第39話
作った望遠鏡をのぞく。
精度は青森のレンズ工場のおっさんに見つかったら殴られるレベル。
それでも見えるのだからいいだろう。
望遠鏡のスコープ表示はドラグノフ。気分重視の極み。ミリオタじゃなくても美しいものは美しい。構造知らないから同じものは作れないけど。ちょっと調子にのった。
つい最近になって開発できたものだ。鏡があるのにちょっと変わったことしようとするとコレだよ。
顕微鏡も作ったので菌の存在を証明できた。なおヨウ素での細菌の染色方法は存在は知ってるけど、やり方は知らない。アイデアは伝えてあるので、そのうち誰かが開発するだろう。
とにかく望遠鏡をのぞく。ゴ●ラの姿が見えた。しかも羽が生えてる。
大きすぎて近くに感じる。遠近感が狂っている。スカイツリーとか東京タワーが遠くからも見えるのと同じだろう。
ドラゴンだといってもそんなに飛べない。単純に重いから。シロナガスクジラが陸で活動できないのと同じ理由かもしれない。また変なリアル寄りである。
ドラゴンの下では砂塵が上がっている。殿に合流した自動車部隊による迫撃砲だ。
列車砲の準備はできている。
なぜ時間稼ぎが必要だったのか?
それは汽車に使うお湯を沸かす時間がかかるからだ。内燃機関を作らねば。できればディーゼル。私の力ではこの辺が限界かなと本気で思う。エンジン難しい! 最初にエンジン作った人は本気でリアルチートに違いない。
四時間ほどかけてお湯を沸かし、準備は万端。
今度は渓谷へ誘い込む。
「魔法をはずしました」じゃすまない。連射ができるようなものじゃない。分散処理のせいで一発撃つのに四時間はかかる。絶対に当たる位置に誘い込むのだ。
そのために必要なのが列車砲による射撃と、余計なモンスターを減らしておくことだ。ドラゴン倒しても、モンスターが散らばってあちこちで被害が出たら嫌だからね。
私の頭の中で某怪獣映画の列車爆弾のシーンのBGMが再生される。テンション上がってきたぞ!
「では出発進行します」
私は護衛の近衛騎士にうながされ、列車に乗る。そして案内された士官用の席に座る。自分の席の近くには誰も座らない。どうやら周りは私をどう扱っていいかわからないようだ。
でも、ちょうどいい。内心列車がコケないか心配してるのを悟られたくない。実は膝が小刻みに震えっぱなしである。こえーよー!
なぜ作戦の要である私がこんな前線にいるのか?
それは単純なことである。
機械が壊れたときに修理するか廃棄するかの判断ができる人材が、私しかいないからだ。
いやいるのだが、産業学校の学生はほぼ平民だ。
ウィルやまーくんは貴人だが、ウィルは偉すぎるし、まーくんの専門は操縦だ。
私は女性だから本来ダメなんだけど……ほら、近衛騎士倒しちゃったじゃない。だから特別枠になってしまったのよ……。名誉騎士的な。誠に不本意ながら。
だから私が一人何役もこなさなければならない。
私がロストしたら列車どころか作戦全体がコケるのは、誰もが理解している。
だけどそれでも私を使わざるを得ない。貴族はみんな騎士。そんな騎士様が平民に指事されて黙っていたら、騎士としてのメンツが潰れる。誰にも相手にされなくなっちゃう。本当はそんなことはなくて、まーくんなんかは気にしない。でも、未だに政治を動かしているおっさん世代はそういう空気なのだ。
おっさんは変化に適応できない。なぜならおっさんだから。
もう産業革命が起こっているから貴族は没落するだけなのに。なんとなくヤバいのはわかっているけど、それでもやめられない。貴族という社会から抹殺されるかもしれないからだ。身分制社会の弱点がモロに出たよ!
だから車両を捨てる選択のできる指揮官が必要だ。それが私なのだ。
一応、近衛騎士の護衛はいる。
でも何トンあるかわからないような巨大な生き物相手じゃ意味はない。
ウィルはこの作戦の偉い人だし、まーくんも偉くなってしまった。今度は私ががんばる番だ。
自動車部隊が自動車を放棄、列車に搭乗したとのメッセージが入る。
燃料が切れたのだ。モンスターも知的生命体……かもしれない。
念のため、リバースエンジニアリングされないように自動車を残りのダイナマイトで爆破することになっている。
私は士官席にある通信用の金属管に顔を近づける。
「自動車を爆破したら攻撃準備。引きつける必要はない。後方を攻撃して退路を断て」
私は偉そうに指示した。本当は嫌なんだけど、騎士の世界ではこういうものらしい。
後方を撃つのは雑魚モンスターの殲滅のためだ。
爆破完了のメッセージを受け取る。
「撃て!」
私はシートベルトを着用する。結構揺れる。気休めだけど、ないよりはマシだ。
列車砲からキュルキュルと角度を微調整する音が聞こえる。
ドンッ!
ビリビリと車両が響く。私による強度計算的に結構ギリギリでやっている。コケそうで正直怖い。
いや魔術付与までしてコケないようにしてるんだけど、それでも怖い。台風の日の通勤電車なんてずいぶん穏やかだ。
一瞬遅れて、ドカンと着弾する音が聞こえた。
「そのまま撃ちまくれ。弾は全部使ってしまえ!」
私はポーカーフェイスを維持しようと注意しながら、そっと座席の手すりをつかむ。
怖えええええええええええええッ!
自分で設計しておいてなんだけど、砲台つけた機関車マジで怖ええええええええええッ!
バランスがちょっと無茶だったかもしれない。
撃った直後にぐらっと揺れるのがホント怖えええええッ!
ごんって音が響くぅッ! なんか金属がきしんでるぅッ!
ちょっと「おえっ!」としてきた。耐えろ、私の精神と三半規管。
もう一回ドンッと列車が揺れる。
すると「ぎゃあああああああああああああッ!」という怪獣の悲鳴が聞こえる。
悲鳴はまさに爆音。ビリビリと体に振動が伝わる。
私が目を回していると、偵察室から金属管を通して連絡が来る。
「ドラゴンに命中、追ってきてます」
ドン、ドン、ドン、砲台の音ではない。
ドラゴンが走った音だ。
「記録通り、我々のほうが若干速いようです」
「速度を調節しながら進め」
あれだけの大きさのものが飛ぶには時間がかかる。
ドラゴンの独自技術で飛行の魔術を使っているらしい。
それでも起動には時間がかかる。飛ぼうとしたら全力で砲を叩き込むけどね。
「ドラゴン、止まりました!」
止まったということは……。
「ブレス来ます!」
「ぶっ放せ!」
無駄だ。
足を止めた瞬間、全ての砲台をドラゴンに向け総攻撃する予定だ。
なあに、殺せなくても苦痛を与えることはできるはずだ。
ドンと音がし、窓の外に火の粉が飛ぶ。
車内が火薬の匂いで充満し、ぐらっと列車が揺れる。私は涼しい顔で必死に手すりをつかむ。
いや、信用してるんだ。信用してるんだけど、怖い。根性見せろ私!
寝技で鍛えた指に筋が浮かび上がる。
砲弾の作った粉塵が上がるのが見えた。
「ドラゴンに命中。ブレスキャンセル」
ふいー、まずは生き残った。
徐々に最終ポイントに近づいていく。
そこでリリアナちゃんとジョセフが魔術の準備をしているはずだ。
さあ、工業系悪役令嬢の本気見せてくれる!
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