第40話

 バカスカと列車は主砲を発射。巨大な榴弾がモンスターに降り注ぐ。

 榴弾の内部の火薬が炸裂し破片が飛び散る。

 榴弾が炸裂するたびにモンスターたちの姿が消えていく。

 目測だけどゴブリンは全滅。オークとオーガもほとんどいない。

 前線にもう動くものはいなかった。

 近代の兵器攻撃力半端ない。

 それでも後ろにはまだたくさんのモンスターがいる。パニックを起こしながらも逃げることもなく、なにかの本能に突き動かされて襲いかかってくる。

 これは予想どおり。ここまでは成功だ。

 でもドラゴンに線路を壊されたのだけがムカつく。せっかく作ったものを壊されるのはやりきれない。

 ドラゴンは飛び立つこともできずに列車砲、こっちは対ドラゴン用の徹甲弾を浴びせられる。

 表面硬化装甲の代わりに芯はオリハルコン製。外側は空気抵抗軽減用の被帽だ。

 ぶつかった瞬間に頭がベコンとへこんで滑らない。あとは芯のオリハルコンの重量と運動エネルギーがぶつかるのだ。

 お値段目玉が飛び出るレベル。でもドラゴンに勝ちさえすればいくらでも取り戻せる。

 だから容赦なく撃ち続ける。

 ドラゴンはブレスを吐こうとするが、その顔に砲撃を浴びる。大きなドラゴンはその程度じゃ死なない。それはわかってる。

 でも私は知っている。人間だって画鋲を踏んだら痛いし、小さなガラスの破片を踏んだら動けなくなる。

 肋骨や指を折られても死なないけど、武道の選手でもなければ動けなくなるし、普通はそこで戦闘終了だ。

 殺せない攻撃だからって、なめたらいけない。

 ヤマアラシの針で肉食獣は死なないが戦意を削ぐには充分なのだ。

 もちろん相手は野生動物だ。首の骨を折っても動くかもしれない。

 でも……たぶんだけど……メンタル弱いよ。ドラゴンって。自分より弱いものとしか戦ったことがないのよ。

 そういう人って私たち武術家からしたら、いいカモなんだよね。強くなる努力なんてしてないから、ある日弱者にひっくり返される。

 それがドラゴンにとっての今なのよ。

 内心焦ってるんじゃないかな。プライドと恐怖の板挟みで私たちを追っている。

 ただ残念なのは、負け癖がついて逃走を選ぶメンタルじゃない。勝つのが当たり前だから、どこまでも深追いしてくる。

 わかりやすく言うと、中学まではケンカで無敵だったヤンキーと同じだ。高校に入ったら格技部に瞬殺、と。

 寝技のような心理戦を体験してる私には、手に取るようにわかる。うちの高校にも数人いた。

 そういう私も列車がいつコケるかという恐怖と戦っているんだけどね! これぞ心理戦ってやつよ!

 通信用の金属管から騎士の慌てた声がした。


「最後尾、フレームと砲台に亀裂!」


「直ちに退避と切り離し、切り離し完了後爆破せよ!」


 冶金技術はまだ現代に追いついていない。

 すぐに劣化するのはわかっていた。

 この砲台も19世紀の日本と比べても劣るかもしれない。

 なんで明治から昭和の人たちってあんなにチートなの!

 ガチャンと音がした。

 爆薬を積み込んだ後方車両の切り離しが完了したようだ。

 これで重量が減る。

 あとはリモートで爆破する。魔術使ったインチキ再び。


「爆破します。……3・2・1」


 さよなら、私のベイビーちゃん。

 あー……本当に涙出てきた。


「爆破!」


 線路ごと爆破。

 ドカンと音がし、後方に粉塵が立つ。


「オークの前衛部隊、爆破で壊滅」


 さらに砲弾の雨あられ。

 モンスターに砲弾が降り注ぐ。

 ドラゴンも度肝を抜かれただろう。人間がここまでできるなんて。

 そして私たちは目にする。チェックポイントの看板を!


「看板通過しました!」


「後部車両全てを切り離せ! 全速前進し切り離した車両を爆破!」


 ここからはいらない車両を全て切り離して速度を稼ぐ。ラストスパートだ。

 最高速度で合流地点まで逃げ、そこで攻撃だ。

 殺せないのをわかっていて今までさんざん嫌がらせを繰り返してきたのはこのためだ。無理に追いかけてくるまで追い込んだのだ。

 さらにもう一つ。ブレスも飛行もさせない。どちらかをしたら攻撃されることを学習させた。中途半端に頭がいいって地獄だよね。

 遠くで煙が上がる。

 砲を撃ったわけでもないのに列車が揺れる。速度は限界まで到達していた。

 激怒したドラゴンが私たちを追ってくる。

 私たちはすでに渓谷の入り口に来ていた。


「チェックポイント入ります」


「減速!」


 ここからは調整だ。減速し、合流する。そのままだとコケるからね。

 そのために足止めが必要だ。歩兵部隊が渓谷の上から攻撃する。

 射程は長いし、少し攻撃したら逃げろと命令してある。でもどうしても犠牲者が出るだろう。わかっていてもこれは嫌だ。

 遠くで迫撃砲の音がした。死ぬなよ! 名誉とか意味ないからな!


