第百四十二話 そして光が残る

 二本の光がぶつかり合う。激しい閃光が生気の無い星を照らしていく。


 その光は自然界、そして魔界からも見えた。牙に囲まれた星の中で、二つの光が激しく瞬くのが。


「頑張れ…。」


 誰かが言った。


「頑張って…。」


 続けて誰かが言った。


 木が風も無いのに揺れた。


 花が。


 草が。


 海が。


 大地が少しだけ揺れた。


 星が、星全体が、そこに住む人々が気付かない程、ほんの小さく、鼓動した。



『フギェヒェヒェ!!ヒェーヒェヒェヒェ!!』


 黒い甲冑、ユートピア・ガーディアンの中で、ユートのコピー、或いはユーデアーラ・ディストピアが、狂ったような笑い声を上げた。レーザーの威力はこちらの方が上であった。このまま行けば憎き相手を消し飛ばす事が出来る。後はあのちっぽけな星を噛み砕き、自分の理想郷で暮らしていくだけだ。理想郷。自分に意を唱えない、意思無き者だけが生きる世界。デアーラと出会いその理想郷に触れ、漸く自分の安住の地を見つけたのだと思った。これを守り、そして他の星を喰らい、永久に生き続ける。それが彼の、ユーデアーラ・ディストピアの今の生きる目的であった。


「ガンバレ…。」


 その理想郷、生気の無い星で、魂が無いはずの人形に光が灯った。


「ガンバレ…。」


「ガンバレ…。」


「ワタシタチヲ…。」


「カイホウシテ…。」


 人形達が、魂が無いはずの存在が、それでも宿るほんの一縷の魂が、かつてデアーラに貪り尽くされた者達が、声を上げた。


『なん、だ?』


 ユートは理解出来なかった。


 何が起きているのか。


 何が眼前の、ユートから、ユーデアーラ・ディストピアから見れば塵芥に近い物体に力を与えているのかを。


 眼前に聳える守護神が、何を守っているのかを。


 自分こそが宇宙の塵芥であることを。



 その声が、光が、全ての物理法則を超え、内包された宇宙を越え、グレートガーディアンから放たれた光へと届いた。その人々の思いが、グレートガーディアンから放たれた光、グランドフィナーレストライクを、何倍にも何十倍にも、否、何億倍にも拡大させる。


 眩い光が、黒き甲冑から発せられた光を飲み込み、やがて黒き甲冑そのものを包み込んだ。


『フ、ギェ、ア』


 ユートの言葉はそこで潰えた。


 そのまま、眩い光が、ユーデアーラ・ディストピアのコアを貫いた。


 コアから魔力が放出され、そしてそれと同時にユーデアーラ・ディストピアの身体が萎み、コアを中心に圧縮されていく。やがてその圧縮は止まり、宇宙の黒点へと変化する。凄まじい重力変動がグレートガーディアンを襲う。


 [Vote!!][ディメンジョンコンキュラー!!]


 グレートガーディアンが背部にマウントされていた剣を抜き取り、ディメンジョンコンキュラーバロットレットを装填する。


 [空・間・切・断!!ディメンジョンカッター!!]


 ディメンジョンコンキュラーバロットレットの音声と共に、剣が、<グレートブレード>が振り下ろされる。


 宇宙の黒点が空間ごと切断され、そして消失する。



「「「アリ…ガト…。」」」


 誰かの声がブレイブヘルマスターの耳へ届いた。



 そして、後に残ったのは、グレートガーディアンに宿った眩い光と、そしてユーデアーラ・ディストピアから解放された、自然界、魔界、二つの世界を有する、青き星の輝きであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る