第22話

 私たちは、今後の話をしながら廊下を歩く。

 まずはシステムの納入のために陛下と接触。

 許可が出たらインストールシートをプリントして宮廷魔道士に丸投げ。

 そしたら予定通り貴族学院へ行きリリアナに接触しなければならない。

 私たちは玉座の間を目指す。

 根回ししたので、あとは陛下と会って決めるだけだ。

 無料で配るし誰も怒らないよね。

 これが通らないと管制システムが構築できないのよ。

 だから少しだけ気合を入れる。

 だけどここで邪魔が入る。


「ええいどけ! アーサー殿下に無礼を働いた痴れ者はお前か!」


 アーサー自身ですら触れたくないであろう話題を大声で怒鳴り散らしながら男がやって来る。

 悔しいが……デブなのに美形。美形デブが私を見つけやってくる。

 二重あごなのに美形だよ!

 どうしよう、この胸のときめき。(興味本位)


「そうか貴様か。ええい、我が騎士団よ。とらえろ!」


「コーエン卿。そこなるレイラは私の婚約者だ。苦情があるなら聞こう」


 ウィルが立ちはだかる。

 え、なに。どうしよう、ウィルがカッコイイ。


「ウィリアム殿下、我が友アーサー殿下を傷つけたこの女に罰を与えねばなりません!」


 えーっと、わかっちゃった。

 アーサー関係ないや。だってすぐに報復なんてしたら恥の上塗りだもの。女の子によってたかって報復とか本当に王になれなくなっちゃうレベルよ。

 アーサーくらい頭がよかったら、みんなが忘れたころに私を闇に葬るよね。

 でも怒りって持続しないから、みんなが忘れたころにはどうでもよくなってるよね。


「もちろんそれは重々承知、ですので私はこの女に決闘を申し込みます」


「は?」


 なに言ってんだコイツ。

 激しいツッコミが場を支配した。

 敵味方関係なく心が一つになったのだ。


「さあ女。代理人を立てるがよい」


 あ、そう言う意味か。

 みんなが安堵のあまりため息をついた。

 えっと、つまりコーエンくんは「ウィリアムさんよお、ちょっと顔貸してくんない? てめえのとこの兵隊でもいいからよお」と言っているのだ。

 敵も安堵したということは、コーエンくんは私に直接報復しようとしたかもしれない。いやするはず。つまりおバカなのである。


「コーエン卿。私とマックスでいいか?」


「異論はございません」


 この売られた喧嘩は買わないと社会的に抹殺っていうシステムやめて欲しいな。

 騎士なんてそんなものなんだろうけどさ。


「ですが……いいので? ウィリアム様は騎士ではないのでは?」


 あ、騎士ではないときやがった。

 これって「腰抜け野郎」と言ったに等しい。

 そっちこそ! アーサーがバックにいるからって言いたい放題してるチキン野郎のクセに!