「レイラ様。もうすぐ最終地点に到達致します」


「ありがとう。よく耐えてくれた」


 私たちはおとり、、、だ。

 勝てるとは思ってない連中だって多い。

 私たちが追いかけっこをしてる間に、逃げたお偉いさんだって多いだろう。

 それなのに私のようなポンコツに最後までつき合ってくれたのだ。褒めるしかない。

 金属管から騎士の返事が聞こえた。


「ライザント伯爵、逃亡。エルクワイヤ侯爵、逃亡。アスベクト男爵、病気で戦線離脱。もう、お偉いさんはあらかた逃げやがりました。この国に見切りをつけたんです。でもアーサー殿下も、ウィリアム殿下も、そしてレイラ様も逃げなかった。最後に言いますが……あんた最高ですよ!」


「まだ終わってないぜー。最後に凄えもん見せてやる! 孫の代まで語れる歴史の転換点ってやつをよ!」


 私は下町言葉でまくし立てた。

 金属管の先にいる騎士が笑う。

 しばらくすると列車が止まる。騎士に案内されて外に出る。

 私は外に出るとスパナを掲げ、騎士たちを鼓舞した。


「騎士諸君。よくぞここまで新しい戦術を身につけてくれた! 今日、我々は勝利する。古の物語にある異世界の勇者の伝説。皆も知っているだろう。だが今日、我々は異世界の勇者の手を借りず、我々だけでドラゴンに打ち勝つ! 今日という日こそ我々はドラゴンから自由を取り戻すのだ!」


 騎士たちの目つきが変わった。

 列車に乗っていた騎士も、平民の兵士も見た。

 あれほど強大で山よりも大きな存在に何もさせなかった。

 強大なモンスターの集団を次々爆破し、全滅寸前まで追い込んだ瞬間を。

 勝てる。異世界の勇者の強大な力ではなく、自分たちの手でドラゴンに勝てる。

 それが彼らに希望をもたらした。


(なお、私は本当は異世界からの転生人だけど、それは誰も知らないし、言っても誰も信じてくれないからこの際考えないでおく)


 私は設置した祭壇に向かう。

 オリハルコン製で微細な彫刻がされた豪華なものだ。

 実はこの祭壇には意味はない。

 だけど、宣伝のために設置した。

 そもそもオリハルコンだって産業専門学校の鍵をかけてない倉庫に放置されてたものだし、彫刻はフライス盤で彫ったものだ。

 だけどこういう演出こそが、大衆のテンションを上げるのだ。

 私はさらに演出をする。

 祭壇に設けられた穴にスパナを突き刺す。

 起動キー? いいえ、ただの演出です。

 スパナを突き刺すと、祭壇が光る。

 それだけじゃない。あわてて作った白熱球が光り、スポットライトが私を照らす。

 日本人ならいか釣り漁船にしか見えないかもしれない。

 でもこの世界の人たちからすれば、初めて見る幻想的な姿だった。


「さあさあさあさあ、プログラム起動!」


 なんて言ったけど、実はジョセフとリリアナちゃんがあらかじめ計算を終えている。

 料理番組の「これが四時間タレに漬け込んだ鶏肉で……」ってやつだ。

 できる悪役令嬢は演出を大事にするのだよ!

 さあ、ここで魔法の説明をしよう。

 もはや物理的な原理そのものがよくわかんない魔法により、モノポールに重力子にとパーリナイ!

 術式全部読んだけど物理知識が追いつかないフェスティボー!

 ここで取り出したるは黄金に光るオリハルコンの剣!

 本当は宇宙じゃない方の戦艦大和の形状にしようと思ったけど、怒られたのでこの剣が砲台だ。


「精霊よ! 力をお貸しください!」


 精霊なんて見たことないけど適当なことを言ってごまかすスパーキン!

 ノードの計算結果が私に送信されてくる。

 そしてそれと同時にリリアナちゃんも祭壇に上がり、私と一緒に勇者の剣を握る。

 波●砲がチャージされ、発射準備が整う。


「モノポール重力子砲!」


 私たちは声を合わせ同時に叫ぶ。

 なおネーミングセンスのある人募集中。

 勇者の剣が光り、眼前に目を開けていられないほどの光と同時に全てを飲み込む闇が出現、空間が歪む。

 私は最高の悪役令嬢らしい顔で笑う。

 ドラゴンと目が合った。

 その顔は恐怖で歪んでいるようにさえ見えた。

 ドラゴンは最後の抵抗とばかりにブレスを吐いた。

 だが何もかも手遅れだった。

 次の瞬間、大魔法は放たれた。

 光と闇が放たれる。それは渓谷を破壊……いや一瞬で全てを消滅させた。

 ドラゴンのブレスは飲み込まれ、消滅。ドラゴンの身体ごと消し去った。

 モンスターの軍勢も消滅。塵ひとつ残さず消えた。

 光と闇は渓谷をえぐる。


「ぬわッ! ストップストップ!」


 そっか、ハブであるリリアナちゃんが壊れないから最大出力なんだ。

 本当だったら光の巫女が先に壊れて、ドラゴンを殺す程度の出力で止まってしまうんだ!

 気づいたときには遅かった。

 ドラゴンどころか地形すらも魔法は壊していった。


「お、おう……」


 ほんの一瞬の出来事だった。

 空は舞い上がった粉塵で暗くなっていた。


「て、てへ? やりすぎちゃった?」


 騎士たちは口を開けていた。

 後にそこは『レイラの荒野』と言われることになったのである。

 て、てへぺろ?

 いやんばかーん!

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