第14話

 トラブルはあったが夜には王都に到着した。

 歓迎パレードはないが警備は厳重だ。こういうのは到着してからじゃなくて、来る途中でやってほしい。それならダイナマイトの没収もなかっただろうに。

 宮殿の入り口が見える。

 ウィルは王子なので顔パス。

 私はレイラ・ロリンズ伯爵令嬢として城に入る。侍女軍団に連行されて……臣下はつらいよ。

 この間も化粧の粉がパラパラ落ちていたので化粧直し。

 メイドさんに連行され顔面改造。

 キラキラ光る濃いアイシャドウを塗ったくったので悪役顔二割増量。

 髪型はドリルロール。

 もはやゴスを通り越してラスボスの貫禄がある。いらんわそんな貫禄!

 そんな顔面の乗った体にラスボス感のある黒のドレスを着せる。まあステキ! 吸血鬼の親玉みたい!

 もはやあきらめるしかない。覚悟を決めて玉座の間に挑む。

 玉座の間に案内されるとウィルがいた。笑ったら髪の毛むしるからね。

 私もひざまづく。

 玉座には王様。後ろには第一王子アーサーが控える。

 王は疲れた表情のあごひげ紳士。なお美形。

 アーサーは存在しないはずの薔薇が背後に見える。さすが乙女ゲーの王子! でもこいつ嫌い。

 ウィルが手を挙げると燕尾服の紳士が王にショットガンとダイナマイトを差し出す。


「ウィリアム、これはなんだ?」


「献上品にございます陛下。共に新兵器の試作品でございます。片方は【銃】。魔力のいらない杖でございます。もう片方は【ダイナマイト】。魔法を超える爆発力を持つ道具にございます」


 陛下は一瞥するとアゴヒゲをなでる。


「ウィリアムよ。これらは魔力がいらぬのか?」


「はい。力を持たぬ民にもたやすく操れる品にございます」


「ほう……これを考案したのは誰だ?」


「そこなるレイラにございます。このレイラは絶対に外国に取られるわけには行きません。そこで私とレイラの婚約のお許しをいただきたく思います」


 その途端、陛下は目を見開いた。驚きのあまり。


「お前大丈夫なの? ほら、女の子苦手って言ってたじゃん。お父さん心配してたのよ」


 素である。素で驚いてらっしゃる。

 ウィルよ。それほどまでに女子が苦手だったのか。


「こほん、陛下! 私のことはさておき……これなるレイラは国の宝。保護せねばなりません」


「それほどまでに嫁にしたいとは血は争えんのう。ワシもミアに出会ったころは」


 陛下は目を細める。

 まずい。昔話が始まってしまう。

 おっさんの自分語りと昔話は無駄に長い。阻止せねば。


「陛下。それはいいとして! このレイラに国家として援助をお願いいたします」


「それほどまでに愛してるのね。お父さんびっくりよ」


 どんだけ女嫌いだったんだよ。

 修道院育ちでまわりに女子がいなかったんですね。怖かっただけなんですね。男子校あるある。よくわります。


「と、いうのは冗談だ。この微細な細工、精巧な部品。特にこの部分のギザギザが素晴らしい」


 私は拳を握った。

 ローレット加工の素晴らしさがわかるとは、陛下は目利きだね。


「レイラの道具で誰でも加工ができるようになりました」


 そこにウィルが説明をする。

 なお私はドレス姿で片膝をつけたまま、顔も上げない。

 私は喋ってはいけないことになっている。

 身分制はムカつくね!


「ほう。誰にでも使え、誰にでも作れると。わかった。その道具の力を見せてみよ」


「では中庭で」


 そのままゾロゾロと中庭に出る。

 第一王子は私と目も合わせようとしない。

 でも謎だ? ゲームのシナリオに文句を言っても仕方ないが、なんで王族が伯爵令嬢風情と婚約しようと思ったのだろう?

 この世界の伯爵は日本に置き換えると譜代大名かな。

 その伯爵家の中でも領地が広大なため、ロリンズ家は有力な一族だと言えるだろう。

 だけど所詮は伯爵。あり得ないとは言わないが、本来なら良くて第二王妃がせいぜい。

 リリアナちゃんには悪いけど、庶民との結婚なんて絶対あり得ない。

 ゲームのレイラは結婚できると本気で思っていたのだろうか?