「コーエン卿。たしかに私は騎士ではない。修道院の出身で騎士団に所属したことがないからな。……だが、婚約者を侮辱されて黙っているほど優しくはない」


 やだ、マジでウィルがかっこいい。

 どうしたんだろう。


「でしょうな。では、お前らかかれ!」


 後ろの騎士10人が前に出る。オイコラ。


「ちょっと待って! 2人に10人がかりとかバカじゃないの!」


「うるさい! 男の勝負に口を出すな!」


 あ、そう。そう言う態度。へー、はーん。


「だいたい、こんな女と婚約するウィリアム殿下も問題だ。だから修道院育ちはこれだから!」


 ……あっそ、私だけじゃなくてウィルもそうやってバカにするのね。挑発じゃなくて本音なのね。

 うん、もういいや、大人しくするのやめる。ウィルをバカにされて下を向くほど私は大人しくない。

 もうどうでもいいや。

 私はボキボキと指を鳴らす。


「こ、コーエン卿。やめろ。レイラに謝れ。頼むから!」


 真っ青になったウィルがあわてて止めに入る。

 もう遅いと思うのよ。


「はーい、一番レイラ。喧嘩にエントリーしまーす」


「は? 今なんて?」


 コーエンくんが間抜けな声を出す。もう知らね。

 次の瞬間、私は騎士に向かって猛突進。

 某史上最強の女子レスリングチャンピオンの如きタックルをぶちかます。

 そのまま騎士をテイクダウン。

 頭をしこたま打ちつけた騎士が気絶する。

 今度は別の騎士の背後に回り、後ろから締め上げる。


「ウィル! まーくん! 見てないで助けて!」


「あー! もう、このおバカ!」


 もう、それからは殴り合い。決闘なんてどこかに飛んでしまった。ただの喧嘩である。

 まーくんもウィルも殴り殴られ鼻血を出しながら拳を振るう。

 私は地味に絞め落としたりぶん投げたり。

 数人を絞め落とすと、武装した騎士たちがやってくる。近衛の騎士たちだ。

 喧嘩を止めにきたのだ。

 結局、数分後には20人の騎士に引き剥がされ喧嘩は終わってしまったのである。


 1950年、アメリカ合衆国アリゾナ州の砂漠。

 宇宙人が政府機関に捕獲された。西ドイツに移送中に溶けたと言われている。あの有名な写真である。

 今、私は捕獲された宇宙人状態だった。だうーん。

 暴れて変な髪型になった私は、屈強な騎士にがっちりと両腕をつかまれ引きずられていったのだ。玉座の間に。


「それで、だ。魔法もなしにコーエンのバカ息子と騎士二人を締め落とし、一人は気絶。近衛騎士相当ともささやかれているようだが。これは誰の婚約者かな?」


 たいへん面白い姿になった私たちは、陛下の前にいた。


「父上、たいへん申し訳ありません。私の婚約者です」


「いや……レイラに決闘を申し込んだのだ。レイラがそれを受けるのは問題ない。騎士であれば決闘で廊下を汚すのもよくあることだ。だが……女性に決闘を申し込んだコーエンが愚かなのだ。本当に……愚か者め。ドラゴンのしっぽをわざわざ踏みに行くとは。のう、レイラ。お前は、自分がなにをやったかわかっておるのか?」


 普通に女子としては次世代まで語り継がれる大恥ではある。


「おそれながら……コーエン様も私と同じように末代までの恥……かと」


 まあ痛み分けだよね。うん。


「いいやレイラ、それは違う。コーエンはその能力を疑問視された。近いうちに隠居届けが出るだろうな。せめてアーサーの名を出しさえしなければもみ消せすこともできただろうに。それにレイラ、お前もだ。もうもみ消せぬぞ」


 あー、そうか。女子に負けちゃうと騎士失格なのか。

 まだ若いのに。かわいそうに。


「はい……ご処分ください。えーっと、まずは髪を丸めますか?」


「恐ろしい事を……騎士を素手で倒した勇者、それも女にその仕打ち。それでは王としての能力が疑われ隠居せねばならなくなるだろう。王としてできるのは、新しい勇者に褒美をやることだけだ。さあ褒美をやろう。なんでも言え」


「こ、鉱山が欲しいです。鉄とクロムと銅と……とにかく金属いっぱい!」


「わかった。好きに使え。どうせお前のことだ。倍にして返してくれるのだろう」


 ありゃ簡単だった。


「アーサーには私からよく言い聞かせておこう」


「いえ、今回はコーエンの独断専行かと。兄上の責任はさすがに……」


 ウィルが反論する。


「王になるものは、それでは許されん。今回のはやつの失敗だ」


 うわ厳しい。王族って窮屈だな。


「ウィリアムよ。兄弟の間にしこりが残らないようにする。たとえお前たちの意思に反してもだ。それが国のためだ。わかるな?」


「もちろんです、陛下。ありがとうございます」


 いや、ウィルのお父さん。話のわかる人だね!

 表向きしこりがなければいい。


「それと陛下。新しい魔術制御に関してですが……」


「好きにしろ」


「よろしいので」


「レイラは天災と同じだ。抗うことなどできぬ。せめて一緒に踊るしかない。アーサーもレイラに関わったのが運の尽きだったのだ。叱責はするが評価を下げるこつもりはない。あれにはレイラは扱えぬ。宮廷魔術師もレイラの持ってきたものは理解できぬだろう。ウィリアムよ、貴族学院に行くがよい。そこで話をつけて来るのだ。ちゃんとレイラを操縦するのだぞ。ウィリアム。それがお前への最初の試練だ」


「陛下、ありがとうございます。私に操縦できるのでしょうか……」


「問題はないだろう。お前はレイラに気に入られておるからな。だが、くれぐれも驕るなよ。災害は忘れたころにやって来るのだ」


「心しておきます」


 なんだろうね。この巨大怪獣扱い。

 私が目をパチクリさせていると、陛下が地から響く声を出した。


「さてと……最後にウィリアム、レイラ、マックス。三名にはウィリアムの父として処罰を加える」


 はい? え、ちょっと。


「尻を叩く年でもないか……では三人とも歯を食いしばれ」


 え、ちょっと、ゴゴゴゴゴゴゴゴってなによ!

 ちょっと、なんか大きい拳を握ったんですけど。

 ぼうりょくはんた……ぎゃぴいいいいいいいいいいッ!

 前世まで入れて30年が経過しただろうか。

 初めて拳骨を喰らったよ。

 みんな、喧嘩しちゃダメだぞ。

 こうして私は学院の魔術師と会うことになった。

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