聖プラチナム女学園 少年探偵倶楽部

八乃前 陣

第1話 少年探偵と生徒怪盗

☆プロローグ 目指せ普通の人生!


(ええと…)

 十代前半の春の、ある晴れた午後。

 眼鏡で小柄で面立ちの整った少年、善田一耕一郎(ぜんだいち こういちろう)は、黒いリムジンの車中にいた。

 運転手だけでなく、後部座席で左右から挟んで座る男性たちは、みな大柄で筋肉質で黒服でサングラス。

(これは…どう考えても…)

 広域指定暴力団とかによる拉致–。

(でも、どうして僕…?) 

 耕一郎の実家は、お世辞にも一般家庭にすら届いていない、特殊で貧乏な家庭だ。

 父は私立探偵で、格好良く聞こえるが、そんな才能はほぼ皆無。

 昭和の探偵ドラマにドップリ浸ってそのまま探偵になってしまったような、一種の社会不適合者だ。

 殺人事件を推理するどころか、浮気調査やペットの捜索すらまともに出来ず、客だって滅多に来ない。

 母はそんな夫に愛想をつかし、耕一郎がヨチヨチ歩きの頃に家を出て行ってしまった。

 いつも食うや食わずな父子家庭で育った少年は、物心がついた頃には、一つの夢を持っていた。

 探偵になんてならず、ごく平凡な家庭が欲しい–。

 もう国勢調査なんかで出てくる数値の、ド真ん中の中のド真ん中。

 特別な才能や地位なんていらない。

 自分と、優しい奥さんと、二人の子供と犬。

 新築の一軒家とか持てなくても、郊外に中古の庭付きが持てれば御の字。

 ビバ平均。

 そんな夢を抱いていた、十代前半のこの夏に、学校での三者面談で衝撃的な出来事が。

「将来の受験? いやいや先生、ウチにそんな金、そもそも全くありませんよ。コイツは俺の跡を継いで、立派な私立探偵になる予定ですから、ハッハッハ!」

 父の高笑いに、耕一郎も担任教師も、開いた口が塞がらなかったものだ。

 そんな父から逃れるように、耕一郎はずっと密かに続けていた、親戚の叔父さんの元でのアルバイトやお年玉で貯めた僅かなお金で、生来的には県立高校を受験しようと密かに決意。

 努力のかいもあって成績は抜群だったので、担任教師の熱心な推薦もあり、うまくすれば県からの助成金が貰える可能性も、このまま行ければ高かった。

 しかしその夢は、耕一郎の貯金をはたいての、父の借金返済という現実の前に、脆くも瓦解。

 どう頑張っても、高校受験ですら不可能だろう。

 貧しい少年の、ごく普通の生活への第一歩は、こうして早々に打ち砕かれていた。

 そして今、反社会組織としか思えない男たちによる拉致。

(…普通の生活が、遠ざかって…)

 絶望感で包まれてゆく。

 そして、そんな感覚はイヤというほど味わわされ続けてきた耕一郎だから、却って簡単に諦めもしない。

 頭の中を、見知らぬ地下炭鉱などで強制労働させられる自分がよぎりながらも、なにより現実を正しく認識しようとする、父譲りな感性。

「あ、あの…ぼ僕を、攫って…ど、どうするんですか…? ごくり…うううウチには、お金なんて…どどどどこかの誰かとっ、勘違い、してるんじゃ…」

 必死に言葉を吐き出していると、右隣の大男が、ジロと睨んでくる。

「あ…」

 父が何かをしでかした–。

 という可能性が、今さら頭をよぎる。

(…でも!)

 父の仕事に付き合わされた経験から、こういう輩は、プライドを刺激しない程度に抵抗するベキだと学んでいた耕一郎。

 サングラス越しでも恐ろしい暴力の視線に、しかし怯えながらも、キっと睨み返す。

 膝が震える正直な少年に、男は意外にも優しい言葉で返してきた。

「強引な方法でお連れした無礼はお詫びいたします。善田一耕一郎様、あなたに用件があると、我々の主が。ですので、ぶしつけながらあなたのお時間を少々、頂きたいのです」

「え…はぃ…」

 予想外に対寧かつ親切な物言いに、少年は身構えていた緊張感を、適度に緩められてしまっていた。

 でもやっぱり。

(…反社会的な人たちなんだろうな…)

 そんな恐怖感は拭えなかった。


☆第一章 特殊な受験?


「あ、あの…主って…?」

「私ごときが口にするのも恐れ多い御仁です」

 そんな凄い人が、どうして自分みたいな、お世辞に言ってもいづれ中卒浪人確定な貧乏人の子供を、誘拐するのか–。

 耕一郎には全く、理解も想像も及ばなかった。

 リムジンは、街から離れて山の中へと走り続け、やがて県境のトンネルへと侵入。上り坂になっている長いトンネルを抜けると、山間の広大な空間に出た。

「眩しい…えぇっ!?」

 開けた谷は、耕一郎が暮らす地方都市とは全く別な、テレビなどで見る東京を連想させる、先進的な都会。

 背景は山々の稜線だけど、十階建ての建物などが、整然と整理されて建ち並んでいる。

 道路も白いアスファルトで綺麗に舗装されていて、建物も洋の東西が程よく融合され、洗練された街づくり。

 街路樹も整えられていて、歩道も店舗の出入り口も、バリアフリー化が完成していた。

 歩いている人は少ないけれど、みんな特別に不満げな感じもなく、なんだか活気も感じられる。

「う、うちの県の山間に…こんな都市が…!」

 陽光を浴びてキラキラと輝く街並み。田舎育ちの少年は、まるで浦島太郎にでもなったような気分だ。

 中央通りを静かに進んだリムジンが、都市の中央に高くそびえるお城のような建物の、地下駐車場へと侵入。

 照明で意外と明るい地下空間で下車させられた耕一郎は、よく考えると男たちに守られるように囲まれて、白いエレベーターで上層階へ。

 三十秒も経たずと二十階のフロアに到着をして、向こうが見えない程の長い廊下を進むと、純白の扉が目の前に。

 黒の男が、耕一郎の全身をサっと見て、一般の少年らしく失礼が無い平均的な服装だと確認し終わると、三メートルよりも高い扉に、挨拶をした。

「ただいま戻りました、黒崎です。善田一耕一郎様をお連れいてしました」

 緊張しているのが、雰囲気だけでもわかる。

(そ、そんなに凄い人が…この扉の向こうに…?)

 そんな知り合いなんて、自分には当たり前にいないし、やはり父が何かしでかしたのだろう。

(もしそうなら…やっぱり僕の人生はここで…)

 何とか逃げ出す方法はないかと、焦って考えを巡らせていると、白い扉が開かれた。

「ご苦労様でした。後は私たちが引き継ぎましょう」

(…?)

