第9話
さあ、とうとう製作が始まった。
図面だけだと詳しい機構を説明できない。
今は3Dプリンタでパーツのモデル作って組み立てているところだ。
それができたそれらのパーツの型を取って金属で鋳造。金ヤスリで削ってパーツの完成という予定である。
強度があまり必要ないところは青銅で作る予定だ。
鉄は生産量の対して余剰分が少ないのであまり使えないのだ。
産業革命マジで必要。
今ならジ●ングで、現代の素材が生産できなくて主砲の完全な修理ができなくなったときのクルーの気持ちがよくわかる。
刃に関しては、試作品だけはインチキしてミスリル銀を使う。
鋼鉄とか合金の生産までインチキ続行させてもらう。
「おい……レイラ」
作業をしているとウィルが私に話しかける。横にはマックスもくっついている。
「なあにウィル?」
私の作業着姿には一切触れず、ウィルは小さな部品を指さす。
「なぜこのネジは全て正確に同じ寸法なのだ?」
「フライス盤があるからです」
私は聖母のようにほほ笑む。
「精密なネジを作る道具を作るのに精密なネジが必要なのはおかしくないか?」
「……勘のいいイケメンは嫌いだよ」
ちっ、気づきやがった。
「なあそれって永久ループ……」
「初号機は私の錬金術で。二号機から本気を出せばいいのです!」
私はそう言うと黙々と作業を続ける。都合が悪くなったので黙ったとも言う。
なお飛行機に使った部品の数々は金の力で作った特注品である。
「お父様ドレスが欲しいの~」と黄色い声を出して資金を流用した。
何度も言うが、金をかければ時代を先取りできることはコンピューターサイエンスの歴史が証明している。
「はいできた!」
まずはボール盤。これはすでにある道具だ。
「こいつを金属で作るのだな」
「そう。軸がミスリル銀ね。刃もできれば頑丈なやつ」
刃やドリルは現在ジョセフたちが必死になって作っている。
がんばれみんな!
「レイラ、なぜそこまで頑丈さにこだわるんだ?」
「蒸気のパワーって馬数頭分なの。そんな力で削っている最中に軸や刃が自分に飛んできたらどうする?」
「……確実に死ぬな」
「そういうこと。機械に巻き込まれただけでも死ぬからね。木工の現場だって結構死んでるでしょ。気をつけてね! 機械ってのは怖いんだからね!」
日本ですらも労災で結構な数が死んでいる。
私の機械で不幸になる人はできるだけ少なくしたいと思う。
だが、そんなことを言ってもわからないかもしれない。
なにせウィルは修道院育ちとはいえ王子様なのだ。
「ふん、なにを恐れることがある。修道院では煙突の掃除で死んだ者もいるし、叔父の一人は子どもの時に馬から転落して死んだ」
前言撤回。なるほど全体的に命の価値が安いのか。
そりゃ世界人権宣言がない世界はそうだよね。
日本だって数十年前まで労災とか過労死が起きても誰も興味なかったらしいし。
「それが特科の仲間だったら嫌でしょ。気をつけてください」
するとウィルは変な声を出す。
そうそれは成長した我が子を見たかのような声だった。
「お、お前……人間だったのだな。もっと工業のことしか考えてない鬼畜だと思っていたのに……偉い! 偉いぞ! ぐべッ!」
私は無言でウィルの喉に抜き手をかます。地獄突きである。
なんだろうこのマブダチ感。
「ぐ、ぐは! なにをする!」
「むかついたのでとりあえず地獄突きした」
「お、お前なあ、仮とはいえ俺は婚約者なんだぞ。少しは優しくしろ!」
「女の子の悪口言う人は知りません、ねー、まーくん」
その場にいたマックスは少し考えると重い口を開く。
「レイラ嬢、ウィリアムを教育してやってください」
「てめー! 裏切ったな!」
「もう私には女性嫌いのウィリアムがレイラ嬢と結婚する未来しか見えない……」
「てめえマックス! 俺を残念な子みたいに言うのか!」
渋い顔でふるふるとまーくんは首を横に振る。
……今まで苦労したんだね。
わかるよ……ウィルはイケメンなのに女子に囲まれると怖くなっちゃう残念な子だもんね。
結婚はないと思うけど。
「はいはい、こっちもできたよ」
今度はフライス盤だ。
「なるほどな……そういう道具か……」
切削工具を動かして削る。
本来ならこれだって専門外だ。
私の専門分野は電子工作とプログラムなのである。
異世界転生で最強は化学か機械工学ではないだろうか?
