとか言ったのだろう。

 周りにそういった関係だと思わせることで、告白を断りにくくしたということだ。

 そもそも同じベッドで一緒に寝たことはあるが、二人は子供ができるようなことは一切していない。


「俺を好きになるなんてビックリなんだが……」


 しかも相手は学校で一番モテると言っても過言でもない桃花だ。

 きっかけがあったとはいえ、良平みたいなオタクを好きになるなんて相当に驚いている。

 普通はあんな告白なんてしないだろうから、その本気度が伺えた。


「一日で二度もお兄さんの驚いた顔を見ることができてこっちもビックリです」

「そう……」


 驚いていたが、またいつものように無表情な顔に戻る良平。


「それで返事を聞かせてもらえますか?」

「付き合う気はない」

「即答ですか? 今頃は学校中で私たちのこと噂になってますよ。あの神崎桃花が妊娠? とか」


 確かにそうだけど、本当に妊娠したのであれば、そのうち身体に変化が訪れる。

 その変化がいつまでたってもでないのなら、本当は妊娠してないって思うはずだ。

 だったらそうなるまで待てばいいので、付き合う必要なんてない。

 それまで何か言われる可能性は高いが……。


「そもそも付き合うとか考えたことがないからな」

「そうですか……だからって諦める私じゃありませんよ。そもそも妊娠なんてそのうちバレる嘘だけで終わるわけないじゃないですか」


 桃花は鞄からスマホを取り出して操作をする。


「最近のスマホって暗くても鮮明に撮れるんですよ」

「え?」


 スマホの画面に写っているのは良平が桃花を抱き締めているところ。

 夏休みに泊まった時に撮ったのだろう。


「これが学校に出回ったらどうなるんでしょうね? 妊娠は嘘だとバレても一度抱いた私を捨てたとしてお兄さんは卒業まで何か言われ続けますね」

「……何故にそこまでするの?」

「何としてもお兄さんと付き合いたいからです」

「俺に好きという感情はないんだよ?」


 それは桃花にだってわかっているはずだ。


「そうですね。でも、付き合わないよりかはマシだと思いますよ」


 付き合っても何か言われるかもしれないが、この写真が出回って付き合わなかったら、もっとヤバいことになるのは目に見えている。

 何か言われるだけでなく、虐めみたいなことが起きるかもしれない。


「はあー、わかったよ。桃花と付き合う」

「わーい。よろしくお願いしますね。お兄さん」


 こうして二人の交際生活が始まった。

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