第12話
※今回はいろんなところへ忖度してお送り致します。
マスクと革の手袋をつける。
鍋の中には融点を超え液体になった鉛。
もう一つの鍋には冷たい井戸水。
熱した鉛を一滴。水へ落とす。
冷えて固まり丸い球体ができあがる。
鉛を吸い込んだら病気になる。
何人も死んでいるし、医術の発達してない世界ではこれからも死人が出るだろう。
私も鉛中毒の治療方法は知らないし、それだけ頭が良ければ工業高校ではなく普通科で医歯薬系の受験勉強をしていただろう。
でも一度くらいなら死にはしない。理科の実験レベルだ。
考えている間に玉がいくつもできる。
これから作るものには鍋いっぱいの玉が必要だ。
玉を作り終えるとアイテムボックスから出した機械の前に行く。
一応、プレス機らしきものだ。
これでがっちゃんこ、がっちゃんこと手作業で銅板から小さな円筒を作っていく。挟まれると手がもげるので慎重に。
もうなにを作っているかわかるかもしれない。銃である。
拳銃とかライフルとかは少し難しかったので散弾銃だ。
普通の銃はライフリングという溝を掘らねばならない。
たしか回転させてジャイロ効果で弾丸を安定させるらしい。
でも実はライフリングの堀り方は知っている。めねじ切りの応用で専用の工具を開発すればいける……はずだ。動画投稿サイト嘘つかない。今回はいらないけど。
問題は弾だ。雷管と火薬は作れたんだけど、薬莢作るのも面倒で難しいのに、先端を作る自信がない。
本当に鉛でできるん? なんか作ってみたら気泡入っちゃったんですけど。
おかしいな。生前見た動画ではガラスの弾丸だって作っていたのに。
というわけで、ちょっと怖いので今回は散弾銃にしようと思う。構造も単純だし。
あらかじめコソコソ作っていたパーツを出し組み立てる。
ゾンビ映画御用達の水平二連式。ビジュアル重視で進行してます。
銃身は他に選択肢がないので鋳造。ただしファンタジー金属との合金。
パイプなので作ることができた。中をキレイにするついでに少し削り、なるべく真っ直ぐにする。
一部は私のアーク溶接の魔法でくっつけた。溶接機は開発できなかった。誠に残念である。
ただ、錬金術師たちは理屈を理解したので、そのうちできるんじゃないかなと思う。
ここまでが動かすために必要なこと。オリジナルが欲しいので照準器に綾目のギザギザ、ローレット加工を施した。
美しい。……嘘つきました。実習だったら居残りさせられているレベルだけど、なんとかできた。
一番苦労した引き金と中折れ機構のバネは職人に発注。これもなんとかできた。引き金は少し重い。
弾は金属の土台と雷管、鉄の玉を紙とロウで包んである。
ガンパウダー、要するに火薬は濃……と詳しく書くとまずいな。
とりあえず●酸と●酸をアレしてできたアレと綿をアレしたものと、アレにグリセリン加えて作ったニトロというか●酸なんとかをアレして……栃の実をアレして抽出したアセトンを加えて練って乾燥させて作ったアレである。とにかくアレなのだ! わかってくだされ。具体的に表現した終わってしまうのよ!
つまりアレなのだ!
……この世界まで転生前のポリスは追ってこないな! うん。
せっかく錬金術師の工房借りて夜なべしたんだから邪魔はさせない。
なお雷管はもっと世間様的にまずい。書くと世間的に終わりかも知れないのだ。
水銀は病気の治療に使われるので大量に手に入った。
なので基板を作るためのエッチング液的な「なにか」と「なにか」を反応させて、水銀をアレして起爆薬、雷汞を作った。雷管完成ですよ!
途中、しゅうしゅうと黄色いガス出て液が沸騰したのであわてて逃げたが、それはもう過去の話である。
生きているのが奇跡のような気がする。でも気にしない。なにもせず運命を受け入てたら近いうちに処刑されてた身。怖いものなどない。
爆発事故と毒ガスでよく死ななかった! 私偉い!
しかもちゃんと爆発する。偉い!
