第38話
私がどさくさに作った電話網。
鉄道の駅がある国内20カ所に設けた施設だ。
そこにとある装置が設けられた。
ぐるぐるとハンドルを回して静電気を発生。その電力で城と話ができる装置である。要するに電話。
こういった19世紀から20世紀初頭の発明は再現出来ないものが多い
世界初の電気自動車やこの電話も同じだ。
電話会社の技術者が10年かけてなんとか再現……という難しさである。
でも私には魔法の力があった。自衛隊のおっさんに教わった、モノに魔法を刻み込む方法で完成させたのだ。
この発明は無駄にはならなかった。
よく考えれば当たり前の話だった。
高齢者にOSが扱えるはずがないのだ。いや、そもそも字が読めねば使い物にならない。識字率って日本だと意識しないよね……。
私みたいな人間には想像が難しいが、日本でもスマホもパソコンも使えない人はかなりの人数が存在する。
この世界ならもっと多い、ほぼ全員が使えないと思った方がいい。
つまり、こういう操作が単純な機械が必要になるのだ。
責任を追及されなくてよかった……。ふう。
そして結果的に電話網が民の命を守ったのだ。
それは収穫期の真っ只中に起こった。
報告によると山のように大きなトカゲが隣国ウェランディアの国境からやって来た。
ドラゴン飛来の情報は数日前から得ていた。
グライダーらしき「なにか」で空から見張ったのだ。
方法は簡単。各地で日に数回見晴らしのいい高台から飛ぶだけ。
不器用なまーくんでも飛べるようにしたので、マニュアルは充実。数回の講習で飛べるようになった。
異変を観測すると兵士は馬ではなく、使い方のわからない魔法でもなく、電話で王都に連絡した。
この電話をする方法は事前に兵士と騎士に研修を受けさせた。
使い方を絵で記したマニュアルも配布。なんとか使えるようになったのだ。
すごいや私、知らずにホームラン打ってた! これも日頃の行いがいいからに違いない。
今までなら民に知らせるのは最後。ギリギリになって移動することになっていただろう。
だけど陛下が避難の勅命を出し、アーサーが作成した国軍騎士マニュアル。皆に恐れられる独裁者が作ったマニュアルはみんな必死で読んでくれるね。すごいよアーサー。
それと日本でおなじみの避難訓練のおかげで、畑を放って民は移動を開始。鉄道と馬車、それに徒歩で避難した。
ドラゴンが肉眼で観察される頃には、村や町はもぬけのから。
少数の兵士しか国境沿いに残っていなかった。
見張りの兵士は最後の報告をすると、用意してあった自動車に乗り国境をあとにした。私たちと合流する予定だ。
合流ポイントでは、特別に許された魔道士が城にいる魔道士たちにメッセージを送っていた。
そこは本来なら駅ではない場所だ。開けていて森もなく草原が広がっている。
そこでは兵士を乗せた列車砲が集まって荷物を積んでいた。
この世界のドラゴンは一匹だけで攻めてくるわけではないらしい。
ドラゴンが攻めてくるときには、モンスターの大軍が押し寄せてくる。
ゴブリン、オーク、オーガなどの二足歩行のモンスターがドラゴンに付き従って行軍してきたのだ。
これも伝承やウェランディアからの報告だけではわからなかったことだ。
リアルタイムの情報収集ってチートなのね。
まず、殿をつとめた兵士たちが自動車の荷台から、迫撃砲を発射。とは言っても打ち上げ花火の要領で、火薬で打ち上げて、地面に落ちた頃に爆発するようにしただけの単純な武器だ。
発射された爆弾がドラゴンたちの近くに落ちた。報告によるとゴブリン、緑色の人間とよく似た生物の近くに落ちた。ゴブリンは棍棒と木の盾で武装していた。当然、落ちてきたものを警戒して盾を構えた。
次の瞬間、10体ほどが吹き飛んだ。
ゴブリンは比較的人間に近い生物である。つまり、知性がある生き物にありがちな弱点を備えていた。
ゴブリンはパニックを起こしたのだ。
悲鳴を上げながらゴブリンたちは逃げ惑う。あちこちで将棋倒しが起こり、倒れたところに爆弾が降って来た。
その間に自動車は合流地点の前に辿り着く。
不幸なことに戦場にはゴブリンよりも、もっと強いものがいた。オークとオーガだ。
彼らはまるでゴミであるかのように、ゴブリンたちを踏み潰しながら行軍してくる。
それはまさに地獄よりの使者。恐怖を体現した姿だった。
だけど彼らもまた……時代後れだった。
これも報告を受けた記録から。
彼らの弓が届くはるか遠く、そこから銃弾と爆弾が彼らを襲った。
悪意100%、嫌がらせで作った有刺鉄線が進軍を阻む。その間に次々と彼らは倒れていった。
まさしく一方的。ワンサイドゲームだった。
原作のゲームではアーサーは馬に乗っていた。
でも有刺鉄線が張り巡らされた今では、戦場の移動は蒸気の自動車だ。
もはや原作は影も形もない。私がぶち壊した。
だが兵士の被害は格段に少なかった。
どうしても練度の低さ、それに火薬をなめていることからの慢心での事故は起こる。
投擲用爆薬で魚を獲ろうとして爆死や、銃で遊んでいて頭が吹き飛んだり……。
それ以外にも指や頭が吹き飛んだものがポツポツ出た。だけどこれは必要な犠牲だった。
それを見たものは私たちからの警告がけっして誇張ではないと学習した。
どんどん犠牲者は減っていったのだ。
それと新しい戦術を受け入れられない貴族が無茶をして突撃、死者が出た。
騎士の浪漫は失われたが、死者はそれでも予想よりずっと少なかった。
そしてウィルが立つ。
黒光りする列車砲が現地に到着する。
とうとうウィルは騎士になった。
私は最後まで反対したが、ウィルの決意は固かった。
私はドラゴンを誘い出す地点で待機。ウィルにメッセージを飛ばす。
『騎士になるなんて……本当にいいの?』
『ま、これも運命ってやつだ。なあ、メスドラゴン。なあ、帰ったら式挙げようぜ』
『それ、戦場で言うか! つかね、死亡フラグ建てるのはやめなって!』
『俺たちにはお似合いだろ。結婚も死亡フラグも』
まあそうだなと私は納得した。
ウィルは機械科騎士団団長という地位に就いた。
列車砲や重機、それに自動車の総責任者だ。
機械全体を把握している人で、偉い人がウィルしかいなかったためだ。
私の尻拭いができるのもウィルしかいないだろう。
恋愛ゲーム世界なのに、大恋愛らしきものの気配なし。まあいいや。悪いの私だし。
『打ち合わせ通り、列車砲をぶっ放しながらそっちへ誘い込む。お前は魔術を起動しろ』
『あいよー!』
私は魔術を起動する。
もともと異常なほど複雑な魔法だ。
起動までの速度は遅い。
国民をクライアント化するのに私たちは単純な手を使った。
祈りである。戦勝を祈願するために軍務についていない、成人している健康な国民に祈りを義務づけた。
妊婦や老人は免除。子供も同じ。病気療養中のものも免除である。
ネットワークが構築されていく、力を感じる。計算の進捗を表すゲージも溜まっていく。
これで終わりだ。これが私の物語の最後のエピソード。
ドラゴンはズシンズシンと音を立てて近づいてきていた。
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