 聞こえてきたのは、凛として涼しい、若い女性の意思強そうなボイス。

 もっと怖い大男とか、あるいは年老いた大ボスみたいな人物を想像していた耕一郎は、厳しそうだけど優しい響きの声に、つい視線を向けてしまった。

扉を開けて立っているのは、耕一郎よりも三歳くらい年上っぽい、平均的な身長の少女。

 ショートカットがよく似合っていて、鋭く美しい切れ長の目には、右側にモノクルが装着されている。

 白いブレザーは黄金に縁どられていて、赤いブラウスは上品な薔薇を思わせた。

 プロポーションもスレンダーで美しく、制服を完璧に着こなし、制服によって清潔さがより引き立てられてもいる感じだ。

 なんというか、自分なんかは指で触れてもいけないような、そんな雰囲気。

 思わず見とれる眼鏡の少年に、モノクル少女は優しくニコ…と、微笑みをくれた。

「それでは、失礼いたします」

 大男たちが揃った綺麗な礼を捧げて、長い廊下を戻って行く。

 男たちの所作は、少女の顔を見る事すらはばかられる、みたいな、完全な忠誠心の現れにも見えた。

 取り残された耕一郎は、助けを求めるような心情で男たちを見送るしかできない。

「耕一郎様、中へどうぞ」

「はっ、はいっ!」

 優しく促され、思わず背筋が伸びて、緊張しながら入室をする少年だった。

 通された室内は広く、耕一郎の実家など、余裕でこの部屋に収まってしまうだろう。

 白い壁は磨かれて上品で、壁の一面は全てがガラス。

 陽光の明るさだけで室内が満たされているけど、高い天井にはシャンデリアが飾られていた。

 室内は豪華ながら質素で、広いテーブルと、チェアが数脚。

 ガラスの壁に向けられ外の景色を楽しめる唯一のソファーには、別なる人物の後頭部が見えていた。

(もう一人いる…)

 少年が潜ると、扉は静かに閉じられる。

 ソファーの少女が自然に、音もなく上品に立ち上がった。

 モノクル少女と同じブレザーだけど、背中には赤いマントを靡かせている。

 ス…と振り向くと、少女の大きな瞳に、耕一郎の意識はくぎづけにされていた。

 身長は、モノクル少女よりわずかに高いくらいで、耕一郎より頭一つほど高い。

 サラサラな頭髪は軽いウェーブで背中まで届き、黒髪なのに金髪のような、天使の輪が輝いていた。

 身長は平均的だけど、バストは大きく、ブレザーを内側から押し上げていて、比してウェストは細く縊れ、ヒップは大きく発達している。

 ムチムチの腿はオーバーニーソックスで隠されていて、制服のミニスカートとの間で、僅から腿肌が覗けていた。

 細い膝から少しだけ膨らむ脹脛と、更に細い足首への、愛らしくも華奢な曲線美。

 小さな足も、少女らしい庇護欲を刺激して止まない。

 何より、大きな瞳が深い濃紺であり漆黒でもあり、不思議な輝きでコチラを見ている。

 小さな鼻は細い鼻筋が高く、唇も桃色で小さく艶めく。

 美しさが完全開花する前の愛らしさ。という感想が、年下少年の意識をめぐっていた。

「………………あ…」

 ハっと我に返ったのは、少女が優しくニコ…とほほ笑んだからだ。

「は、初めまして…ぜ善田一、耕一郎です…」

 無意識に、自分から挨拶をしてしまう。

(…ハ! つい挨拶しちゃったけど、僕はヤクザに誘拐されてきてるんだ…!)

 思わず頭を振って、厳しい表情を作って、マント少女を見てみる。

 しかし少女の微笑みを一瞬でも見てしまうと、なんだか恥ずかしくて、ついまた視線を逸らしてしまう少年だ。

 そんな耕一郎に、マントの少女は笑顔で応じてくれる。

「初めまして」

 マント少女が自己紹介をしようとしたタイミングで、モノクルの少女が言葉を繋ぐ。

「まずは私から。私は、陶山吟子(とうやま ぎんこ)と申します。この学園の生徒会書記を務めております」

「学園…ここ、学園なんですか? ヤクザじゃないんですか?」

 想像とはかけ離れた単語を聞かされて、どこかで安心したのか、つい頭の中がポロっとこぼれてしまう。

「まあ…クスクス」

 少年の本音に、マント少女がキラキラと笑っていた。

 耕一郎の言葉に、吟子も綺麗な微笑みをこぼし、紹介を続ける。

「愉快な事をおっしゃる。こちらは–」

 掌で示されたマントの少女。

「こちらは、当学園の生徒会長、天上妙院愛染(てんじょうみょういん あいぜん)様でございます」

「初めまして。天上妙院愛染ですわ」

 心の奥まで響くような優しい声で、愛染はあらためて挨拶をくれた。

「てんじょうみょういん…ええっ!?」

 天上妙院といえば、世界でも五指に入るほどの、日本有数な総合企業体だ。

 鉛筆、ケシゴム、絆創膏から、宇宙ロケットまで。

 日本人なら子供でも知っている企業名だし、貧乏な耕一郎でもどんな会社かは知っている。

 そんな、超VIPのお嬢様。

「ご存じのようで。こちらの愛染様は、その天上妙院財団の、第十八代当主の筆頭候補であらせられます」

「–!」

 しかも次期当主の筆頭候補ときた。

 少年が、そのご尊顔を正面から見られないのも、本能が服従していたからかもしれない。

 超が十個ほどついてもおつりがくる程の大富豪と、初めての対面。

 超が十一個ほど付きそうな貧乏少年の足が、自然に震える。

 けど、気持ちで負けるわけには行かない–。

「すうぅ…はあぁぁ…」

「「?」」

 少年の深呼吸が、少女たちには不思議に見えたらしい。

 耕一郎は、震える理性と意識に渇を入れつつ、負けない意思で、正面から向き合う。

「そそそそれでっ、その大富豪…様がっ、僕なんかにっ、何のご用件でっ、ございま、しょうか…?」

 頑張って強気に尋ねて、言葉尻がしぼんだ。

 そんな真面目な頑張りは、愛染たちには可愛らしく映ったのだろう。

「はい、実は–」

 思わず下々の者に言葉を投げかけようとする愛染を、吟子が制して、言葉を引き継ぐ。

「私から。実は耕一郎様に、お願いがございます。ああ、失礼、お掛けください」

 言われて、大きなテーブルのチェアに促される。

 愛染が腰を下ろした対面の椅子に、耕一郎は恐る恐る、静かに座った。

 生徒会長であるマント少女の傍らに立つ、書記の吟子が、紅茶を出しつつ説明を続けた。

「探偵でいらっしゃる耕一郎様は既にご存じかと思われますが、この『聖 プラチナム学園 高等学舎』は、幼稚園から大学まで一貫したマンモス学園でございます。学園は全寮制で、世界のVIP生徒たちの為の設備も充実しており、何よりこの街『光姫街(ひかりひめのまち)』は、学園を中心とした一つの都市と呼べる機能と規模を備えております」

「はい–ええっ!? つまり、ここ–って言うか、この山間の都市そのものが、学園…っ!?」

 初めて聞いた学園の名前や都市の存在、耳に入った聞き慣れない単語などを遅ればせながら認識して、あらためて驚かされる耕一郎。

 探偵認定された屈辱とか、頭には塵ほども残っていない。

 対して、淡々と語り続ける吟子。

「周囲を山々に囲まれているこの都市は、世界中の大富豪のご子息様たちを育成するための学園であり、都市に入れる車道も一本のみで、山の稜線各所の完全な防御態勢も含めて、この都市は守られているのです」