なお、化学苦手なのになぜ知っているのかは黙秘する。……ポリス怖い。……前世で死んだ後に親はノート見て驚いただろうな。
なんだかテンション上がってきたぞ。
それで組み立てた銃を……って油塗り忘れた。しゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃか。
油の原料は黙秘させて。ちょっと素材が火薬レベルにまずいのよ。別方面で。書いたらアウト。
海の野生動物保護団体に知られたら処刑されるレベル。
ふう……、今私はお外にいる。
試し撃ちをしなければならない。
作ったからには安全性は重要なのである。
爆発したら指もげるし死人が出るし。
なので木にくくりつけて引き金をヒモで引っ張ることにした。
なお、くくりつけた木の下に銃身が裂けて錆びた銃らしきものが何丁か落ちている。
爆薬って作ったはいいけど量がよくわからないよね?
「さあ、行くぞー!」
今までの失敗は火薬の量が多すぎたのだ。絶対そうだ!
ヒモを引っ張る。
ガンパウダーの破裂音が響く。玉が発射され的として用意したフライパンに直撃する。
カーンという高い音が響き、フライパンが揺れる。
銃身は?
銃身に駆け寄る。銃身は裂けてない!
成功である。頭の中にあの有名ボクシング映画のBGMが鳴り響く。
銃ができた! いま、私は世界に勝ったのだ!
ひゃっほー! やったぜみんな! 転生知識チート民の義務は果たした!
もし転生したのなら栃の実をアレするところから始めてみよう。アレよ!
ドドドドドドドドド!
映画「プラトーン」のエリアス軍曹の死亡シーンのポーズを取りながら感激しているとなにやら音がしてくる。
「てめえレイラアアアアアアアッ! またなにかやりやがったなあああああああああああッ!」
ウィルである。なにやらブチキレている模様。
誰だ怒らせたのは。
「やっほーウィル! 陛下への献上品ぎゃんッ!」
ほほをつかまれる。
「ここのところ変な音がするって苦情がきてたんだよ! お前か! お前がまたなんかやったんだな!」
「にゃんでそれだけでわかるにょー!」
ほほをさらに引っ張られる。
「お前が錬金術師の工房を借りてたのを突き止めたんだよ! このドバカ!」
「国王様への献上品を作ってただけだにょー!」
私が抗弁していると、まーくんがショットガンとフライパンを検証する。
「ウィリアム。フライパンに穴が空いている……レイラ嬢。これは武器か? 魔法の杖なのか?」
「違うよ。魔法じゃないにょ。狩猟用の鳥撃ち道具だにょ!」
するとウィルは私を解放する。
まったく、暴力的なやつだなー! ぷんすか!
するとこめかみに井桁マークをつけたウィルが私に詰め寄る。
……笑顔が怖い。
「説明しろ。レイラ」
「だから狩猟用の道具だって。火薬で小さな玉を弾いて飛ばす道具」
「ほう? 詳しく説明しろ」
「一つの弾丸に100くらいの鉛の玉をばらまく道具。連射は二発。再装填は弓と同じくらいだけど当てるのは簡単。ちょっとウィルどいて」
そう言いながら私はガコッと銃を折って弾丸を取り出す。そのまま弾を装填。
そのまま弾丸を発射する。
パーンと音がしてフライパンの端っこに命中する。さらにもう一発……今度は外れる。ノーコンである。
だけどフライパンを外れた散弾は後ろの木に命中。木の幹が砕けた。
「ちょっと待て……なんだそのふざけた威力は……いやそうじゃない。女性でも使えるのか? 弓より早いのか!? 説明しろ!」
「これは威力の低い小動物用の弾丸だよ。次は鹿用の弾丸」
今度は小さな玉が100発入ってる方ではなく、大きな玉が6発だけ入っている弾丸に切り替える。
火薬も気持ち多い。
今度は照準器をのぞいて、ちゃんと狙って発射。
弾丸はフライパンの真ん中にぶち当たり大きな穴が空いた。
「おっしゃー! 命中!」
私は大喜びするが、ウィルとまーくんは顔を青くしている。
「レイラ、お前……正気か?」
「なにが?」
「こんなん発明されたら鎧の意味がなくなるだろが! 世界が変わっちまうだろ!」
