第七十三話 シンプルイズベスト
「考えてみれば簡単だったな。」
俺は目の前で暴れるガオーラの姿を見ながら言った。ガオーラは一心不乱に水中を駆けずり回っている。
「ええ、簡単でしたね。」
俺の横でジュゼが相槌を打つ。
ガオーラの目の前には適当な肉が置いてある。これは最初に言ったマリーネの集落からかっぱらってきたものだ。時が止まっていたから、店主が気付いた時にはもう無くなっている事になる。申し訳ないが分かって欲しい。金も持ってなかったんだ。
その肉を、ヘルマスターワンドのロープモードで、ガオーラの牙が届かない位置に吊るした。タイミング的に危なかったが、成功した。これで人参を吊るされた馬の完成である。ガオーラはその肉目掛けて泳ぎ続けるが、釣竿はしなるものの牙が届かない。距離を取るように設定してあるので、壁にぶつけようとしても壁に沿って浮き上がり、ガオーラと肉の距離が縮まらない。結果、ガオーラは延々と水中を肉目掛けて走り回るだけになった。
「今のうちに。」
「ええ。」
計画は第二段階へ移行する。ジュゼは転移魔法で魔王城に戻って、そしてすぐに帰ってきた。サリアを連れて。
ちょうどココは水の聖域の外。水中ではあるが。そのため転移魔法が使用出来る場所だったのだ。
「ゴボボボボボボ!?」
おっとまずい。突然連れてこられたから魔法が掛かっていないようだ。ジュゼに促し、彼女は急いで生存魔法をサリアに掛けた。
「殺す気か!!」
サリアが怒鳴る。
「いや悪かった。だが急ぎなんだ。あの化け物を倒すからアレ貸してくれ。」
「アレって…あぁアレね。」
サリアは理解してくれたようで、ブレイブエクスカリバーを取り出した。
「よし、これでイケる。」
ダメだったらもう打つ手は無い。これに賭けるしか無い。
俺はブレイブエクスカリバーのダイアルを[E]に合わせた。
[Exceed!!]
俺はヘルマスターワンドのワンドモードへ切り替え、デュアルボウトリガーをセット、片方のスロットにアウェイクニングバロットレットを挿入した後、ブレイブエクスカリバーをジョイントともう片方のスロットへとドッキングさせた。
[Exceed The Limit!!]
[アウェイクニング!!][HopefulBrave!!][[[Hey Let's Say!! Vote!!]]]
それぞれのバロットレット、そしてデュアルボウトリガーが叫ぶ。
[[Courage beats the darkness!! 空前絶後の共同戦線!! Hell-Master!! And 勇者!!]]
[[ブレイブヘルマスター!!]]
ブレイブエクスカリバーとヘルマスターワンドが同時に叫んだ時、俺の頭にヘルマスターギアのヘルメットとバイザーが降り、その上から更にホープフルブレイブギアのバイザーが降りた。
[降臨!!]
[Rising!!]
この音声に反応するように、ガオーラがこちらを向いた。瞬間、初めてガオーラがたじろいだ。その反応を見て俺は少し安心した。これで向かって来られたらどうしようと思っていたからだ。
だが奴はそれで諦めるようなタマではなかった。奴はたじろぎつつも、意を決したようにこちらへ牙を剥き出しに突進してきた。
「ちょっと!!危ないわよ!?」
サリアが叫ぶ。だが俺は文字通り受けて立つ事にした。
「魔王様!?」
これで耐えられないようであれば、今後もどうにもならない。空から来る連中にも、またやってくるであろうユートも迎撃出来んだろう。賭けてやる。俺と魔界の未来全部。
ガキィンという音と共に、ガオーラの口が閉じ、俺の視界が真っ黒になった。
ーーーそして。
「フギャアアアアア!?」
ガオーラの初めての悲痛な叫びが轟いた。奴の牙はズタズタに折れ、見るも無残と言うべきボロボロの姿になっていた。
「グォォォォォラァァァァァァ!!」
奴は怒りのままに今度は刀のように鋭い尾びれをこちらへ振り回してきた。
だがそれもまた、このブレイブヘルマスターギアの前には無力だった。
鎧の硬度の方が奴のそれを遥かに超えていたために、尾びれもバキバキに折れ、刃こぼれどころか古く錆びついた刀の如く傷ついた。
「フギィィィィィ!!」
奴は恐怖と思われる感情の篭った悲鳴をあげると、魔界の方へと戻っていこうとした。とりあえず、賭けには勝ったようだ。
「そうはさせるか!!」
奴は色々暴れすぎた。ここで制裁せねばならん。
俺はブレイブエクスカリバーのダイアルをBから一周させた。
[B・R・A・V・E!!BRAVE CHARGE!!]
そしてヘルマスターワンドの全ての属性のアイコンを一周タップした。
[ファイヤー!!アイス!!ランド!!ウインド!!サンダー!!アイス!!シャイン!!ダーク!!オールエレメントチャージ!!]
[[[Hey!! Let's Say!!]]]
「裁きを受けろ!!」
俺はブレイブヘルマスターワンドを振りかざし、両刃に宿る光を解き放った。
[[ブレイブヘルマスター!!]][[オールエレメント・ブレイブフィニッシュ!!]]
全ての属性の光、赤、青、黄、緑、紫、水、白、黒の各色の光の刃が、ガオーラを貫いた。
「ブギェェェェェァァァァァァァァァァア!!」
食う事しか知らなかった獣は、最後に恐怖という感情を覚え、そして光の粒子へと帰って行った。
「最初からこうすりゃ良かったじゃん。」
サリアの言葉に俺は頷いた。そだね。まぁともかくありがとう。後は城の守り引き続きよろしく。そう言って俺達は彼女とブレイブエクスカリバーを送り返した。
「あ。」
ジュゼがハッとした様相で言った。
「どうした?…あ。」
そして俺も気付いた。
ここは水中。
服はずぶ濡れ。
そのまま帰ったサリアは…。
「「まぁいい」」「か。」「ですね。」
俺達は同時に興味を失った。まぁ強く生きてくれ勇者よ。
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「ぶぇぇぇぇぇっくしょん!!」
冷たい水に晒された上に全身ずぶ濡れになったサリアがくしゃみをした。
「変態だ!!変態がいるぞ!!」
ティアが叫ぶ。
「ジュゼにも言いなさいよ!!」
「言ってる暇なかったし。」
「代わりの服持ってきますから、しばしお待ち下され!!」
トンスケが駆け出して行く。
「やめて!!アタシの部屋に入らないで!!」
「そんな服装で城内走り回ったら変態と思われますぞ!?そのくらい我慢してくだされ!!」
「ううう…。エレグゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!」
サリアの慟哭が魔王城内に響き渡った。
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