 バカなんじゃないの。かなり本気でそう思う。

 ウィルだって私が用済みになればどこかに行っちゃう人だよ。

 ウィルは結婚とか乙女全開なこと言ってくれるけどさ。公爵とか侯爵家に釣り合う子がいくらでもいるだろう。

 考え事をしていると中庭に着く。

 鎧をつけた案山子がいくつも並んでいる。

 なるほど、ここは騎士の練習場だ。


「レイラ、鎧を撃て」


 なぜかウィルは私にショットガンを渡す。


「いいの? ……ではなくよろしくて」


 うかつだった。突然のことで対処できなかった。


「女性でも使えることをアピールしたい」


「了解! さあ、やりますわ」


 パーンッ!

 弾を装填し鎧に向けて発射。

 弾は火薬多め。弾は大玉六発。

 鎧に六つの穴が空く。勝った。おなごの腕力でも鎧を貫通したぞ。

 貫通しなくても骨折れちゃったりとか怪我するよね。

 行くぞもう一発。

 パーンッ!

 またもや鎧に穴が空く。

 弾薬交換。今度は盾に向かって発射!

 パーンッ!

 こっちはさすがに穴は空かない。

 だけど一発でひしゃげた。


「なんと。ウィリアムよ。そなたは恐ろしいものを作ったな。正直言うが胃と頭が痛い」


 王様は口調は元に戻った。

 どうやら具合が悪そうだ。もしかして私のせいかも。


「恐れながら陛下。これはまだ試作品です。もう一つの方を。マックス頼む」


 まーくんがダイナマイトの導火線に渡された松明で着火。

 遠くに放り投げる。

 さすがに私の腕力では危ない。よい判断である。

 ダイナマイトは放物線を描き着地。そして爆発。

 どーんっという音がして、鎧が吹き飛ぶ。兜が飛び近くの木の幹にドスンと突き刺さった。

 考えていたより威力が大きい。安定してないようだ。

 そういやなんで土と混ぜたんだっけ。

 よく考えるとガンパウダーの製作過程でアセトンで混ぜたやつをすでに作っていた。伝記が元ネタなので固定観念で作ってしまった。どうしても専門外は雑だ。


「……なんと」


「このように恐ろしい道具を作る彼女を野放し、ごほんごほん、他の国に盗られるわけにはなりません。陛下、なにとぞご助力をお願いいたします」


 今、本音が出たよね。


「うむ、わかった。かような恐ろしい道具を作るまおう、げふんげふん。乙女? を野放し、げふん。他の国に渡すわけには行かぬな」


 陛下も本音出てるよね?

【乙女】の後の疑問符なによ?

 私がビッチと言いたいんかい。ラスボス風の顔だけど前世から続けて乙女だぞ。

 逆ハー状態の工業高校にいたのに全くモテなかったぞ。

 神よ。いつかぶん殴ってくれる。

 私が悔しさのあまり歯ぎしりをしていると、まーくんがフォローしてくれる。


「恐れながらウィリアム様。レイラ嬢がたいへんお怒りです。猛獣を追い込まぬようお願いいたします」


 もうじゅう?


「おう、マックスすまなかった。レイラ、すまん」


 ぎりぎりぎりぎり。

 歯ぎしりの音が響く。


「わかった。その顔芸やめろ。謝るから!」


「食べ放題。デザート付き」


「それくらいなら毎日おごってやる」


 その言葉おぼえてろよ。

 食べまくって破産させてやるからな。


「ふむ、どうやら。そなたらは相性がよさそうだ。レイラよ。ウィリアムと仲良くしてやってくれ」


「かしこまりました?」


「レイラ、なぜ疑問系なんだよ」


「ウィリアム殿下が意地悪だからです」


 私たちのやりとりを見ていた陛下がほほ笑む。


「ふっ、よくわかった。お前たちよ。レイラには最大限の協力を約束しよう。ただしこちらの依頼を聞いてもらう。まずは銃を100丁納入せよ。これだけのものだ。期間は問わぬ。必要なものはそろえよう」


「かしこまりました!」


 こうして私のパトロンは正式に国家になったのである。

 さあって、次は何作ろうかな。

 そろそろ機関車が欲しいな。

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