第34話
帰ってから一ヶ月後。
鉄道事業は大評判、連日積載率100%オーバーのため、鉄道網敷設計画は周辺都市に波及した。
お湯を沸かすのに時間がかかるせいで、一日二便しか運行できないポンコツ蒸気機関車だけど、貨物に特化したところ売上はすさまじいものになった。(見学料も徴収した)
木造船くらいの重量をサクサク運べるので、とんでもない利益が出てしまったのだ。
行商人だって少しコストはかかるけど、配達してもらえれば楽だ。だって、命をかける必要はないし、大量に運べる。
あとは鉄道網がないウラヤーより先に荷物を運んでいけばいい。ウラヤーである程度の商品をさばいたら、先に行ってのんびり取引、またウラヤーで商品をさばくと。なので商人も収入が増えているので、おおむね好意的だ。
そうか……輸送が早くなることって、商材を換金するのが早くなるんだ。つまり、お金の総量は変わらなくても、お金の循環が早くなる。つまり、使っても戻ってくる状態なのだ。
具体的に言うと、初期の工事費が数年……もしかすると来年には回収できそう。都市全体で見れば、すでに資本は回収できている。
ウラヤーも王都も空前の好景気だ。「路線繋げれば儲かるんじゃね?」と、単純に考えてもおかしくはない。
戦前の新潟みたいな食料の一大産地ができたら本当に経済成長が見込めるだろう。
鉄道の運営者は会社組織っではない。当たり前だけど国営だ。この世界に株式会社や合同会社、合資合名の会社の概念はない。これは完全に専門外なので私はノータッチ。全く知らない本当のド素人が首を突っ込むとろくな事にならない世界だ。
鉄道の方は儲かりまくっているので、利益の約2%が開発部門の給与に使われることになった。
その結果どうなったかと言うと、部屋に入らなくなった。金が。物理的に。約束手形とか小切手がないからだ。
私はアイテムボックスがあるからいいけど、みんなは使ってしまわないといけない。と言っても、産業学校に通ってたり、貧乏確定の錬金術師を好きで続けている連中は、研究大好きっ子だ。個人の研究のための素材や外部委託費、本の購入で金なんていくらあっても、すぐになくなる。
庶民は宵越しの金など持たないのだ。……いや持てない。物理的に。つまり、月末のツケや掛け売りの支払日には、廊下にまではみ出していたお金の山は消えてしまった。
銀行がないと不便だなあ。誰か作ってくれないかなあ。さすがに私じゃ銀行制度なんてさっぱりわからない。せめて簿記取っておけばよかった……。なるほど、異世界転生して簿記で無双はマジで『あるある』なのか。異世界転生するなら簿記おすすめ。本物のチートだよ。お金と学力に余裕があるならMBA取得したらマジで無双できるよ……って、海外企業への就職と変わらない件。
もう一つうれしいことは、トラクターと耕運機が作られた。私は関わっていない。かなり前に誰かに「こういうのどうよ?」とは言ったかも。ほぼ独自技術で完成したのだ。
これで農地の拡張工事も簡単にできるだろう。木の撤去とかも鎖つけてトラクターで引っ張れば楽だしね。
ブルドーザーとかの重機もそのうちできるんじゃないかな?
大型特殊車両取得する前にトラック事故で異世界転生……う、頭が!
さて……本題である。
聖剣の解析は私一人では無理だった。
無能って言わないでね。このプログラミング書いた人。天才を通り越して変態だったのよ!
まず機械語ってのは雑に語るとスイッチのオンオフだ。もちろん電気的なものなのでプロセッサごとに言葉が違う。
プログラム言語って言うのはそのスイッチのオンオフを人間にわかるようにしたものだ。
だから私も最初に人間がわかるシステムを組んで、プログラム言語を作った。今のOSはそこから拡張したものである。
しかも初期状態ではセーブができない。音声入力の魔法入力があるだけなのだ。これすら誰かが作ったものかも? わからん。
つまり製作主はセーブなしの機械語直打ちで大量の機械語で「なにか」のプログラムを作ったのである。
なにが制作者をここまで駆り立てたのか。
ゴブリンの群れの如き機械語のせいで我が陣営のシステムを深く理解している魔道士すら脱落者続出。
さらに残った同志でリバースエンジニアリングしていると、私ですら把握してないデバイスが多数見つかる。しかもがそのほとんどが、ポートの確認だけで使われてない。無駄コードだらけよ。
このハードウェアへの異常なこだわり、聖剣を作ったのは日本人じゃないかと思う。(ハードウェアなんて言ってるけど、実際は仮想的なものも含んでいる。私は、とりあえずポート通して使う各種センサーや、どこに存在するか分からないハードディスクなども便宜上ハードウェアとしている)
あれ? でもおかしい。じゃあなんで補助記憶装置を使わなかったのだろうか? 標準的なノイマン型の装置を知っていれば……そうか! 作者が知っている材料だけでシステムだけを動かしているんだ。
気合でハードを探しまくったけど、私と同じで漏れがあって、理解できるものだけで急場しのぎに作ったのかも。それとも、探そうともせずに与えられた情報だけでやりくりしたとか。
私だってハードウェアを探すのは、ほぼ手探りだ。運がよかったから補助ディスクにアクセスできた……のだ。悔しいことに。いまだにポートだけ分かっていて、効果が不明なものは多数ある。音波センサーとか赤外線とか最近になってわかったものがあるくらいだ。見えないものは苦手だ。
だから磁気テープとか光学ディスクじゃなくて、剣に彫って記録するなんて変態仕様なのか!
