第21話
ちゅんちゅんちゅんちゅん。
雀が鳴いた。
あ、何もないです。
あったのは……目が真っ赤なウィルとまーくん、それにジョセフ。
あれから私は正座で一時間ほどお説教された。
なんでもいきなりやるなボケカスと。
一応、私は頭の中でちゃんと契機をみているいるつもりだ。
今回もそろそろ頃合いかなあと思ったのだ。
でも他人からみるといきなりになるらしい。不思議だ。
ウィルは、とりあえず信用できる仲間を集めて大急ぎで検証をした。
もともとこの世界の魔法は不思議だ。
魔法の元であるシステム。それは本当に意味不明なもの。スパコンなんて比較にもならない高性能プロセッサーに、使い放題のメモリ、バカ広い記憶領域にスイッチだけがある状態だ。それも人間が扱える程度の個数。初期のコンピューターみたいなものだ。
それを経典見ながらパチパチといちいちオンオフしてたのが今まで。スイッチパチパチどころか、コードを抜いたり挿したりかもしれない。
そこに対話型のシステムとGUI、さらにコンパイラを入れてみた。
コンパイラってのは人間に理解できる言葉で書いたプログラムをコンピューターにわかるように翻訳するソフトね。
圧倒的に生産性が上がるから複雑なプログラムも作れるようになるよ。
容量はそれでも小さい。
つまり人間には理解できないパチパチを理解できるものにした。
今まで経典を解き明かした人は結構いたのではないだろうか?
独自のOSを開発した人もいるに違いない。
でも統合システムを開発してオープンにした人は私だけだろう。表計算とワープロもついてるよ。
そして新しい「おもちゃ」をもらった人たちは夜更かしをしたというか、必死に検証作業をしたのである。
ってね、こっちは開発に10年以上かけてるの。安全だって。
「で、お三方のご感想は?」
「お前一周回ってバカなんじゃないの?」
ウィルが私にハッキリと言い、まーくんもジョセフもうなずく。
「言うに事欠いてそれ?」
「あのなあ、レイラ、お前さあ、これが一番得意なんだろ」
「おう、よくわかったね」
一応、ハードウェア系とはいえプログラマーの卵だったからね。
「お前はバカなのか。本当になんでもできてしまうではないか!」
「さっきから感じ悪いな。なによ」
「お前な。自分で魔法を作り出せるシステムって、これだけでも子々孫々まで暮らすことができるぞ。歴史に名を残し、金も名誉も思いのままだ」
「あのねウィル、私は誰にでも使える技術が好きなの!」
貴族だけしか使えないなら意味はない。
インターネットだってみんなが使えるから面白いのだ。
「またそれか……」
「レイラ、ウィルは言葉が足りない。俺が補足してもいいか?」
「うんお願い。ウィルがなに言ってるかわかんないよ」
「魔術師の技術は貴族としての名誉に繋がる。たとえ女性であってもな。この圧倒的技量があれば、ウィルじゃなくてアーサー殿下の妃になることだって夢じゃない。庶民に恩恵はないが、間違いなく歴史に名を残すことになるだろう。それに引き替えレイラの進む方向は茨の道だ。後ろ盾は第二王子、開発者として名を残すことは不可能。すべてウィルに手柄を差し出すことになる。庶民は喜ぶだろうが、貴族の一部は君を危険視する。はっきり言って割に合わない」
うーん、ジョセフの言葉は真実だろう。たしかに割に合わない。だから私は魔法使いを選ぶ……わけねえだろ。
「おーい、そこのぼんくらども。まずな、私はアーサーの嫁になる気はない。次に名誉とかはどうでもいい。金を稼ぎたいなら化粧品と石けん、旋盤工場に火薬工場を作ればいい。それに私は職人。特科のみんなも、ギルドのおっちゃんたちも、錬金術師たちも大好き。白塗りお化けになって魔道士たちに偉そうにしてるとか地獄だわ」
「そうか。それならいい」
ウィルはふっと笑う。
すると足音が聞こえてくる。大勢の足音だ。
「やあ、ウィリアム。それにレイラ」
朗らかな笑顔でやって来たのは十人もの兵士たちを伴ったアーサー。
私とまーくん、それとジョセフは膝をつく。