「は、はあ…」

 なんだか認識が追い付かないけど、とにかくこの都市は、大富豪たちが出資して安心して子供を育てられる場所。という事なのだろう。

 と、連れられてきた都市の大体は理解した耕一郎。

 自分でもも忘れそうになっていた、肝心かなめな質問をする。

「それで、その…僕はどうして、こちらに連れてこられたのですか?」

「その件ですが…」

 吟子が話そうとしたら、なんだか急に愛染がノリノリな感じで、割って入った。

 両手を胸の前に合わせ、まるで助けに縋るような、ウルウル眼差しの生徒会長。

「実はっ、ここ一ヵ月ほどなのですがっ、私たちの学園に…怪盗が出没しているのですわ!」

「怪盗っ!?」

 父譲りな探偵の血が刺激されたのか、思わず立ち上がる耕一郎。

 愛染が、ウルウルのまま話を進める事を忘れているっぽいので、モノクル少女がすかさずフォロー解説。

 上着の内ポケットから、小さなカードを取り出して、少年に差し出した。

「二日ほど前、このような予告状が生徒会室に届けられました」

「予告状…失礼します!」

 言いながら受け取った予告状には。

「えっと…『〇月××日の午前0時 学園の展示棟に展示されている秘宝「黄金のチャーハン」を頂きに参上いたしますわ。 怪盗プラチナ・スワニィ』…むむ」

 予告状を見た途端、父親譲りな耕一郎の探偵脳が、無意識にもフル回転を始めてしまう。

「展示棟…黄金のチャーハン…カードの文字は手書きですね…うむむ…この、秘宝黄金のチャーハンとは何ですか? たしか黄金のチャーハンって、料理として最高峰のチャーハンの事では…っ?」

 抑えながらも興奮気味に尋ねると、吟子がまた、懐から写真を取り出して、見せてくれた。

 数枚の写真には、立派で芸術的な建物と、その内部らしい展示スペース、そしてガラスケースに守られた芸術品たちが写されている。

「この学び舎には、世界の一流品を見て学ぶためにと、古伊万里や九谷焼、エルメス最初期のバッグからオーロラ社のプラモデルに至るまで、人類が誇る一流の芸術品を展示しいる展示棟がございます。黄金のチャーハンとは、その展示品の一つ。米の一粒一粒から各具材やお皿、スープの容器に至るまで、世界最高の純金職人が手作りで仕上げた、まさに世界に唯一無二な、それはそれは見事な、黄金製のチャーハン像でございます」

「な、なるほど…」

 写真には、金ぴかで照明を浴びて輝いている、チャーハン一式の姿が。

すごくお高いだろう事は簡単に想像できたけれど、貧乏な少年には、その価値そのものは全く理解できない。

「怪盗は、これを狙っているワケですね…それで、プラチナ・スワニィなる怪盗は、これまでにも?」

 ここ一ヶ月ほど怪盗が出没していると話していたので、今回が初めてではないだろう。

 吟子がモノクルに飾られた瞳を曇らせて、美顔を鬱に彩って話す。

「…実はこれまで、二度も怪盗に盗難をされてしまいまして…。一度目はオーロラ社の怪獣のプラモデルを。二度目は、現在では絶対入手困難なビデオディスクの邦画コンプリートコレクションと再生機を…。お恥ずかしい限りです」

 何だろう。大富豪たちはオーロラ社のプラモデルに何か就く別な思いでもあるのだろうか。

 その価値も、やはり耕一郎には全く理解できない。

「失礼ですが、これだけの都市ですし、警察もあるのでは?」

 当たり前の質問に対して、また愛染が、どこか楽し気な空気を隠さないまま、割って入る。

「はいですわ。ですがっ、このような失態を世間様に公表するワケにはまいりませんですわっ! 事は、世界に対する当学園の信頼に関わる問題ですものっ!」

「な、なるほど…」

 なんだか押し切られたみたいな感じだけど納得した耕一郎は、怪盗の存在に意識が向いた。

「それにしても、怪盗プラチナ・スワニィ…白金の白鳥…ハっ!」

 探偵脳が、ハタと気づく。

「? もしや、予告状から何か手掛かりでも?」

 なんだか芝居がかった感じな吟子の問いに、耕一郎は気づかず真面目に答える。

「予告状を出すような目立つ行動といい、プラチナ・スワニィという派手好みな名前といい…この怪盗は、自己顕示欲が強いと言いますか、極端な目立とう精神の持ち主といいますか…そのような人物像が伺えます!」

「「ふむむ…」」

 特に、愛染が興味深そうに聞いている。

「カードから漂う上品な香水の香りも、かなり身分が良く、かつセンスの高い人物像が伺えます!」

「まあ…お上手です事」

 なぜか頬を染めて慎ましやかな愛染。

「手書きの文字の愛らしさや香水の香りなど、色々な考察を組み合わせると…怪盗はこの学園の関係者、いや、生徒の可能性が高いと思われます!」

「ふんふん」

「ほほぉ」

 少年の推理に愛染は興味深々っぽく、そんな生徒会長を吟子がチラと見る。

「以上の点から考えるに、この怪盗は…相応しい比喩が思い浮かばないので失礼ですが! そうっ、たとえば生徒会長さんのような、制服にマントを羽織る事を日常としているようなっ、そのようなファッションセンスの人物だと考察できます!」

 耕一郎の掌でビシっと指示された愛染は、驚愕をした。

「な、なんという事でしょう! 私のような感性の方が、他にもいらっしゃるのですの!?」

 まるで、探していたお友達に会えるかのような、キラキラした笑顔の愛染。

「あくまで推測として、ですが…そのような人物像が伺えます!」

 探偵脳がフル回転した事で、望まずとも気持ち的に満たされてしまう耕一郎。

 二人の様子を、吟子は優しい眼差しで見守っている。

「なるほど…私たちには到底、気づけない考察。恐れ入ります、さすがは、私たちの基準を満たされた少年探偵様でございます」

「え…!」

 あらためて少年探偵と言われ、ハっと我に返る。

「いゃそのっ、ぼ僕は探偵なんてっ–っていうか、基準…?」

「はい。私たちが事件解決の為に求める探偵は、それは厳しい基準がございました」

①父親もしくは母親が私立探偵

②現役高校生もしくは現役中学もしくはそれ以前の人物

③将来的に高校に通えそうもない貧乏な家庭環境

④名前に「田」「一」「耕」のいづれかがつく

⑤眼鏡

⑥少年

「…など、それはそれは厳しい基準で、選びに選んだ探偵が、耕一郎様でございました」

 後半の基準はほぼ確定みたいな気もするし、少なくとも②と③は矛盾している気もするけど、とにかく耕一郎を選んで正解。と言いたいらしい。

「そ、そうですか…あっ、でも僕は、その…」

 あやうく、探偵の仕事を引き受けてしまう処だった。

(あ、危ない危ない…父さんの有様を忘れたか、耕一郎!)

