第七十二話 なんでも食べるすごい奴
シャチといえば黒い背中に白い腹。それは変わらない。違うのはヒレだ。明らかに俺が知っているシャチのそれよりも鋭く、刀のように研ぎ澄まされている。触れたらバラバラにされそうだ。そして更に厄介なのは口。牙である。鋭く尖ったそれは突き刺さったら最後獲物を離さないという意思が強く感じられるものだった。目は白いアイパッチの先にこれまた細く鋭いものであり、全身から尖った性格を感じざるを得なかった。話して分かるような奴ではなさそうである。
「あ、あのぉ、ガオーラさん…です…か?」
それでも一応対話は試みる。
無駄だったけど。
「グォォォォォォォォォォォラァァァァァァァァァア!!」
咆哮と共に俺の方向へ水をかき分け向かってきた。
「ぎゃあ!!」
危ない。俺たちが避けると、ガオーラはそのまま壁に激突し、穴を掘り進めて、やがて反転しこちらを再び睨みつけた。
お前はドリルか。
しかしこの洞窟が形成された方法がわかった。奴は土ごと食らったのだ。信じられないが、奴は何でも胃の中に納め消化しているようにしか見えなかった。そうでなければ、今目の前で、壁が抉れ、ガオーラの通った後にはただ洞窟だけが残されている理由が説明出来ない。
つまり俺達が喰われたらヤバいという事だ。
「どどどどどどうする!?」
戸惑う俺を無視して、反転したガオーラが再び口を大きく開いてこちらに向かってくる。動きは直進的なので読みやすい。サラリと避けると再びガオーラは壁に穴を開けていく。
「このまま避けているだけでは、洞窟全体が崩れて一巻の終わりです。攻めに転じなければ!!」
「わかった!!」
俺はガオーラが反転するその隙を見計らい、ヘルマスターワンドをバスターモードへと変形させた。
[Mode Buster!!三・銃・連!!]
「水中なら雷でどうだ!!」
[Thunder!!][Thunder-Finish!!]
[ヘルマスター!!サンダーバスターフィニッシュ!!三銃連!!]
雷が光の如く水中を駆け巡り、大口を開けたガオーラの元へと飛んでいく。その雷はガオーラの口の中へと飛び込み、そして、ガオーラは口を閉じた。
一瞬の間の後、ガオーラは全身から稲妻を放ちながら、再びこちらに口を開けて突進してきた。
「へ?…ぎゃああああああ!!」
俺は一瞬何が起きたのか理解できず呆気に取られた後、とりあえず状況がまずい事を理解して叫びながら避けた。
「ビビビビビビビビ。」
俺の体の横をガオーラが泳ぎ抜けるのと同時に、俺の体を電流が走り抜けた。ガオーラが纏っていた稲妻が俺に命中したのだ。ヘルマスターギアをつけてなかったら、骨ごと焼けて死んでいただろう。
「きききききき効いてないのか?」
まだ舌が痺れる。
「むしろ吸収してパワーアップしたように見えます。」
ジュゼは冷静に言う。確かにその通りだ。とはいえこちらに反転する頃には、纏っていた稲妻は無くなっていた。どうやら食ったものを吸収し自分の力に出来るが、あくまで一時的なもののようである。
「あったま来た。切り刻んで刺身にしてやる。」
言ってて悪党の気分になったので今後はこういう物言いは止めよう。俺はそう思いながら、ヘルマスターワンドをブレードモードへと変形させた。
[Mode Blade!!]
そしてこちらに飛び込んでくるガオーラを避けつつ、その肌へ雷を纏った剣を突き刺した。
突き刺そうとした。
だがその体はヘルマスターワンドの刃を、カキンという音とともに防いだ。
「げ?」
そのまますれ違うガオーラ。どこかニヤけた笑みを浮かべているように見えたのは俺だけだろうか。舐められている気がする。
「手に負えないな。」
攻撃パターンは突進くらいだが、防御面に特化している印象だ。ヘルマスターギアで効かなければ…。
「ならこいつで。」
俺は攻撃を回避しながら、ハデスナイトメアバロットレットを取り出した。エラが当たるだけで真っ二つになりそうなので、回避優先だ。慎重に対応していく。
そして反転する隙を狙い、デュアルボウトリガーとハデスナイトメアバロットレットを装填した。
[ヒューヒュードロドロ罪を包む闇黒!!幽終!!暗魂!!ハデスナイトメア!!][[降臨!!]]
[Mode Scythe!!][Nightmare-Dark!!][ヘルマスター!!][ナイトメア!!][ダークサイズ!!]
「精神的に食らえダメージ!!」
俺はそう言うと奴の体を闇で包み込んだ。
一瞬戸惑うように顔を顰めたが、やがてその顔も闇の中へと消えていく。
「やったか?」
「あ。」
「あ。」
思わず言ってしまった。マズいセリフを。
「グルォォォォォォラァァァァァァ!!」
俺達の予想通り、ガオーラは再び雄叫びを上げて突進してきた。一瞬気が抜けた俺は避けたものの、腕の装甲にヒレが当たり傷がついた。
「ぐあっ…。」
「大丈夫ですか!?」
先程から防戦に徹しているジュゼが叫ぶ。
「ああ、大した事はない、かすり傷だ。」
実際、然程大きなダメージではない。だが問題はハデスナイトメアの能力が無効化された事だ。どうやら、知能が足りないのか、それ以上に欲望が大きいのか、悪夢を見ても気に留めていないようだ。
「まずい、どうしよう。」
何か手はないものか。
そう考えながら回避を続ける内に、どんどん洞窟が広がっていく。ゴゴゴゴゴと水中に音が響き渡る。何かが崩れかけている。
「このまま暴れられたら、私達生き埋めですよ。」
「そりゃそうだが…、仕方ない、時間稼ぎだ。」
「グルォォォォォォォォ!!」
[時間!!]
俺はタイムルーラーバロットレットを起動、時間を停止した。
俺の頭に少しだけ牙が当たった。刺さらなくて良かった。そのまま慎重に距離を取る。
「とりあえず時間は稼ぐが…どうしたものか。」
タイムルーラーギアでは決定打になる攻撃が出来ない。かと言ってアウェイクニングバロットレットではダメージが通らない。むぅ。弱った。何か…打つ手はないものだろうか。
大体こいつどういう仕組みで生きているんだ。さっきから悪食にも程がある。
「見る限り、食べた瞬間に加速しているように見えます。そして何かを食べる毎に、後ろに水流が起きているようにも見えました。恐らくですが、何かを食す度に、瞬間的に消化して水に変化させているのではないでしょうか。」
「え、じゃあ何。食ったその場から屁の代わりに水を吹き出しているとかそういう事?」
「…ハッキリ言わないでください。言いたくなかったのに。」
「ゴメン。」
どんな生態系でどうやって昔封印してたんだ。
「知性はなさそうだな。」
「ええ。先程から心を覗いてみたのですが、食う事しか考えていませんでした。既に生物を数十匹以上食い殺しているようで、魔界のシステム的にも魔物扱いされています。」
「なんとか対処しないとならないわけか。…しかしどうしたものか。」
俺とジュゼは同時に顔を横に倒し考え込んだ。停止した時間の中で二人のうーんうーんという考え込む唸り声だけが響いた。
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