さらにこれ、どうやらなにかしらの無線通信を行っている。試しに自分に
どうやらサーバーを作ることは不可能……というか倫理的にアウトなので基本的にピア・トゥ・ピア通信網の模様。(理論上は殺人犯とかを人為的に意識不明にして、サーバーとして運用とかは可能。そしてサーバーにされた人はたぶん脳への過負荷で脳死する。だって数人分の思考負荷だよ! だけどそんな恐ろしい事はしたくない。これは私が撒いちゃいけない種だと思う)
そこでデバイスドライバ、つまり装置の運用管理ソフトを作ったら、固有番号が振られていた。
試しにウィルの端末にもインストールしたところ、やはり別の番号が振られている。
よし、面白そうなのでアプリ作ってテキスト送ってみる実験をしてみよう。
『やっほー。元気』
あらかじめウィルに実験をするとだけ言ってアプリをインストール。
思考を読み取ってテキストに変換。そのまま暗号化されてない平文でメッセージを送る。
セキュリティが怖いので暗号化は……おいおいやろうと思う。
『うわッ! いきなり文字が目の前に!』
『すっげえだろ! えっへん!』
『おい、ちょっと待て。自分がなにやったか分かっているのか?』
『また戦争?』
男の子は戦うの好きだなあ。
私の散弾銃は思惑通り、戦争じゃなくてモンスターの駆除に使われてるんだよ。
そのおかげで、秋から冬にかけての王都周辺の騎士や兵士の死亡者数は0。
私はモンスター討伐で失われる命を救い、周辺の村と兵士や騎士のお腹を満たした。ね、平時の運用が重要なの。
ゴブリンとか熊とかには恨まれているだろうけど。
『当たり前だ! いつでも話ができるなんて、戦争の常識が変わるぞ!』
知ってますけどねー。
でも前世の世界に存在した無線も作りたいんだよね。
人類が滅んでも使えるインフラだしね。
両方あってもいいと思うのよ。
ただね……線路の下にこっそり埋めた銅線。固定電話のケーブルはいらなくなっちゃったかも……。
いやOSが使えない人用に必要か……よし、そう思い込もう。
『これ陛下に報告しろよ。絶対に報告しろよ! 怒られるの俺なんだからな!』
『ウィル頼んだ。手紙でいいから』
『お前なー!』
『あ、忙しいから落ちるね。じゃあねー』
『逃げやがったな!』
よし成功。
でも怖いことが一つある。
とてつもない勢いで通信するんだよね。この聖剣。
今のところ分かっているだけでも、ほとんどの行が通信関連で使われてるんだよね。
私は二階の研究室から階下を眺める。
ジョセフとリリアナちゃんが、談笑している。
二人はつき合っているみたいだ。はたから見ても仲睦まじい。交際は順調のようだ。アーサー……ごめんね。でも自業自得だから。フラグ折ったのアーサーだから。
さて、聖剣にかけられた魔術の鍵はリリアナちゃんだ。
今分かっていることは。
起動にはリリアナちゃんが必要。
内部で大量の通信処理をしている。
未発見のハードウェアに片っ端からアクセスしている。
ハードウェアに異常にこだわっているので。たぶん作ったのは日本人。
やはりわからないことだらけだ。
もっと解析を急がねば。
私は心に誓うのだ。
あと、まーくん……モテているみたいね。お子ちゃまに。憧れの英雄だものね。本当にあとで女の子紹介するね!
それと……埋めた銅線をどうにかごまかさなければ。
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