 自分の人生の目標は、平凡の平均。ごく普通の、山も谷も無い幸せな人生。

「それでは耕一郎様。今回の怪盗の一件、快く引き受けて戴けると。それは安心いたしました」

「い、いやそのっ–」

「それでは、耕一郎様には学園の警備隊長としての役職をお願いいします」

 隊長。と書かれた腕章が手渡されると、吟子の合図で生徒会室の扉が開かれて、二十名ほどの女子たちが入室して整列。

 みな美しく意志の強そうな少女たちで、愛染たちと同じデザインの制服は薄い桃色。

 頭には警備隊を示す帽子が乗せられていて、腕章には「聖プラチナム学園 警察部」と書かれていた。

「耕一郎様には、彼女たちの隊長として指揮を–」

 女子警備隊長のトップになれ、との申し出。

 大変な責任よりも、耕一郎にとってはもっと大切なところで、ブレーキがかかる。

「もっ、申し訳ありませんがっ…僕はその、探偵とかっ、そ、その気は…ありません、し…」

 拒絶の言葉を口にしそうな耕一郎に、愛染が美しい愛顔を曇らせてつぶやく。

「ああ、なんという事でしょう。もし探偵としてこの学園を護って頂けるのでしたら、特別優待学生として、大学卒業までの受け入れ準備が整っておりましたのに」

「!」

 いづれの受験だけでなく、大学までの一貫校に通える–。

 生徒会長の一言に、耕一郎は無意識で返答していた。

「お任せください! 黄金のチャーハンは何があっても守って見せます!」

 言ってから、ハっとなる。

(ぼ、僕は何を…!)

 でも、同時に。

 絶対にまたとないチャンス–。

(…普通の人生への、第一歩だ…!)

 これが耕一郎にとっての、少なくとも人生をマシにするための受験だった。


☆第二章 怪盗プラチナ・スワニィ現る


「それでは、ご案内いたします」

「え…ああ、展示棟ですか! よろしくお願いします!」

 こうなったら、怪盗と戦うまでだ。

 現場となる場所は、ゼヒ見ておきたい。

 軽く興奮気味な少年。

 吟子がベルを鳴らすと、若き成人女性らしいメイドさんが三人ほど入室してくる。

 みな、世界トップレベルのモデルも顔負けな程に、美しい。

「耕一郎様、こちらへどうぞ」

 言われるままについてゆく。

(…あれ?)

 現場へ向かうなら、警察部の女の子たちに連れられるのが適切な気がする。

 校舎から、薔薇が咲きほこる広い広い庭園の歩道を進んで到着したのは、中世的なホテルを思わせる建物。

 古式ゆかしい、ベルバラ感満載な建造物で、四階建て。石造りのようで、窓もたくさんあるから、部屋もたくさんあるのだろう。

「なるほど、ここが展示棟ですか。なんだか昔のホテル…いや、この学園の造りから考察すると、学生寮のような感じですね」

「はい、学生寮でございます」

「?」

 大きな木製の玄関から入館すると、長い廊下を静かに進む。

 突き当りの扉を潜ったら、中は倉庫のように広い空間だった。

 壁の一面が大きなガラスで、庭園や森林、はるか遠くに山の稜線が見える。

 室内は清潔にサッパリとしていて、大きなベッドやプロジェクタータイプのモニター。テーブルセットも上品で、観葉植物も大きくて葉っぱがピカピカだ。

 壁には五つの扉があって、ベッドルームやトイレ、シャワールームと、クローゼットが二つ。 

「こちらが、耕一郎様の自室でございます」

「え…?」

 まだ入学どころか、怪盗と対峙してもいないのに、すでに自室が与えられる。

「あの…ぼ僕はまだそのっ…こういう部屋とか…!」

 異様に贅沢な部屋を用意されて、逆に焦ると言うか。

 呑気にこの部屋でくつろいで、手柄も立てられず惨めに追放される、ダメな未来が頭に浮かぶ。

 焦る貧乏少年に、送れて入室してきた愛染が、恥ずかしそうに告げた。

「ああ、申し訳ありませんですわ耕一郎様。このようなみすぼらしい部屋しか、何せ急でしたもので…。いずれ耕一郎様の為に別館を増築いたしますので、なにとぞ、しばらくはこのお部屋でご勘弁を…ですの」

