妹の友達との朝
「な、何で……」
朝になり良平は起きたが、桃花を抱き締めていた。
昨日は漫画を読んでいる途中で記憶がないので寝落ちしたはず……だから桃花がいるなんて予想外だ。
「お兄さん、おはようございます」
桃花も起きている……というか一睡もできていなかった。
ずっと熱く抱き締められていたためにドキドキしてしまい、とても寝れる精神状態ではなかったのだ。
今は良平が起きているから、恥ずかしいという気持ちを悟らせないように平然なふりをしている。
それでも少しだけ頬が赤くなっているようだが。
「おはよ。何でいるの? というか何で俺は神崎さんを抱き締めているのだろう?」
「桃花」
「え?」
「桃花でいいですよ。男の人と一緒に寝たのは初めてなので、名前で呼んでほしいです」
照れながら言い、あえて特別感を持たせることによって良平のことをドキドキさせようと桃花は考えた。
「そう。何で桃花はここにいるの?」
でも、良平は全くと言っていいほど表情が変わらない。
それどころか今も桃花のことを抱き締めているのにも関わらず、感じる鼓動にも変化がなく落ち着いている。
「むう……何か府に落ちませんが、説明します。お兄さんをドキドキさせてみたくて深夜に忍び込みました。ベッドに入ったらお兄さんに抱き締められて今の状況になるということです」
「抱き締めた記憶がないんだけど」
「まさか寝ながら抱き締める人がいるなんて思ってもいませんでした」
今まで誰かと一緒に寝たことがないので自覚がなかったが、良平は寝相が悪いようだ。
寝ながら抱き締めるとか良平もするなんて思っていなかった。
実際に抱き締めているのだから、桃花が言っていることは事実なのだろう。
「そうか。ごめん」
「お兄さんが謝る必要はないですよ。元は私がお兄さんの部屋に忍び込んだのですから」
「それもそうか」
「少しくらいは反省してもいいと思うんですけどね……」
桃花が部屋に入って来なかったらこんなことは起きなかったが、抱き締めたのだから少しくらいは反省……というか顔を赤くしたりドキドキしてほしい。
昨日忍び込む前に詩織から言われてわかっていたことだけど、良平は現実の女の子に興味がなさすぎる。
寝起きとはいえ女の子特有の感触や匂いを良平も感じているのだから、普通だったら何かしらの反応を示すだろう。
だが良平はいつも通りで平常運転。
きっと良平は桃花ほどの美少女が普通にアタックしても振り向くことはないだろう。
「お兄ちゃん、そろそろ朝御飯の時間だよ。後、桃花がどこにいるか知らな……」
そう言いながらドアを開ける詩織だが、開けた瞬間に動きが止まってしまった。
それはそうだ。兄が親友のことを抱き締めているのだから。
「その……二人がそういった関係なのを知らずに開けちゃってごめんなさい。ごゆっくり」
詩織はそのままゆっくりとドアを閉める。
「勘違いされちゃったみたいですね」
「そうだな。取り敢えず着替えるかな」
「本当に無表情でマイペースですね」
良平が離れると桃花は部屋から出ていった。
☆ ☆ ☆
「今日は洋食なのか」
「そうだよ」
着替えが終わりリビングに行くとすでにテーブルには食事が用意されており、本日はトーストにハムエッグだ。
佐藤家は両親が仕事で家にいないため、詩織が食事を作ることになっている。
他の家事は分担してやったりするが、良平がアニメを観て忘れることが多いため、結局は詩織がすることになってしまう。
「それでお兄ちゃんはいつから桃花と付き合いだしたの?」
「付き合ってないんだが」
「はあ? 付き合ってないのに桃花に抱きついてたの?」
「そうなるな」
「お兄ちゃんってクズだったんだね」
詩織は良平のことを白い目で見る。
きちんと付き合っているんならともかく、付き合ってないのならそう思わずにはいられない。
「気づいたら桃花がベッドにいて抱きついてたんだが、クズなのか?」
「これは桃花から誘惑したパターンなのね。だから昨日お兄ちゃんのことを聞いたのか……」
桃花は部屋に忍び込む前に詩織から良平のことを聞いていた。
「聞いていたって?」
「ううん、何でもないよ。お兄ちゃんに春がきたんだなって」
「ん? 良くわからないが……」
「……これは桃花が大変そうだね」
詩織はため息をついて桃花の心配をする。
朝に見た時は明らかに桃花は嫌がっていなく、少なくとも好意はあるのかもしれない。
兄にはいい加減現実の女の子に興味を持ってほしいし、親友が恋をしたのであれば応援するつもりだ。
「お待たせ。朝御飯も美味しそう」
着替えた桃花がリビングまで来たので、三人でご飯を食べる。
「お兄ちゃん、ご飯食べたら桃花を家まで送ってあげて」
「何で?」
「何でって……桃花が外に出たらナンパされるに決まっているからだよ」
桃花の服は白いブラウスに灰色のスカートで、ふんわりとしたガーリーコーデに仕上がっている。
可愛い女の子がお洒落をしているのだから、声をかける男は後を絶たないだろう。
「お兄ちゃんは無表情でも外見が悪いわけじゃないからナンパ避けにはなるよ」
「そうですね。お兄さんが嫌でなかったら送ってもらいたいです」
「まあ、別にいいけど」
ご飯を食べ終わったら桃花を家まで送ることが決定した。
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