第13話
正座、西洋風ファンタジーの世界では主に罪人がさせられる。
つまり今の私は罪人ということだろう。
首からは「私は危ないことをしました」の木札。
えーっと前回成功したと思ったショットガンだけど……その後破裂した。簡単に。
前回はたまたま大丈夫だっただけだ。悲しい。
被害に遭ったのはまーくん。
怪我をしてたら心の底から申し訳ないと思うが無傷。
なんでもそういう特殊な魔法の使い手だそうだ。
私は廊下で正座して反省。
錬金術師と特科の連中で納入分の話し合いが行われている。
私のシェフのおまかせ合金じゃダメだったのだ。
たぶん銃身をちゃんとしたミスリル銀で作ることになるだろう。
おかしい……他の転生者は銃を簡単に作っていたぞ。
なぜ私だけが警察に怯えながら具体的な成分を言えない火薬作ったり、銃身が外国産コメディみたいに裂けたりするのだろうか。……200年以上前の技術がこれほど高度だとは思わなかった。
しかしながら、本当の狙いは銃ではない。銃はおまけだし、権力側にわかりやすいデモンストレーションだ。
本命は鉱山用のアレなのである。
ゴトゴトと意味不明な装飾がされた馬車が揺れる。
なぜか窓には板ガラス。どうして板ガラスだけはあるんだこの世界。
機密性は微妙。風が吹き込んで涼しい。……むしろ寒い。自動車は間に合わなかった。尻が痛い。
荷馬車の方が広くて快適だったかもしれない。
結局、ショットガンは10丁も作らされた。
私の設計はかなり修正された。
素人の設計はやはり使い物にならないらしい。
青写真のみに記載される奇抜な戦闘機。
軍事ベンチャーが金を集めるときだけ存在するやたらカッコイイ試作機。
そういう立ち位置だった。
なにせ「金属を使いすぎだ!」とあちこちで怒られたほどだ。
結局、なんだか木の温もりのあるシックなデザインに落ち着いた。とても既視感がある。
結局、ローレット加工だけは上達したような気がする。
現代では3Dプリンターでできちゃうようなものなのに。やっぱり難しいのね。
日々勉強である。
徹夜で作業しようと思ったら、クマができると言われて睡眠を取らされた。
結局、私は溶接と薬莢のがっちゃんこ、それにローレット加工だけである。
ただ鉛とか爆薬を作るときは気をつけろと口を酸っぱくして言っている。
知り合いに怪我でもされたら目覚めが悪い。
まーくんには申し訳ないことをしたので反省。……と成長を実感している最中に小屋が一つ吹き飛んだ。爆薬の製造って難しくない? 同じ手順なのにこの有様だよ!
人がいないときの自然発火らしく被害はなし。片付けの最中に職人さんが捻挫したくらいだえろう。
その後、錬金術師さんによって手順の見直しが行われ爆発事故は減ったのだった。
なお、それもミアさんとウィルに説教された。
「こんな恐ろしいものを街中で作るなんて!」だそうである。
言われて初めて気が付いたので謝り倒した。
そして現在。
私は馬車の席に座っている。
ねえ、メイク濃くない?
夜会のときより濃くない?
なんか瞬きすると粉がパラパラ落ちるんですけど。
なお鉛とか水銀入りのため健康に悪い。現状それしかないし、使わないという選択肢がない。指先が痺れてきたら私の寿命だろう。たしかお湯で落とすと蒸気を吸うから死亡フラグが立つんだよね。
馬車に乗る前に扇子を渡された。これはオシャレではない。水銀中毒で口の中が黒くなったのを隠すため。そんな余計な豆知識をおぼえていた。私のバカ! 知らなきゃ幸せでいられたのに!
それにしても、わからないのは技術レベルが低いのにガラスの鏡だけはあるという謎。
魔法という説明なのかな?
でもその前に有毒化粧品をどうにかして欲しい。
化粧後の顔は悪役顔である。表情が無駄にキツい。
ウラヤーでは潮風があるせいで化粧がボロボロ落ちる。
油でもつけとけばいい的な文化なのだ。だけど王都は厚塗りが基本。なので私も厚塗りで凶悪さが誇張される。
……私を凶悪にするためだけに厚塗りなのではないかと疑っている。
今回こそラスボスになるかと思ったが、ギリギリラスボスではない。なんとか踏みとどまっている。四天王クラスだろう。
悪役にだけ優しくない世界に乾杯!