 大真面目に、そう詫びている愛染。

 隣では吟子も、申し訳なさそうな面持ちだ。

「予告状によると、怪盗が現れるのは、明日を過ぎた午前零時。それまでは、少々手狭で申し訳ありませんが…なにとぞ、この部屋でおくつろぎください」

 この部屋を以て手狭というなら、少年の自宅は犬小屋に例えられても反論できない。

「いいいいいいいええええええええっ! ぼぼ僕がこんなっ、豪華すぎる部屋とかあの…っ! ぼくにはっ、この部屋ですらっ、身に余ると言いますか…っ!」

「まあぁ…なんと奥ゆかしい殿方なのでしょう…! 流石は名探偵耕一郎様ですわ…っ!」

 貧乏少年の小心っぷりを、大富豪のお嬢様は控えめな性格だと認識している様子だ。

 ついでに、怪盗の性格についての考察を、名推理だと心から感動しているご様子でもあった。

「招致いたしました。耕一郎様がこのお部屋で十分だと申されるのなら、私たちは耕一郎様のご意思を、尊重いたしましょう」

 同じく吟子も感動に頬を染めながら、再びベルで合図をする。

 今度は十名ほどの、やはり若くてハンサムな執事さんと、同じく美しいメイドさんが入室してきた。

 男女とも、モデルさんのように整った面立ち。立ち居振る舞いも美しく上品で、上級貴族にお仕えする誇りと自信を感じさせる。

「耕一郎様の専属執事たちです」

「「「どうぞ、なんなりと」」」

「は…はひ…!」

 これまでの世界と違い過ぎて、少年はただ起立硬直したままだった。


 その日の夕方まで、耕一郎はこの広い空間で何をして良いのか全く分からず、床に座って緊張していた。

「…………」

 椅子やベッドに腰かけて、ウッカリ汚しでもしたら、一生かかっても賠償しきれない金額の損害を出してしまいそうで、とても呑気に腰を下ろせない。

 遠くから、優雅で優しいな鐘の音が聞こえる。

「そうか…ここは学校だから、あれはチャイムの音なんだ…」

 世間的には、春休みは終わって、既に新学期が始まっている。

 この学園でも、それは同じなのだろう。

 緊張して縮こまる少年を、休み時間の庭先から、身を潜めて覗き見している富豪の女子たちに、気づく余裕もない。

 夕方になって、メイドさんたちが夕食を運んできてくれる。

 昼に尋ねられ「出来るならこの部屋でお願いたします」と耕一郎の方から頼み込んで、こうなった。

 大富豪のご子息様たちと一緒の食堂での食事なんて、息が詰まって食事どころではないだろうからだ。

 運ばれた夕食は、耕一郎が見たことも無い豪華なディナー。

 鴨の蒸し焼きや新鮮なサラダ。暖かくて良い香りの澄んだスープや、焼き立てでホクホクのパン。

 しぼりたてのフレッシュジュース。

「あの…食べていいのでしょうか…?」

「はい。私どもが給仕をさせて戴きます」

 美しいメイドさんたちが傍らに立ち、少年は一人、テーブルに着く。

 皆さんは食事をしないのだろうか。とか考えてしまい、帰って緊張して食べられない。

「あ、あの…食事が終わったらその…自分で下げますので…」

 とビビっていたら「傅かれる事も、メイドたちに対する職務でございます」と、上流階級の世界の一端を教えられてしまった。

「そ、そうですか…」

 この日の食事は人生初の美味しい食事だったけど、緊張の中から出られなかった耕一郎は、味を楽しむなんて夢のまた夢だった。

 それでも食事を終えると、少しだけ安堵感が湧いてくる。 

「と、とにかく…明日の夜、怪盗が現れるんだ…!」

 それに合格さえすれば、何であれ一貫校に通える–。

 ウェルカム普通の生活。

「明日が、僕の人生の勝負時だ…っ!」

 耕一郎は、ビクビクしながらクッションとタオルケットだけを借りて、床で眠った。


 翌朝。緊張の為か、耕一郎は朝六時に目が覚める。

「ふわわ…まだ早いけど…」

 今日の夜が過ぎる午前0時に、怪盗が現れると思うと、欠伸の気分が一気に緊張する。

「とにかく、探偵として怪盗を捕らえ–じゃなくてっ、学園入学っ!」

 と自分に言い聞かせながらも、怪盗はどんな姿なのかとか、どのようにやってくるのかとか、あとで実際に展示棟を見せて貰えないかとか、頭は勝手に対策を講じ始めてしまう。

 一人でブヅフツ言いながらタオルケットを畳んでいると、扉が優しくノックをされた。

『おはようございます、耕一郎様。朝でございます』

「あ、ははい!」

 慌てて扉を開けようとしたら、そんな用事は私どもメイドにお任せくたせさいと言わんばかりに、静かに優しく扉が開かれる。

 メイドリーダーらしき女性は、耕一郎よりも年上で美しく、背も高い。

 校内規定として朝食は食堂らしいので、呼びに来てくれた。という事だろう。

 室内に一歩、足を踏み入れたメイドリーダーさんが、モデルよりも輝く美顔を、ほんのわずかに、しかし美しく曇らせる。

「耕一郎様。失礼ですが、昨夜は入浴をされましたでしょうか?」

「え…あ、そういえば…その、すみません」

 夕べは気持ちが疲れて、結構早く寝てしまった。

 ついでに、実家が貧しいうえ幼児のころに母が出て行ってしまった耕一郎は、お風呂も二日に一回が当たり前。

 あくまでクールに、メイドリーダーが発言をする。

「招致いたしました。失礼ながら、メイド強制執行権を発動させていただきます」

「? あ、あの…あわわっ!」

 何か失礼な事でもしでかしたのかと不安になったと同時に、六名ほどの美しいメイドさんが、しなやかに入室。当たり前だけど、みな耕一郎よりも背が高い。

「「「失礼いたします」」」

 上品にハモる美女たちに持ち上げられると、そのまま浴室へと運び込まれる。

「あの–わわわっ!」

 後ろから両腕をバンザイさせられて、着たままだった普段着を捲り脱がされ、ベルトを解かれてズボンを下げられ、アっという間に全裸へと剥かれていた。

「わっ、あわっ–」

 自分よりも背の高い美女に囲まれて裸にされると、恥ずかしさと緊張で身を屈めてしまう。

 対して、コツをわきまえているメイドさんたちによって耕一郎はやすやすと両脇を捕られ、そのままシャワー室へ。

「失礼いたします」

 言われながら、広いシャワー空間に全裸で立たせられた少年は、泡を纏ったメイドさんたちの柔らかい手で、全身を洗浄され始めた。

「ああああのっ–うわひやあぁあぁああっ–ま待ってくださひいいそこひやああああ–!」

 ふわふわな柔らかい女性たちの手で、髪や顔や耳の裏、細い首や筋肉の少ない胸やお腹、お尻や過敏な下腹部、くすぐったい内腿や足の裏まで、全身の隅々まで洗浄されてゆく。

 体中を愛撫されて、くすぐったくて気持ち良くて、意識が追い付けない。

「耕一郎様、全ては私たちメイドにお任せください。うふふ…」

 なんだか楽し気な感情を隠さず、メイドさんたちはわずかに頬を染めながら、少年の全身を掌で完全洗浄してくれた。

 三十分ほどの入浴が終えられる。

「……す、すみませんでした…」

 生まれて初めて触れられた、女性の手。しかも複数人。

 体が自然と恥ずかしい現象までしてしまい、それでもメイドさんたちは最後まで嫌な顔一つせず、むしろちょっと楽しそうに、洗浄してくれた。

 年相応に羞恥で赤くなる少年に、メイドリーダーたちは美しい笑顔をドコか艶めかせて告げる。

「ご主人様の健康状態を完全に把握する事も、私どもの務めでございます」

 そういわれながら、下着から新しい制服までの全てを、メイドさんたちの手で着衣された耕一郎だった。

 与えられた制服は、この学園唯一の男子の為だけにデザインされた、新しいブレザー。

 昨日会った愛染や吟子のような純白ではなく、脳紺色を基調としてシックな色合い。サイズもピッタリで、いつのまにか少年のサイズが図られていたかのようだった。

 香水をかるく掛けられて、準備が整ったらしい。

「それでは、食堂へとご案内いたします」

「は、はい…」

 裸を見られて触られて、年相応な肉体反応まで示してしまった恥ずかしさで、少年は真っ赤になってうつ向いたままだった。