あと土木と建築。わたくし、土木と建築はまったくわかりませぬ。
「はい完成。あとねじ切り器のモデル作るね」
ねじ切りは重要だ。
ボルトにナット、水道やガスのパイプにと世界を支配している。
これさえ作れば世界を18世紀レベルにまで引き上げることが可能なのだ!
「レイラ……これらを作れというのか?」
「そう。道具を作ったら機関車とかの本命ね」
なにかを製作する場合、ツールを先に作らねばならないのだ。
くくく、私の時代が来る。
産業革命ってやっぱり凄いよね。
さあ楽しくなってまいりました!
そして一ヶ月後……。
「できたぞー……」
青い顔をしている男子たち。
それを見ながら私は勝ち誇る。
縦型のフライス盤がそこに鎮座する。
「フライス盤! 完成!」
私はハイテンションで腕を振る。
うろ覚えで私が設計し、細かいところをジョセフが直し、特科の男子がパーツを作って組み立てた。
……私とウィル、なにもしてなくね?
「本当に動くんだろうな」
さんざん模型で動きを確認したというのにウィルは念を押す。
「圧力計の数値が危険水域に到達すると爆発するけどね」
なおこれも強度計算はしたのだが手探り状態である。
とにかく燃料を入れ過ぎんなよって程度のものである。
「おーい!」
「冗談だけど冗談じゃないので気をつけてね♪」
焦るウィルを放って私は金属の棒を万力で固定する。
デプスマイクロメータやダイヤルゲージで計りたいが、開発は間に合わなかった。
バネ式の計測器って難しくない?
なので金属の分度器とノギスで計測し、正確な位置に取り付ける。
もう残されて手段はこれしかなかった。
最後にもう一度直角定規で確認する。
「ずいぶん慎重だな」
「新しい工具だから慎重にやりたいんです。精度も変わってきますし」
次に点火。
一号機の燃料は薪だ。薪におがくずをまき散らし、火をつけた松明を放り込む。
パチパチと音がし薪に火がつく。
本当は石炭の方がいいだろう。
校外作業の機械がないためか、石炭の生産量は多くない。要するに高い。
薪なら安く手に入る。つまりそういうことだ。
……最初から調子にのって予算を使いすぎると完成間近で詰む。いやマジで。
なので、とりあえず安価な材料で動けばいいという精神でやっていく。
それに石炭で温度が高くなりすぎたら、溶接してないので確実に爆発するだろう。慎重にやっていこう。
水が沸騰し、エンジンが蒸気を噴き出しながら音を立てる。
簡単な構造のものだ。
溶接技術があまり発達してないため、馬力的にかなりのロスがある。
これはあとで溶接を作らねばならない。
私はガラスで作ったゴーグルをかける。
ストッパーを外すと歯車がはまり、フライスが回転し始める。
「まずは成功っと」
私はまずはエンドミル、いわゆる刃で円柱状の棒を四角く削ってみようとする。
私は立ち位置からハンドルを回す。
すると棒がエンドミルに送られていく。
なるべく事故を減らすため、物体を直接触ることはない機構を作った。
エンドミルが棒に当たると、金属が削れていく高音が鳴った。
ドンドンと削りかすが出て、棒の局面が削れていく。
パワーはない。だが確実に削れていく。
周囲で見ていた特科の男子たちがゴクリとつばを飲んだ。
10分はかかっただろう。一面を削り終わってストッパーをかけた私は、ドヤ顔で振り向く。
するとウィルが額にしわを寄せ、男子たちは目を見開いていた。
「レイラ……精度はどのくらいだ?」
「数ミリ。正確に回転の中心を図る道具と計器を開発すれば、一ミリ以下になるはず」
ちなみにこの世界の単位は日本で使われているものと同じだ。
いろいろ言いたいことはあるが、楽なので受け入れとく。たぶん転生者が過去にいたような気がするが深くは考えない。
「ていうか、なによその顔」
「お前は自分がなにをしたかわかってないのか……いい、続けろ。完成したら教えてやる」
なによ。感じ悪いなあ。
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