第百四十二話 二つの光

『フヒェヒェヒェヒェ!!』


 黒い甲冑がグレートガーディアンに向けて剣を振り下ろす。


 [Vote!!][マンティスレイ!!]


 光の刃がグレートガーディアンの手から発され、ガキンという音とともに、その剣を受け止めた。


『ここまで、ここまで邪魔をするとは、もはや私も楽しくなってきたぞ!!偽りの勇者でありながらここまで!!私の歩む輝ける旅路を邪魔するとは!!しかもあまつさえ魔王と共にだと!!愚者、無知、蒙昧、下等、下劣、悪!!この私が滅ぼしてくれる!!』


 そう言ってユートピア・ガーディアンは黒い剣を乱暴にガンガンと振り下ろす。


『全ての言葉を貴方にお返ししましょう。愚者で無知蒙昧で下等で下劣、オマケに悪辣で強欲でそれでいて独善的。それが貴方です。』


『お前のせいで何人の部下が、何人の人の命が失われたと思っている!!絶対に許しませんぞ!!』


 冷静な中に強い怒りを見せるジュゼと、その一方で直情的に怒りを見せるトンスケ。その怒りとは対照的に、操縦は的確で、ただただ本能のままに振るわれる黒い剣を右へ左へと払っていく。


『うるさい、うるさいうるさいうるさい!!私は勇者、選ばれしものである!!私が選ばれた以上、私に従うべきなのだ!!全ての命は私の為にあるべきなのだ!!それが何故!!お前達は!!私の邪魔をする!!』


「「勇者はそんなんじゃない!!」」


 エネルギーを供給するブレイブヘルマスター・ユニバースセイヴァーが叫んだ。


「「勇者も魔王も、誰かの為に戦う者だ!!お前のように、自分のためだけに、自分の利益の為だけに戦い、あまつさえ自分以外の命を弄ぶ、そんな奴は勇者じゃない!!」」


『黙れ!!毎度毎度説教を垂れる!!私は勇者だ!!私に説教出来る者などいるものか!!』


 更に剣を振るう速度が増していく。


『宇宙の怪物すら私の下僕と化した!!そんな私に何故ひれ伏さない!!』


「「自分の意思のまま他人を振り回すお前に、誰がひれ伏すか。」」


『貴方についていこうと思う人等一人もいませんよ。』


『寄生虫ですらお断りでしょうな。』


『ああ、嗚呼、もう、黙れ黙れぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』


 すると黒い甲冑は距離を取り、コアの前に立った。ジュゼの前の計器がピーピーという警報音を鳴らす。コアの魔力を吸収しているのだ。


『この怪物の膨大な魔力で、貴様らを欠片残さず消し去ってくれる!!』


 ユーデアーラ・ディストピアの魔力がほんの少しだけ渡された。それだけでこの星系を吹き飛ばせるであろう程の魔力が集まったのが、トンスケの前のパネルが訴えていた。


『まずい…のではありませんかな?!』


『はい。ですが、チャンスです。』


 ジュゼが冷や汗をかきながらも言った。手にする操縦桿に入る力が強くなる。


「「ああ。ここであのユートピア何たらをぶち壊せば、コアから魔力が溢れてドカンと行くだろう。此処が決め所だ。」」


『逆に壊せなければ、あの攻撃をまともに受ければ、こっちがドカン、というわけですか。……随分な賭けですな。』


「「賭けはもう慣れっこだ。ここは勝つ!!という気合いが大切なんだよ、気合いが。」」


 魔王と勇者の心が一つになった。


『そこの息はぴったりなのですな。それはそれでどうかと思いますぞ?』


『ですが、事ここに至り理屈を捏ねて逃げるわけにも参りません。賭けに出ると致しましょう。』


 ジュゼはニヤリと笑みを浮かべた。ーーー魔王様の影響を受けている、ジュゼは心の中でそう思った。それが少しだけ嬉しかった。理由は良く分からないが、喜んでいる自分がいる事だけは分かった。


 その理由は後で考えれば良い。今すべきことは別にある。ジュゼはキッと唇を真一文字に結んだ。


『では魔王様、勇者様。決め技の方、お願いします。』


「「OK!!」」


 ブレイブヘルマスターはヘルマスターワンドのアイコンとブレイブエクスカリバーのダイアルをそれぞれ一周させた。


 [B・R・A・V・E!!BRAVE CHARGE!!]

 [ファイヤー!!アイス!!ランド!!ウインド!!サンダー!!アイス!!シャイン!!ダーク!!オールエレメントチャージ!!]


 その魔力の奔流が、グレートガーディアンのエンジン室から全身へと迸る。


 と同時に、ブレイブヘルマスターの懐から、八属性のプロトバロットレットが飛び出していく。


「もう…。」「後で返してもらえるわよ。」


 諦めが混じった声で肩を落とすエレグの魂に、ポンと肩を叩きながらサリアの魂が言う。


 [ドラグボルケーノ!!][フェリルブリザード!!][ヴァラハクエイク!!][インドラボルテージ!!][ガルダストリーム!!][ケトスタイダル!!][マンティスレイ!!][ハデスナイトメア!!]

 [オールゴッズアンド!!]

 [[[オーーーーーーール!!レジデンツ!!]]]


 グレートガーディアンのメインシステムが叫ぶと同時に、それに共鳴するように、セイヴァーセイバーが叫んだ。


 そしてそれに続いて、全員が叫ぶ。


「「『『行けぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』』」」


 その叫びと共にセイヴァーセイバーのトリガーを引いた瞬間、両刃刀が激しく点滅し、光を放った。


 [Fuuuuuuuuull Releeeeeeeeeeeeeeeease!!]

 [サルベーション!!][レイディアント!!][エヴォリューション!!][ホープフルブレイブ!!][ヘルマスター!!]

 [[[グランドフィナーレストライク!!]]]


 グレートガーディアンの全身の神々の頭部から光が放出された。同時に、胸のエンジン室と直結した<グレートガードバスター>から極太のレーザーが発射された。そのレーザーに、全身から放出された光が集まり、一本の光へと収束し、ユートピア・ガーディアンへと向かう。


『ユートピア・ジ・エンドォォォォォォォォォ!!』


 ユートが一人叫ぶ。コアの魔力を得た真っ黒なレーザーが、ユートピア・ガーディアンの胸部から放出された。


 二つの光の筋は衝突すると、凄まじい光を放ち、宇宙を照らした。

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