 食堂は広くて天上も高く、席に着いたら途端に、給仕係の男性たちが運んできてくれる。

「………あれ?」

 ここにきて、耕一郎的には初めて気づいた。

 食堂で食事をしている学生たちは、みんな女子。

 女子たちは少年の姿に緊張しているらしく、なんだか恥ずかし気にチラチラと視線を寄せては、同席同士で何やらヒソヒソと談笑をしている。

 昨夜、噂を聞きつけて庭園から密かに覗いていた女子たちである事など、耕一郎はもちろん知らない。

「あの…男子学生は…」

 傍らに立つメイドリーダーさんに尋ねると、答が返ってくる。

「男子学生は耕一郎様が唯一でございます。当学園は創設以来、女子専用の学園でございます」

「…えええええっ!」

 吟子の説明では「ご子息様」と聞いていたので、てっきり男女共学だと思いこんでいた。

「耕一郎様、おはようございます。ご機嫌はいかがですか?」

 背中から声をかけて来たのは、吟子。

 制服を美しく着飾って、昨日とは淵の色が違うモノクルを掛けて、美しい笑顔が輝いている。

「あ、お、おはようございます…ぁの、この学園って、その…女子高…だったんですか…?」

「はい。あぁ、昨日は説明不足でしたか。失礼いたしました」

 詫びながら、なんだかイタズラ成功みたいな、楽し気な笑みが隠せていない。

 さっきここで驚いた耕一郎を、絶対に見ていたタイミングっぽい。

「………あの、もしかして…」

「はい?」

「…いぇ…どうも…」

 子供全般を指してご子息とは言うけれど、もしかして耕一郎の、この瞬間を楽しむために、あえてそういう言い方をしたのだろうか。

 恥ずかしくてシュンとする小柄男子な耕一郎の姿は、吟子には結構な好物のようだった。

「あの…愛ぜ–せ生徒会長、さんは…」

「愛染様は朝が弱くいらっしゃいますので、現在はメイドたちに起床させられている事でしょう。今頃は、メイドたちの手で入浴中と思われます」

「え…」

 さっきの自分の入浴風景が思い出され、その姿が愛染になる。

「そ…そぅですか…」

 失礼な事を聞いてしまったという恥ずかしさと、恥ずかしい想像で、顔が真っ赤な少年。

 そんな姿も、吟子の好物のようだった。

「ああ、それと…」

「?」

「耕一郎様でしたら、愛染、吟子、と呼ばれても、差支えありません」

「えっ–!?」

 年上の女性たちを呼び捨てなんて。

 しかも相手は超絶なお嬢様。

「そそそそんなっ。失明な事っ–ぼぼぼ僕はそんなっ–礼儀知らずではっ–あわわっ!」

 慌てふためく姿も、吟子だけでなく、メイドさんたちも好物らしい。

「ふふふ…当学園の食事がお口に合えば何よりです。それでは、また後程」

 そう言い残して、すでに朝食を終えていたらしい吟子は、生徒会室へと向かった。

 柔らかい羊肉や新鮮なフルーツサラダなどで、緊張しつつも朝食を終えた耕一郎は、メイドつんたちによって学園の広い裏庭園へと連れられる。

 遠くに森や山々が見えるグラウンドに到着すると、昨日紹介されていた、学園警察部の少女たちが三十人ほど整列して待機していた。

 メイドさんたちが、美しい礼で退席してゆく。

 部隊長らしき少女が一歩前に出て敬礼をすると、部員たちも習って敬礼。

「隊長殿に、敬礼!」

「ど、どうも…!」

 初めて敬意を示された少年のほうが、縮こまってオドオドしてしまう。

「我々、聖プラチナム学園 警察部一同、本日より善田一耕一郎様の指揮下に入らせていただきます! よろしくお願いいたします!」

「「「よろしくお願いたします!」」」

「よよ…ょろしく、ぉねがぃ…ぃたしますです…」

 よく透き通る綺麗な声で敬礼をされて、耕一郎はただ緊張するしかできない。

 隊長に任命された耕一郎が最初にしなければならない任務は、まずは部員たちの能力の把握と、親睦を深める事のようだった。


 体操着とブルマに着替えた女子警察部員たちの防犯訓練を見学しながら、警察部の部隊長に、色々と教えてもらう。

「…では、皆さんはその…いわゆる大富豪のお嬢様、という事ではないのですか」

「はい! 私たちはみな、お嬢様の優秀な秘書となるべく、お嬢様と同じ学舎で学ばせていただき、生涯にわたってお仕えし、この身を捧げる志であります!」

 硬い言葉で強い決意を口にする警察部長だけど、声質はごく一般的な年ごろの少女らしい、黄色くて甘いボイス。

 父に連れられ、捜査現場などにも慣れたくなくても慣れている耕一郎から見ると、一般的な同年代の少女たちよりも少しだけ強い。みたいな感じのユルさもあった。

(…そもそもこの学園に、そんな大変な事件が起こるとも思えないし…)

 とにかく、彼女たちに怪我をさせないように、怪盗対策を考える耕一郎。

 警察部の部長に案内されて、展示棟や展示品を下調べしたり。

 今日一日は、警察部の少女たちとの親睦と会議で過ぎてゆく。


 そして夜。現在、午後の十一時四十分。

 怪盗の予告時間まで、あと二十分程だ。

 展示棟の最上階に位置するこの部屋の中央に、ターゲットである黄金のチャーハンが展示されていた。

 耐震センサーが供えられたガラスケースで囲まれている黄金の芸術品は、最適な照明を浴びてピカピカに輝いている。

 高すぎる天井はシャンデリアが優しく輝き、しかし天井面は光に遮られて、逆によく見えない。

 実家の低い天井をつい思い出して、やはり大富豪の生活とは日常からして天地ほどの差があるとか、悲しい実感をしてしまう耕一郎だ。

 整理された広い室内には、壁際で等間隔に、古文書や絵画や書やオーロラ社のプラモデルなどが、ガラスケースで展示されている。

「ガラスケースで壁が見えてますし、この展示品の隙間に隠れるのは無理ですね」

 黄金チャーハンの周りも、隠れる場所はない。

 チャーハンの前で考えていると、警察部長が報告に来た。

「指揮隊長殿! 警察部の配置、完了いたしました!」

「は、はい。ご苦労様です。しかし…」

 チャーハンの前には、東西南北で四人。二ヶ所の窓は締め切っていて、室内は耕一郎を含む六人で警護している。

 部屋の扉にも二人が立ち、複数あるエレベーターや階段にも、それぞれ二人ずつ配置。

 二十人ほどの警備体制で、黄金のチャーハンを護っていた。

 警察部の女子たちは、薄いピンク色の制服姿に警察棒という、愛らしい姿。

 耕一郎は、与えられた上質なブレザーと「警備隊長」と書かれた腕章。

 更に「隊長の正装です」と与えられた、ハンティングキャップと、胸丈の短い羽織物。

 まるでシャーロック・ホームズのコスプレだけど、耕一郎自身、なんだかワクワクしているのも事実だった。

 ちなみにキャップや羽織物は、前警備隊長の吟子が使用していたらしい。

 警備権限の全てを耕一郎に譲った。という証なのだろう。

 全員の配置を確認しながら、警察部長と共に、展示棟の俯瞰図を眺める。

 女子たちの配置場所には、女子たちの意思を尊重した♡印がつけられていた。

「配置は基本的ですが万全です。ですが…」

「何か、問題がありますでしょうか?」

 部長の問いに、少年はうまく答えられない。

「何か、大切な事を見逃しているのは解ってるのですけれど…それが何なのか…うむむ」

 扉に窓、エレベーターやエスカレーターは監視している。

 しかしこういう、密室みたいな典型的な場所だからこそ、耕一郎は何かを見落としている、イヤな確信があった。

 なのに、それが思い当らない自分に、落ち着かない。

「これ程までに隙の無い配置は初めてであります! 警備隊長殿、きっと大丈夫であります!」

「は、はぃ…」

 年上警察部長の、美しい笑顔での温かい励ましに、耕一郎は思わず頬を赤らめてしまう。

 展示室の柱時計が、十一時五十分を指す。

「あと十分…」

 皆に緊張が走る、その時。

 窓際の警察部員が、異変を口にした。

「たっ、隊長殿っ! あっあっ、足元にっ–っ!」

「えっ!?」

 まさか怪盗! 四つん這いで侵入か!

