衝撃的な告白
九月。新学期になったので、良平と詩織は一緒に学校に向かう。
同じ学校なので基本的には一緒に行くようにしている。
今は夏服なので男女共に白で半袖のスクールシャツ。
男用は紺色のズボン、女用は白色で裾のところに黒の線が入っている。
ちなみに良平のネクタイは青で二年生、詩織のリボンは赤で一年生と学年によって色が違う。
「ここ数日、桃花がお兄ちゃんのこと鬼のように聞いてくるんだけど……」
「そうなのか?」
「うん。誕生日から好きな食べ物とか、お兄ちゃんに対することならなんでも」
良平は「ふーん」と特に興味はなさそうに呟く。
学校で一番可愛いと言われている桃花に好意を持たれているのにも関わらず、良平はそれに気づいていない。
ただ単にどうやってドキドキさせるかを考えるために聞いているのだと思っているようだ。
「本当に桃花は大変そう……」
良平の反応に詩織はため息をつくしかなかった。
☆ ☆ ☆
教室に着いたので、良平は自分の席に座る。
既にほとんどのクラスメイトがいて、夏休みに出掛けたこととかを話しているようだ。
夏休み中もほとんど引きこもっていた良平には無縁の話なので、スマホで時間を潰すことにした。
「皆聞いてくれ。神崎さんが夏休みに男と手を繋いで楽しそうに歩いていたらしいんだ」
一人の男子が教室に入ってくるやそう叫ぶ。
すると他の男子から「何ー?」という言葉がシンクロして発せられた。
これだけで桃花がどれだけ人気があるかわかる。
あれだけの美少女なのだから、学年問わず好きな人がいても不思議ではない。
手を繋いで歩いていたという男は良平のことだろう。
桃花を家に送る途中で手を繋がれてしまったのだから。
担任の先生が来るまで教室内は「その男は誰だ?」とか、「見つけたら埋めてやる」などとうるさかった。
☆ ☆ ☆
始業式、避難訓練が終わって放課後になった。
本日は午前中で終了となるので、クラスメイトは「これからカラオケに行こう」と話している。
「あ、お兄さーん」
良平が帰ろうとした時に聞き覚えのある声がした。
女性の中でも高めの声で良平が聞き覚えがある人は桃花しかいない。
案の定桃花が入り口の所にいて、「お兄さんって俺のことかな?」などと言っている人がいる。
桃花がお兄さんと呼ぶ相手は良平しかいなく、他の人のことは無視してこちらに向かって来た。
「桃花どうした?」
良平が桃花のことを名前で呼んだことにより、一気に視線が二人に集まる。
その視線には明らかに殺意がこめられていて、「何でこんな奴が?」と思っているのだろう。
「放課後に他のクラスに来るといったら一緒に帰るお誘いしかないじゃないですか」
朝以上に「何ー?」という声が教室内で響いた。
今までの桃花は誘われたことはあるが、こうやって異性を誘うことなんて聞いたことがないのだから、皆が驚いても仕方がない。
「何で? 家は近くないだろ」
遠いってわけでもないが、道を考えると早々に別れてしまうことになる。
どこかに遊びに行くのならともかく、帰るだけなら一緒に帰る必要はない。
「いいじゃないですか。お兄さんと一緒に帰りたいんですよ」
桃花が良平のことを誘っているので、クラスメイトは「ま、まさか佐藤が神崎さんと手を繋いで歩いていた相手」と思っているだろう。
「それにこれからのことを話さないといけないですし」
頬を赤らめて下腹部を手で抑えながらそう言う桃花。
良平は何のことかわけがわからず、頭にはてなマークが浮かぶ。
「じ、実は私……お兄さんの子供を妊娠してしまったみたいなんです」
「……は──?」
教室内が静かになり、時間が止まったような気がした。
「お兄さんが情熱的に抱いてくれたので、子供ができました。だから結婚しましょう」
桃花の言葉により今までで一番じゃないかと思われるほど、大きな声が響いた。
当たり前だ。学校でいきなり子供ができたと言われたら驚かない方がおかしいだろう。
学生の内に妊娠する人はいるだろうけど、教室で妊娠したと言う人がいるなんて誰も思わない。
クラスメイトの男子は血の涙を流しながら「佐藤を海に沈めよう」と言っている人や、壊れて発狂している人までいる。
「あはっ。お兄さんが驚いた顔を初めて見れました」
流石の良平も目を見開いてしまった。
いくら無表情の良平だとしても、いきなりそんなことを言われたら驚いてしまう。
「とりあえずどこかで話そうか?」
教室内で話すには人が多すぎるし、周りがうるさいので他の所で話した方がいい。
そもそも妊娠の話なんてこんなとこでするものでもないだろう。
「はい。お兄さんの家で話しましょう」
桃花は良平の腕に抱きついてきて、そのまま引っ張り教室から出た。
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