「あー、そうね。貫通するかも。これでも本命よりは威力が低いんだけど……」
「……はい?」
「本当はさあ、ライフルっていう射程が数倍のが作りたいんだけど、精度が必要でさあ。みんなが旋盤の性能を向上してくれたら作ろうと思ってさ……」
「レ・イ・ラ! お前は俺を殺す気か?」
うりうりうりうり。
今度は指でうりうり攻撃。
「な、なんでー!」
「あのな。今、俺はお前に関する各種報告書を文官と錬金術師総出で書いてるわけよ。徹夜でな。なのにまた報告しなきゃならんことを増やしやがってからに!」
「えー! だって陛下へのプレゼントだよ! 男の子はこういうの好きでしょ?」
私はウィルの後ろを見る。
するとまーくんが目をそらした。これは好きだな。ふふふ、口では強がっても体は正直ね。
「じゃあさ、撃ってみなよ! ねえ、まーくん」
「あ、ああ。いいのか?」
「いいよ弾いっぱいあるし」
ウィルの手を払うと、こそこそと作っていた弾をまーくんに渡す。
正直じゃないウィルは後回し。
「えっとこれが照準。狙うときは肩に銃床を当てて……そうそう。安全器を外してから引き金を引いて」
引き金を引いた瞬間、パーンと音がした。
一瞬だけぐらっと体が揺れる。
散弾は逸れ木の幹に当たる。幹がバキッと音を立てて砕けた。
「……これは……衝撃的だ」
「でしょ、はい。次」
二発目はフライパンに命中。穴を空けた。
「次はウィルね」
私は弾丸を装填するとウィルに銃を渡す。
ウィルも銃を構え、安全装置を外し引き金を引く。
パーンッ!
香ばしいにおいが鼻腔をくすぐる。火薬の匂い大好き。工業高校生は海と花火が大好きなのだよ。あと自転車。
ウィルは一発でフライパンを撃ち抜く。お、上手だ。なんだか悔しい。
そしてもう一発。取っ手がちぎれてボロボロのフライパンが地面に落ちた。
「……冗談だろ。なあレイラ、これって魔道士じゃなくても使えるよな?」
「使えるよ。そうじゃないと意味ないし。動物を捕るのに使えないと意味ないし」
「動物? 狩りかよ! 歩兵の概念を打ち破りそうなのに!」
「それは勝手にして」
それは政治家の仕事。
私はただのエンジニア? 職人かな?
銃は戦争に使われて犠牲者が増えるのは知っている。
だけど地方での狩猟が容易になり食糧事情が改善、危険な生物の排除が進み人類の生息区域も拡大する。
それよって犠牲者の何倍もの命が助かるのも事実なのだ。
それに戦争の直接的な原因は私ではない。道具を作っただけの人に責任を求められても困る。
はい、言い訳終わり。
「勝手に……ってお前なあ。まあいい。こいつを手土産に持っていくぞ。でもいいのか?」
「なにが?」
「あのなあ……こんなの持っていったら王国はお前を手放すことができなくなる。要するに……俺との結婚が確定するぞ」
その発想はなかった。
でも結論は決まっている。
「いいんじゃね?」
元婚約者を処刑できる冷徹男の第一王子ならお断りである。
普通の男の子って立場的に絶対的弱者の元カノをサクッと殺したりしないよね?
せいぜいぶん殴るか、追放するかって程度だと思う。
それを殺しちゃうのだから怖い。
嫁になっても命の危険に怯える毎日よ。
そう言う意味では第一王子アーサーは無理。
でもウィルは信用できる。
恋愛感情とかはわからないけど、本性を隠さなくていいから楽だ。
それに私を心配してくれてる。
「いいんじゃねってお前人生の重要な決断をそんな簡単に……」
ウィルはモジモジしてる。女子か!
「ウィルは嫌じゃないの?」
「……黙秘する」
そう言ってウィルはそっぽを向く。
なんだその答え! この女子苦手っ子! ばーかばーか! へたれー! ちゃんと言え!
うん? ちょっと待てよ。
そういや婚約……私と第一王子の婚約っていつだ?
たしかゲームだと今ごろ発表されてたはず。
なんだろうか。このシナリオが追いついてきた感じ。
完全に狂わせたシナリオ通り、第一王子に私が処刑される……。
まっさかー、そんなことないよね?
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