 と思ったら、警察部少女の足元には、数匹のネズミが。

 なんとなく清潔な艶々だけど、いかにもドブネズミを自己主張している灰色の小動物に、警備の少女たちから悲鳴が上がる。

「「「きゃ~~~~~~~~っ!」」」

 数名の少女の悲鳴が、更に警備少女たちへと伝搬をして、展示室は軽いパニックに陥る。

「あやややっ、しし指揮隊長殿ぉっ!」

「ネっ、ネズミいやぁぁんっ!」

 持ち場を離れて逃げ回り、助けを求めて年下の少年に抱き着く少女たち。

「み、みなさん落ち着いて–わぷっ!」

「警備隊長殿っ、お助けを~っ!」

 警察部長もネズミは苦手らしく、真正面から耕一郎に抱き着いて、豊かなバストに隊長の顔を挟み込む。

「だ、大丈夫–むにゅにゅ…このネズミはっ、異様に綺麗ですっ–これはっ、怪盗の攪乱作戦の可能性がっ–」

 父譲りな観察眼が正解であった事は、ターゲットに向けた視線の先で証明された。

「あっ!」

 ガラスケースの隣に立つ、一人のマント少女。


☆第三章 少年探偵 VS 少女怪盗


 純白のブレザーに、金淵の赤いマント。

 白いシルクハットをかぶり、目元は赤いパーティーマスクで隠されている。

 起伏に恵まれたプロポーションは、ミニスカートと相まって、その肢体を美しくも妖しく、魅惑的に引き立てていた。

「お、お前はっ!」

「怪盗 プラチナ・スワニィ 参上、ですわ」

優雅に微笑み名乗った怪盗の右手には、既にターゲットである黄金のチャーハンが乗せられている。

 いつの間に、どこから侵入したのか。

「ネズミはお前の仕業だな、怪盗っ–ハっ!」

 マント少女を目の前にして、耕一郎はようやく、見逃していたポイントに気が付いた。

「そうだ…通風孔だ! これ程の芸術品を展示してあるんだから、気温や湿度にはとても気を使ているはず! つまり!」

 シャンデリアの光で見づらい天井に、目を凝らす。

 と、天井間際な壁に、人ひとりが通れそうな、ギリギリ狭い通風孔があった。

「ネズミもお前自身もっ、あそこから侵入したのか!」

「ご名答ですの。ですが、もう少しお早く…お気づきになるベキでしたわ。ほほほ」

 優雅に上品に、口元を隠して笑う怪盗少女。

 サラサラのロングヘアが、展示用の照明を受けてキラキラと輝いていた。

 対峙している怪盗プセラチナ・スワニィは、少年探偵の頭一つほど背が高い感じだ。

「おのれ…ハっ–という事は、今の時刻は!」

「ええ、その通りですわ!」

少女が指さした柱時計の針は、既に午前0時。

「お約束通り、黄金のチャーハンは頂いてまいりますの。おさらばですわ!」

 怪盗に、予告通りの犯行を実行させてしまった。

 黄金のチャーハンを左手に、怪盗はネズミで混乱する室内を、器用にスイスイと扉に向かう。

「に、逃がしてたまるか! 待て–あわわっ!」

「指揮隊長殿っ–きゃんっ!」

 怪盗を追いかけようとした耕一郎は、ネズミで混乱する警察部員たちとぶつかってしまう。

 あおむけに倒れた少年の顔に、少女のバストが押し付けられて、腰や掌には別の部員のお尻やバストが、むにゆん、と乗せられる。

「「いやああんっ!」」

「あわわっ–み、みなさん落ち着いてっ!」

 体の上に女体を盛られて、暖かくて柔らかいプニプニ密着で、少年の顔がトマトみたいに真っ赤な上気。

「あらあら、女性部下たちの身体を楽しむなんて、イケナイ指揮隊長様ですわ。ほほほ」

 言い捨てながら、怪盗は扉を開けて走り去る。

「だっ、誰が楽しんでなんてっ!」

 ムキになって反論しながら、警察部員たちを落ち着かせつつ体を起こす。

「僕たちが出れば逆に、ネズミはここに閉じ込められます! とにかく怪盗を追いかけます!」

 実際にどうかはともかく、とにかく今は、みんなの意識を怪盗に向ける。

 走り出した耕一郎に、警察部の女子たちも慌てて続く。

「し、指揮隊長殿に続け~っ!」

 廊下に出ると、扉の警備隊員たちをかいくぐった怪盗が、屋上に続く階段の方へと走ってゆく。

「待て~っ!」

 黄金のチャーハンという粒々をお皿に乗せているからか、怪盗は全速では走れない様子。

 階段を駆け上がりながら、怪盗まで五メートルの距離にまで追い付くと、少女はマントを翻してクルっとこちらに向いた。

 右手には、白い水鉄砲が握られている。

「完璧な保護と上質な艶を約束するワックス・ワックス社のマックス・ワックスを、存分に味わってくださいですの」

「何っ!?」

 言いながら、少年探偵の足元を狙うプラチナ・スワニィ。

 ピューっと発射された白い液体は、階段に吹き付けられて拡がった。

 警戒して立ち止まった耕一郎だけど、背後から駆けて来た女子警察部員たちに押されて、ワックスを踏みつけてしまう。 

「うわわっ–!」

「「「きゃああんっ!」」」

 転んだ耕一郎に巻き込まれて、女子たちも階下へと転倒。

 複数人の女子と絡み合った耕一郎は、顔面がミニスカートの奥に密着し、両手がそれぞれ別な警察部員のバストやヒップを掴み、更にズボンの中央にも女子部員の唇が押し付けられていた。

