妹の友達の家に

「お兄さんと外で話すのは初めてですね」

「そうだな」


 あくまで顔見知り程度だったので、いつもは桃花が家に遊びに来たら少し話すだけ。

 だからこうやって家に送り届けるなんて初めての経験だ。

 今は夏休みでこれから出かける学生が多くいて、皆桃花のことを見ている。

 特に男の方は良平に殺意のこもった視線を向けており、「リア充は爆発しろ」などと呟く。

 もし良平がいなかったら既に声をかけられていただろう。


「お兄さんってあいかってキャラが好きなんですか?」

「あいか? 好きだけどいきなりだね」

「お兄さんが寝言であいか可愛いなんて言ってたので気になっちゃって……」


 やっぱり漫画のキャラかと思って安心する桃花。


「桃花の家ってどれくらいかかるんだ?」

「歩いて三十分くらいですよ」

「マジか……」


 インドアの良平にとってこの暑さの中、三十分も歩くのは結構しんどい。

 八月だけあって午前中でも気温が高く、もうすぐ三十度を超すんじゃないかと思うくらいだ。


「いつも無表情のお兄さんがあからさまに嫌な顔をしましたね」

「だって暑い……俺の身体がクーラーを求めてる」

「じゃあ、家に着いたら涼んでいいですから、きちんと送ってください」


 良平は桃花に手を引かれて家まで連れていかれた。

 その時に周りの男からさらに殺意がこもった視線を向けられたのは言うまでもない。


☆ ☆ ☆


「さあ、上がってください」


 桃花に手招きされて家に上がる良平。

 外見はどこにでもありそうな一軒家で二階建て。


「涼しくない……」

「お母さんいないみたいだからエアコンついてなくてもしょうがないですね。私の部屋で涼みましょうか」


 桃花は自分の部屋に入るとエアコンのスイッチを入れて、「何か飲み物を持ってきますね」と言いリビングの方に向かった。

 部屋は基本的にピンク色の物が多く、その色が好きなのだろう。

 流石にテレビなどの家電はピンクではなかったが。


「お待たせしました~」


 トレイには冷たい麦茶が入ったコップが二つあり、桃花はそれをテーブルの上に置いた。

 暑さで汗をかいていた良平は麦茶を一気に飲み干す。


「お兄さんって女の子の部屋に入るのは初めてですか?」

「そうだな。家族以外であれば初めて」

「それなのに全く緊張しないんですね」


 初めて同年代の女性の部屋に入った男性なら普通は何かしらの反応があると思うが、良平は行き慣れた友達の部屋に来たかと思うくらいにのんびりとしている。


「俺にそんなのを求められても困る」

「みたいですね。本当に肝が座っているというか何というか……」


 こんな性格だから良平には友達が少なく、学校でも一人の時が多い。

 一人でいることに寂しいと感じていないので、これからも一人でいるのだろう。


「じゃあ、俺はそろそろ帰ろうかな」

「ま、待ってください」


 良平は帰ろうとして立ち上がると、桃花に腕を捕まれて止められてしまう。


「せっかく来たのですしもう少し一緒にいませんか? 今出ても暑いですし」

「桃花がそう言うならいるけどいいの?」

「問題ありません。もし、お兄さんが私を襲うつもりなら朝の段階でしてるでしょうし」


 部屋はエアコンにより涼しくなってきているし、外に出るのも面倒だ。

 だからもう少しだけのんびりしていこうと考えた。


「ところで何する?」

「年頃の男女が同じ部屋にいるのだから、こうするしかないですよ」


 桃花は良平の腕に自分の腕を絡める。

 自分は深夜からドキドキしっぱなしなのに良平は全く反応がないので、少しでもドキドキさせたくて色々と試す。


「女の子の身体はどうですか?」

「色々と柔らかいな」


 やっぱり反応が薄く、大きく育った二つのマシュマロが当たっていると言うのにドキドキする様子がない。


「言ってることとやってることが矛盾してないか? これじゃぁ、襲えと言ってるようなものでは?」

「襲うんですか?」

「まさか。そんなことをしてる時間があるならアニメ見る」


 良平の言葉に桃花は「そんなに私って魅力ないですかね……」と呟いてから頬を膨らます。

 一般的に考えたら桃花に魅力がないだけでなく、良平の感覚がズレているだけ。

 このことから良平には色仕掛けが通用しないことがわかった。


「何で俺はこんなに感情がないんだろうな?」

「それは私が聞きたいくらいなんですけど……私は男の子とこんなことするの初めてでドキドキしているのに……」

「そんなにドキドキさせたいの?」

「はい」


 そして好きになってくれたら嬉しいな……と思ってしまったが、流石にそんなことは言えなかった。

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