第37話
アーサーを脅迫……げふんげふん、誠意をもって交渉し和解した私は、計画を次のフェーズに移す。
先に説明すると、要するに元●玉システムを作ればいい。
「みんなー、オラにちょぴっとだけ余った処理をわけてくれー!」である。
なぜ光の巫女が死ぬのか?
要するに人間をサーバー化したせいで過負荷がかかったからである。そりゃ死ぬわ。
つまり処理を分散すれば、ハブが死ぬことはない。
だから、中央の無い蜘蛛の巣状のネットワーク、ピア・トゥ・ピア通信で分散処理すればいい。
あとはブロックチェーンあたりでデータを保存しながら、計算を続ければいい。
あとは仕様表通り。設計が頭に入っているので基本設計さえ見直せばなんとかなる。
途中「モノポール」とか「重力子」とかという不穏な単語が脳内から発掘されたが、余計な情報を華麗にスルーするのが「できる」悪役令嬢だと思う。
絶対あのおっさんロボットアニメとか、迷宮をひたすら彷徨う漫画とかを参考にしてるよ! 日本でも作れないものを力技で作りやがんの!
職人系の私は自分にわかる範囲のものを発明するのがせいぜいだ。だけど、あのおっさんは想像の先を行った。
本当の天才。
これは本音だけど、逆立ちしても勝てない人間がいてうれしい。
でも思うんだけど、生物相手にこれってマジでオーバーキルじゃないかな? 本当に使っちゃっていいのかな? まあいいや、運用実績あるし。バグを修正すればいいだけだし。
私は魔法を開発しながら、別の指示も出す。列車網の整備だ。
どこから攻めてくるか分からないドラゴンから市民を守るには、もう列車しかない。
列車網を整備して住民と食料を移動させる。兵士や武器もだ。
騎士には徹底的に列車の運用と操作、それに銃での戦い方を叩き込む。
これは軍閥を支配するアーサーの役目だ。そんな職人みたいなことやってくれるのかと思ったけど、アーサーが説得してくれた。
アーサー曰く「民と愛する女性、それに正義のためだ!」と演説をして奮起すれば騎士はいくらでも騙せるそうだ。黒い。黒すぎる。仲間だからいいけど。本格的に敵に回したら本気でヤバかったと思う。
あと年取っただけの男子の集団なので、でかい金属の塊の運転の魅力には抗えないそうで……。これはわかる! 大型特殊車両とかテンション上がるよね。
ミアさんとリリアナちゃん、それにジョセフは列車砲の開発に着手した。はっきり言って時間稼ぎの足止めだ。これを真面目に運用する気はない。
せめて対空砲とかロケットランチャーの作り方を知っていれば……。って作り方わかる人いる?
私は息抜きに狙撃用のライフルと機関銃……というかAKの製作に取りかかる。
これはドラゴンというより、その後の火事場泥棒用だ。ドラゴンが出現した後はモンスターも多く出るらしいし。
どちらも構造は知っている。数さえそろえば、コストは度外視。よし、ミスリル銀とオリハルコン使い放題だ。
弾丸の方も旋盤での削り出しや鋳造、鍛造、いろいろと試す。
未来に私は悪名を残すかもしれない。……ときれい事を並べようと思ったが、どう考えても作ったやつが悪いんじゃなくて、使うやつが悪い。
アーサーみたいな外道が、ちゃんと運用してくれるだろう。ウィルがストッパー。私傍観者。
そしてこの世界初のアサルトライフルと、狙撃銃は半分できていたのであっという間に完成した。すでに鎧も盾も時代後れ。騎士団は軽装になることが決まった。
最後にこいつだ!
私はプログラムの息抜き第2弾に取りかかる。
そう、こいつの形は知っているのだ。
「おっし、まーくん! 下は海の深いとこだから、パニックを起こさなければ大丈夫だからね」
「お師匠さま。恐れなどありません」
そこは海に急遽作った台。
まーくんは、それをつかみ全力で駆け抜ける。
そして台の淵で飛ぶ。
そう、それはグライダー。
私は、鳥●間なんてイベントをやっている世界から来たのだ。形と理屈は知っている。
と言っても、毎年墜落しているみなさんも見ているのでインチキ開始。
物体に直接彫って魔術の記録媒体として使う方法を学習したので、それも併用。羽部分に風の魔法を彫ってみる。パイロットが飛んでから起動すれば完了。
まーくんは魔術を起動する。
すると、空中にいたグライダーがふわっと浮いた。
まーくんから通信が入ってくる。
「お師匠さま。飛べました! 凄いです! 本当に飛んでいる!」
今まではカバディ状態でひたすら歌を歌って飛んでいた。それじゃあ飛距離もスピードも滑空にはかなわない。
でも今回は余計な作業なし! ちゃんと飛べるはずだ!
まーくんは海へ向かい飛んでいく。
もう、「飛んだ」と言ってもいいだろう。
インチキはしたけど、二年時の目標は達成した。
月は遙か遠く。でも私たちは成し遂げた。
まだ二年生の一年間は、はじまったばかり。大きな一歩だった。
「でも……内燃機関とガソリンは無理かなあ」
この状況で新規開発は難しい。
計画狂いまくり。
あーもう! ドラゴンのバカ! 絶対に許さないからね!
まーくんが水面近くまで高度を落とした。
魔法も切れたし、高度落ちちゃったからリカバリは無理かな。
次の瞬間、まーくんは着水した。
特科の男子がまーくんを回収する。
周りで見ていたギャラリーは歓声を上げた。
飛行距離は100メートルくらいかな。やはりインチキをしても最新の日本記録には及ばない。
でもそれでも人々は喜んだ。まーくんの伝説にまた一つページが刻まれたわけである。
これも私の計画の一部である。英雄ってのが必要なわけよ。
貴族向けにはアーサーとウィルの二代英雄叙事詩。
平民向けには、まーくんの騎士伝説。さらにジョセフとリリアナちゃんの恋物語を用意している。
私はコメディ担当。マッドサイエンティストがバカなものを作るっと。魔王扱いよりはマシである。
でもメスドラゴン伝説も裏で進行中。聞こえないし、見えないし、現実からは逃避する。
「レイラ、勝てるのか?」
「誰にもわからないよ。でも、勝つしかない。やるよ!」
もう夏が来ていた。
線路と列車はフルスピードで増産されている。
シナリオ通りならドラゴン襲撃まであと数カ月。
開戦の時は迫っていた。
根性見せるぜ!
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