ウィルは私に目を合わせない。ぷるぷるしている。
「あいーん!」
「ぶッ!」
アウトー!
黒子の人がウィルの尻に一撃加えてくれることを信じて。
「れ、レイラ。ぶふッ!」
「あとで3倍返しですわ。おぼえてろよ!」
自分でも笑うしかない。
外で馬に乗って護衛をしている、まーくんもブッと噴いた。
二人がハッピーになったのなら厚塗り化粧の甲斐があったというものだ。
私たちは街を出てトロトロと街道を進んでいた。
もうちょっと飛ばして欲しいが、それは貴人的にエレガントではない行為らしい。
汽車と自動車の開発を急ごう。私のために。
私は魔方陣を展開しCADを呼び出す。
現在の文明レベルはアメリカ独立戦争当時くらいまでは来ただろう。冶金だけ微妙だけど。
さっさと明治時代まで飛ばしたいものである。
私はブツブツ呟きながら図面をいじる。
そのときだった。
ドンッと馬車が揺れる。
「な、なに!? 石でも踏んだ!?」
だけど低速の馬車が石を踏んだところでこんなに揺れはしない。
それは私もわかっていた。
ドンッ!
矢が馬車の壁から顔を出す。
おーっと! 襲撃だった!
「レイラ、頭を下げろ!」
ウィルが私をかばう。
「マックス、敵の人数は?」
「弓を持った賊が数人。迎撃する」
だが私は話に割って入る。
「馬車を飛ばして! あの連中全滅させるから」
「お前、なにを……」
「いいから! 怪我人出る前に!」
「……ああ、わかった! 全速力で逃げろ!」
馬が走り、ガラガラと音がする。馬車は揺れ、私はその隙にウィルを振りほどく
私はアイテムボックスから【アレ】を出す。
苦労したのだ。作らないわけがなかろう。
なにせニトロ……じゃなくて謎の液体と珪藻土を混ぜるだけなのだ。
紙巻きされた棒に導火線。そう、ダイナマイトだ!
魔術で指から放電。導火線に火をつける。導火線から火花が散りパチパチと音を立てる。
私は馬車から身を乗り出し箱乗りする。
「おりゃー!」
ダイナマイトをぽーんと放り投げた。
ダイナマイトは護衛を飛び越し、賊の手前に落ちる。
「危ないだろ!」
ウィルに服を引っ張られ中に戻される。
次の瞬間、ドーンっと大きな音がした。
馬車が小刻みに揺れ馬が鳴いた。
遠くで大きなものが倒れた音がする。
火薬のにおい。焦った護衛の声が聞こえる。
「マックス! どうなった!」
「馬が倒れて賊は総崩れ。こちらの馬は魔法の音になれさせてあるから無事だ。いま逃げ遅れたやつらを捕縛してる」
成敗!
私が胸を張っていると、ウィルがぎゅむっとほほを引っ張る。
「お前さあ、なにしてくれちゃったのかなあ? なあ、仕事増やすなって言ったよな?」
「これは武器じゃなくて、鉱山の採掘用の道具だもん!」
「だもんじゃねえ! 今、武器として使ったよな!? なあコラ! 目撃もされたよな?」
ぎゅむぎゅむぎゅむ!
「うううううううう。いいじゃん、たくさんあるから一緒に提出しちゃえば」
「ウィル、レイラ嬢には何を言っても無駄だ。疲れるだけだぞ」
「とりあえず王都に着いたら没収な」
「一つだけ残していい?」
「だめ」
ひどいヤツである。私はむくれる。
こうして私たちは王都を目指すのだった。
……ちょっと待てよ。なんで襲撃イベントが起こるんだ?
ここって馬車の定期便が出てるくらい安全な街道だよ。
駅馬車襲撃はもっと後の世の文化だし……
なにかがおかしい。
だって馬って高級品だよ。
馬車は王族の紋章は入れてないけど警備が厳重。
荷物は家出中の悪役令嬢と政治的にあまり重要なポジションではない第二王子。
リスクは高いわりにリターンが少なすぎるような……。
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