「ぁあんっ、指揮隊長殿~!」

「こ、こんな場所で~!」

「私まだ、心の準備が~!」

 恥ずかしさと接触感覚で女子たちが身じろぎ、小柄な少年は更にモミクチャ状態。

「み、みなさんっ–うぷぷっ!」

 なんとか起き上がろうとするものの。床が滑って、更に別な女子のお尻にダイブ。

 そんな騒動を、怪盗は楽し気に笑っていた。

「これはこれは。大胆な指揮隊長様ですこと。ほほほ」

 悔しそうな少年探偵へ向けて優雅にウインクをくれると、プラチナ・スワニィはスキップしながら、屋上へと逃げてゆく。

「またっ、怪盗に笑われて…っ!」

 女子にあからさまに笑われ、少年としてのプライドにも怒りの火が灯った。

「絶対にっ、捕まえてやるっ!」

 ブレザーがボロボロになりながら、耕一郎はなんとか女子の肉体荒波をかき分けて、全力で階段を駆け上がる。

「し、指揮隊長殿~っ!」

 警察部の女子たちが隊長に続こうとするものの、みんな転んで上手く立てない様子。

 扉が開かれたままの屋上に、息を切らせた少年が到着をすると、少女怪盗は用意されていた気球へと乗船したタイミングだった。

「に、逃がさないぞっ…ぜぇ、ぜぇ…! 怪盗っ、プラチナ・スワニィ!」

 少年探偵の執念に、しかし怪盗は楽しそうに驚き、マスクに飾られた美しい笑みを魅せる。

「私をここまで追いかけて来た事は、認めて差し上げましてよ」

 と言いつつ、胸元から赤い水鉄砲を取り出す少女怪盗。

「ですので今度は、宇宙機器開発の現場JAXAご用達、五菱科学重工社製の強力接着剤を味わってくださいな」

 言いながら、少年の足元を狙って正確に放出。

「うわわっ–わあっ!」

 階段を駆け上がりの疲弊した足元を狙われて、靴が屋上の床に一瞬で密着。

 更に前へと転倒したタイミングで、胸元も狙われて床と接着されてしまう。

 耕一郎は、お尻を上げて胸を擦り付ける姿勢という、まるで怪盗に向けて土下座をするような、屈辱の姿勢で接着されてしまった。

「はっ、剥がれないぃ…っ!」

「ほほほ。私の勝利ですわね」

 怪盗は、いったん気球から下船をすると、少年の目の前に離別薬品の入った小瓶を置く。

「部下のみなさんに、剥がしてもらうと良いですわ」

 言い残すと、余裕のステップで気球へと戻って行く、プラチナ・スワニィ。

「ま、待てぇっ…うぐぐ!」

 必死に藻掻くものの、協力接着剤はビクともせず、少年は固定されたまま。

 怪盗を乗せた気球が、ロープを解いて上昇を開始。

「それでは、ごきげんようですわ」

 予告状の時間通りにターゲットを奪われ、追跡はことごとく阻止され、今や目の前で怪盗の逃走が許されようとしている。

「こ、こんな…!」

 いいとこ全くなし。

 そんな現状に、耕一郎の体に流れる探偵の本能が、怒りを強く爆発させた。

「探偵としてっ、このまま逃がしてっ、たまるかああっ!」

 全身の力で、ボロボロの制服に抵抗をして、押し破りながら強引に体を剥き出しにする。

 ビリビリに引き裂かれた制服を、床に接着したまま立ち上がった少年探偵は、パンツに靴下、ハンティングキャップに短丈上着と、変態探偵みたいなスタイルにチェンジ。

「まあっ–」

 少女怪盗も、生まれて初めて、そんな姿の男性を見たのだろう。

 少年探偵の姿に、頬が上気して、視線が釘付けにされていた。

「逃がさないいいっ!」

 全力で駆けだした耕一郎は、屋上のフェンスを素早く駆け上がり、数メートル頭上で揺れるロープへと、下も見ないでジャンプして到達。

「な、なんと危険なっ!」

 少年の執念に驚かされた怪盗の目の前にまで、耕一郎がよじ上がってくる。

「怪盗プラチナ・スワニィっ、これまでだっ!」

 籠の淵に片足をかけたまま、少年が少女怪盗の手首に手を伸ばす。

 伸ばした手はしかし、避けられた手首ではなく少女怪盗のバストを、むにゆん、と鷲掴みにしてしまった。

「!」

「あ…」

 ともに一瞬の硬直があって。

「な、何をなさるのですのっ!」

 パチーーーン!

 真っ赤になった少女怪盗の手の平で、思いっきり叩かれた耕一郎。

「ぶふっ!」

 叩かれた衝撃で体が後ろに飛ばされ、掴んでいた制服の胸部分が、ビリリっと破ける。

「–っ!」

 怪盗の制服が引き裂かれると、大きな双乳が、タプんとこぼれた。

 月明りと少年の視線に晒される双つの巨乳は、白くて丸くて艶々で、先端の小さな桃色と共に、柔らかそうにプルんと揺れている。

「いやあああああああああああああああああああああああんっ、ですわっ!」

「あわわ、すみまっ–わああっ!」

 初めておっぱいを直視してしまった衝撃で、謝罪と同時に気球から手が離れ、少年は屋上の床にドスんと落下。

 両手でバストを隠した怪盗の手からは、黄金のチャーハンが滑り落ちる。

「ああっ、ターゲットが…!」

 黄金のチャーハンは、黄金製のご飯粒をピカピカと月光に反射させつつ、屋上の床にパラパラと散らばった。

「いたた…」

 腰をさすりながら立ち上がろうとする少年探偵に、少女怪盗が悔しさを隠さず、素直に告げる。

「こ…今回は、私の敗北…ですわ…!」

「え…」

「黄金のチャーハンを見事に護って見せたのは、まぎれもなくあなた様ですもの、少年探偵様…ですがっ!」

 マスクの下の眼差しが、涙目でウルウルと美しく輝いていた。

「この次こそは、私が勝利してみせますですのっ! それでは、おさらばですわ!」

 堂々と敗北を認め、怪盗の気球は庭園の森の向こうへと消えてゆく。

「怪盗プラチナ・スワラィ…あなたは一体…?」

 悪意のない犯罪者に、耕一郎は不思議なトキメキを感じてしまう。

 気球を隠した森の木々を見つめていると、警察部の女子たちが追い付いてきた。

「指揮隊長殿っ–あぁっ!」

 少女たちは、屋上に転がる黄金の皿やスプーン、更にピカピカと輝く米粒を観止めた。

「ああ、みなさん…すみません。怪盗に逃げられて–」

 シュンとうなだれて謝罪をする少年探偵に、警察部員たちがワっと華やぐ。

「みんな見て! 指揮隊長殿が、盗難を見事に防いでみせましたわ!」

「まあっ! 私たち、初めて怪盗に勝利しましたのねっ!」

「「すご~い! 指揮隊長殿~っ♡」」

「え、あの…あわわ!」

 耕一郎は、感動で頬を染めて涙する女子たちに抱き着かれて、柔らかくて暖かくてプニプニとする肉圧迫で、ギュウギュウにされた。


 そのころ、森を超えた小高い平地に、敷地内専用のリムジンと、モノクル少女が待っている。

 気球が音もなく着地をすると、怪盗プラチナ・スワニィが、不機嫌を隠さずに下船をした。

「おかえりなさいませ、愛染様。今宵のゲームは如何でしたか?」

 モノクル少女の問いに、怪盗は感情を抑える様子もなく、両腕を広げながら素直に告白。

「吟子、ご覧になって、ですわっ! この有様を! この私が、ここまで無様に敗北をさせられてしまいましてよ! こんな辱め、生まれて初めてですわ!」

 怒り心頭な怪盗の言葉を、見守るような優しい眼差しで、黙って聞いているモノクル少女。

「理事長のご友人のご子息様とはいえ、私がこのまま敗北させられて、お終いにしして、なるものですか!」

「それでは、理事長推薦の特別入学枠は…」

「もちろん、耕一郎様は合格ですわ! いいえ、むしろ、せめて十回は私が勝利しなければ、耕一郎様を許せませんですのっ!」

 細い指で、白いハンカチをぎゅうと絞りながら、激しく感情を揺さぶられている愛染。

 こんなにも心を刺激されたのは、生まれて初めてなのだろう。自身もまだ、怒りの部分しか認識できていない様子である。

 そんな生徒会長の初恋姿も、また愛おしくて見惚れてしまう吟子だった。


☆エピローグ 事件解決


 屋上では、合格も知らずに耕一郎が、女子たちの肉圧迫攻めにされている。

「あ、あの–黄金のっ、チャーハンっ–あっあっ、集め…っ!」

「「「指揮隊長殿~♡」」」

 感動のままな女性たちの肉圧触れ合いに、少年の脳は、熱フリーズ寸前だった。


                          ~終わり~

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聖プラチナム女学園 少年探偵倶楽部 八乃前 陣 @lacoon

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