ぶっ飛ばしたい。そのツラ。
「知己のものが教えてくれたのだ。なにやらウィリアムが陰謀を張り巡らせているとな」
ウィリアムも私も目が点になる。
「なんの話でしょうか?」
「なにやら画期的な魔術を隠匿しているようではないか」
「隠匿?」
ウィルが首をかしげた。その仕草は、なんとなく柴犬に似ている。
「利益を独占していると聞いているぞ」
なるほど。ここで話をしてたから誰かが密告したのか。
ウィルも納得したらしい。
「隠してなどおりませんが……」
「え?」
アーサーはキョトンとする。
ウィルはほほ笑む。余裕の表情である。
「【端末】をご所望ですか。レイラ」
はーい。
私はインストールシートをシャコシャコと印刷し、兵士に差し出す。
兵士はまるで化け物を見るような怯えた表情でシートを手にする。
「人体に有害かもしれぬ。まずは預からせてもらおう」
あ、びびった。
お兄ちゃん、びびっちゃった。女の子にびびっちゃった。
私たちの間に無言という名の緊張が走る。
だけどここで空気を読めない男が余計な事を言う。
「兄上、私は平気でした。健康に影響はありません」
アーサーの表情が凍りついた。
バカー! ウィルのバカー!
私はウィルの背中をつかむ。
やめろ、やめてくれ!
「あ、ああ。い、いやレイラ嬢を信用しないわけではないのだが……」
アーサーは歯切れが悪い。そりゃそうだ。
つまりである。
私がプリントしたものなので、それを疑うというのは、レイラは信用ならんと表明しちゃっているわけで。
それだけならいい。王族の慎重さは美徳だ。だけど、女子のやることに恐れおののいた。これってこのマッチョイズムあふれる世界では致命傷だ。
騎士に「うわだっさ!」と思われたら王族はやってられない。誰もついてこないのだ。なめられたら王族はやっていられないのよ。
要するに、ウィルはアーサーへ悪意なくゲージ全てを奪うコンボを決めてしまったのだ。これウィルは自覚ないよ!
修道院育ちの無菌培養があだになったよ!
私は必死に考えた。
昔の侍は腹を切る前に死に化粧を施したと言われる。
土気色に変わる首をさらすのは良くないと考えたのだ。
ここの王族も美しく散るのが美徳に違いない。
「……ウィル様。殿下は生まれながらの覇者。たとえ散るとしても準備があるのです。常在戦場それがアーサー様なのです」
私はTPOを完全無視してアーサーのフォローに入った。
本当だったら口を開いただけでも人格を疑われかねない。
それだけ私は必死だった。恨みを買ってどうすんのさ!
「れ、レイラ嬢。君は物事の道理というものをわかっているようだね。あはははははは」
よしごまかせた!
騎士たちも冷や汗を流しながらも強引に幕引きしてしまおうと動く。
「で、殿下。そ、そろそろ、へ、陛下とのお約束が」
「あ、ああ。そ、そうだったな」
ウィルが余計な事言う前に早く逃げてー!
祈っているとアーサーたちは足早に逃げていく。
なぜ私が敵のフォローをせねばならない。
「ふう、なんとかやり過ごした」
アーサーってなんてバカなんだろう。そう思うかもしれない。
でも私にはわかる。アーサーは焦っている。
そうじゃなきゃ、こんなしょうもない凡ミスはしない。
ウィルを恐れているのだ。
「ウィル、陛下に許可とって設計図を宮廷魔道士に配っちゃおう」
「お前はなにを考えている?」
「要するに、秘密じゃなくなりゃいいのよ。ジョセフは私とプログラム組んで。ウィルとまーくんは操作をおぼえる」
「レイラ、俺は魔力が少ない」
ジョセフが一歩引く。だけど逃がさない。
端末は脳や神経を直接動かすので、今まで魔法が使えなかった人でも魔法が使えるようになる……はずなのだ。
「一般人でも使えるってのが一番の売りなの。ジョセフやるよ!」
どうしよう。
アーサーを完全に敵に回したような。
どうか「生かしておくわけにはいかない」とはなりませんように!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます