第百四十三話 ありがとう

『よくやった』


『よくやっ てくれた』


 グレートガーディアンが居る、何も無い真っ暗な空間の中に、無機質な機械の声がする。


『何方ですか?この声は。』


『不気味ですぞ。…機械だけに。』


『奇怪という事ですか。トンスケ、中々上手い事を言いますね。』


『ははは照れますぞジュゼ殿。』


『世辞です。』


『左様ですか。』


 ジュゼとトンスケのやり取りに、感情の無いはずの機械がほんの少しだけ寂しげな声色が混じった。


『失礼な』


『あんまり だ』


『魔王よこの 者達に私達 を伝えては いないのか』


『不気味と 言う点に は同意し なくもな いが』


 そう言えばちゃんとは伝えていなかったとエレグは思い出した。


「神。生と死の神。リファとデアスだ。」


 サリアはエレグに合わせる事にした。実の所、彼女も最初誰コイツらと思ったが、エレグの記憶が流れ込む中、そう言えばなんか星が喰われる時に一度会った気がすると思い出したので、口にせずに済んだ。恥をかかなくて良かったと彼女は内心思っていた。


 エレグはそれを読み取ってはいたが口にはしない事にした。


『もういい』


『聞こえて いるから もういい』


 その配慮は無駄だったようであった。


『ともかくだ 諸君らの活 躍見事であ った』


『我らも予 想だにし 得ない事 をやって のけた事』


『称賛に値す る』


『感謝の念 に耐えな い』


『我ら神とて 命を奪う事 に戸惑いが 無いわけで はない』


『我ら機械 とて命を 守るるに 越した事 はない』


『魔王よ勇者 よそしてそ の仲間よ』


『お前達の お陰でこ の"世界"は 救われた』


『幾億の命幾 億の星々幾 億の宇宙』


『全てに変 わり我ら が言おう この言葉 を』


『『ありがとう』』


 その言葉と共に、グレートガーディアンの体が光に包まれていく。



 気付くとグレートガーディアンは元の星へと戻っていた。元の星は夜、空を見上げると幾多の星々が煌めいていた。自然界、魔界へ繋がる大穴の近くであった。この穴もユーデアーラが開けた穴。こうした傷跡は、この星の様々な場所に刻まれてしまっている事を、エレグは感じ取っていた。


 グレートガーディアンから全員が降りると、そこに神々がやってきた。


「良くやってくれた!!」


 ファーラ=フラーモが喜びの声を上げた。


「拙者、信じて候。」


「ほんま良かったわあ。」


「これで我が眷属、いや、魔界も安泰と言えますブヒ。」


 フロスティーゴ、ウィーウィンド、コリズィーオもまた同様に声を荒げる。


「安心するのは早いざます。まだまだざますよ。」


 フルモ=トーンドロがそれらを諫める。


『ああぁー。復興とかぁー、あるしなぁー。』


 巨体故に来られないイヌーンドが、脳に語りかける。


「とはいえ、本当に良くやってくれたわい。」


 アウローロが労いの声を上げると、


「今宵はPARTY!!みんなでお祝いKA!?」


 コスマーロがいつものノリで尋ねた。


 魔王は首を横に振った。


「それは俺達の仕事じゃない。俺達は、傷ついた人々を助け、死んだ人々を弔う。フルモ=トーンドロやイヌーンドの言う通り、これが終わりじゃないんだから。」


「そうね。でも少しくらいは、喜んでもいいんじゃない?」


 ブレイブヘルマスターの右側でエレグが真面目な顔で良い、左側からサリアがひょっこりと顔を出してそう言った。それは他者から見ると、まるで三つ首、四本の腕があるように見えた。


「キモッ。」


「その姿、その、いや、なんでもありません。」


 目が覚めたらしいティアをジュゼが諫めた。


「「うるせえ!!」」


 そう言ってエレグとサリアは合体を解いた。


「好きでこうなってるんじゃないわい。」


「そうよ、必要に駆られてよ。そこは間違えないでよ。」


「はいはい。」


「まぁ、お陰で助かりました。」


「ですな。いやあ、見ましたぞ!!あの凄まじい攻撃!!空の向こうだというのにくっきりと見えましたからな!!」


「それに、グレートガーディアンがまともに動いたのも全部魔王様、勇者様のお陰ですしね。」


「豚トロ殿が外見とギミックばかりに凝ってしまったせいで、エネルギー源などが間に合ってませんでしたからな。」


「トーンドロざます。」


 もう好きに呼んでくれ、という呆れの色が乗った声で、ボツリとフルモ=トーンドロが呟いた。


「いや、俺達だけじゃない。」


「ええ。」


 そう言ってエレグとサリアは皆を、そして、穴の淵に立ち、底を見つめた。


「……そうですね。」


 ジュゼが温かな目で言った。



 傷は残る。すぐには消えないだろう。

 それだけでは無い。残ったものは。

 もっと大切なものを、残す事が出来た。

 良かった。本当に。


 エレグは、心の中でそう呟いた。


 穴の底からは人々の歓声が響き、天の向こう、魔王の立つ場所にまで届いていた。

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