第二十八話 希望の光・後編

 時は少し遡る。


 初代勇者の墓で、俺とサリアが光に包まれ、やがてそれが収まった後。


 何が起きたかと思って俺がキョロキョロと辺りを見回してみると、そこには剣が抜けて喜ぶサリアと、あるはずの無いもう一人の姿があった。誰だこれは。


『わわわわわ』


 まるで壊れたスピーカーのように不安定、おかしな発音で、その姿は口を開いた。俺はまじまじと見ると、それは立体映像か何かであった。所謂プロジェクションマッピングというか。だが墓石に映し出されたその映像は、音声のようにブレている。少し時間が経つとやがて安定し始め、普通の口調で話し始めた。


『私は初代勇者、カレイド・グラーディア。これはそのブレイブエクスカリバーに残した、後世の勇者へのメッセージである。』


 サリアに剣から手を離しこちらを見るように促した。彼女は素直に俺の横に立ってそれを聞き始めた。


『こここここ、これを抜くことが出来た者よ。其方は勇者として正しき心を持っていると、この剣に選ばれた。この剣は、人々を癒し、人々を守り、悪しき呪いを破り、そして悪しき者を罰する力を持っている。この剣は其方が正しき心を持っている限り使う事が出来る。逆に、正しき心を失った時、使う事は出来なくなる。ゆめゆめ忘れる事なきよう。』


 サリアはブンブンと首を振った。目が輝いている。この剣が使える事に魅力を感じ、ワクワクしている目だ。少し前は勇者だからという理由で酷い目にあったというのに、現金と言うべきか、純粋と言うべきか。


『ゆ、ゆーーーーーうuuuuuu』


 また映像がブレ始めた。


『勇者は人々に希望を与える者でなけれれれれればならない。きっと、辛い事もあるddddddだろう。それでも前を向き、進むのだ。その勇気と共にににに、人々の、皆の、希望の光となれ。』


 言っている事はいい事だと思うのだが、音声のせいで頭に入ってこない。古いせいかどうも記録音声とかが壊れかけているらしい。ヘルマスターワンドは…あれはヘルマスターギアの力で進化したせいで新品まんまだったが、こいつは野晒しだったから、それで大分くたびれてしまったのだろう。というか、何年前のものだか知らんが、未だにちゃんと動作する時点で驚きである。


 そんな事を考えているうちに、その映像は終わり、サリアの手元には[ホープフルブレイブバレットロット]が現れ、そして辺りには静寂が戻ってきた。


「人々の…希望の、光。」


 サリアは音声の件を全く意に介さないようで、最後の言葉を何度も反芻していた。



「希望の光よ!!魔を打ち砕け!!」


 そして今。サリアはブレイブエクスカリバーのダイヤルを回転、[Break]の位置へと切り替えながら叫んだ。

 [B-B-B-Break]


 また壊れたようなバグったブブブという音声の後、無機質な音声をブレイブエクスカリバーが上げる。


「でりゃぁぁぁぁっ!!」


 そのままサリアがブレイブエクスカリバーを振るうと、そこから光が溢れ、目の虚な騎士達を包み込んだ。


「「「な、な、なななななななな?な…。」」」


 多くの騎士達がそれに意を介さず前進しようとしたが、


「…あ、あれ。」「俺達は…一体?」「なんでこんな所に?」


 口々にそんな事を言いながら、そして歩みを止めた。どうやら先程の技は解呪の能力を持っているようだった。


「そうだ…。急に意識が薄れて…。」「魔王を倒さないとって思い始めて…?」「ああ、なんでこんな事をしてしまったんだ…!!」


 やがて、洗脳されていた時の記憶が戻ってきたようで、彼らは段々泣き、喜び、そして戸惑いを強くし始めた。


「貴方は…勇者様…!!私は…私はなんて事を…。」


 先頭の騎士も正気に戻ったようで、涙を流し始めた。洗脳中の行動の記憶は残っているようであった。それ故に彼は慚愧の念に囚われているようである。無理も無い。恐らく国全体の勇者信仰自体は元からのものだろう。その信仰する勇者を自分が刺したのだ。操られていたとは言え、その記憶は強く刻まれてしまう。


「気にしないの。むしろこれで良かったのよ。アタシはアザなんて無くても勇者だって認められたんだから。この剣にね。」


 彼女はそう言って彼を慰めた。だが恐らく本心からだろう。俺と合流した時も、自分の傷など全くと言っていい程気にしている様子は無かった。そういう人間なのだ。図太いというか何というか。良く言えば強い心である。


「それより大切なのは、なんでこんな事したのかよ。覚えてる?」


「そ、それが…。」


「おーーーっと、そこまでにしてもらおうか。」


 そう言いながら一部の騎士達が躍り出てきた。良く見ると、その手足は腐り果てていた。


「死霊族!?」


 まさか混沌の魔界の連中か?だがその答えが出る前に、彼らは行動し始めた。


「我らが王様の御命令よ。とっとと魔王を殺せ!!」


 死霊族達は正気に戻った騎士達の背中に剣を突きつけ、脅し始めた。


「い、いやだ!!これ以上過ちを繰り返すような事は…!!」


「ならとっとと死ーーー」


 おーっとそこまでだ。


 [ストップ!!]



 俺は時を止め、今まさに剣を刺されんとしていた騎士達を全員こちら側に避難させてから、ヘルマスターワンドのスタートアイコンをタップした。



 [スタート!!]


 それが鳴り響いた瞬間、死霊族達の剣は空を突いた。


「…あれ?」


「みすみす許すバカが何処にいる。」


 俺が言うと彼らの腐った顔が更に蒼ざめた。


「サリア!!一人は残せ!!」


 俺が叫ぶと、


「OK!!」


 彼女は応え、ブレイブエクスカリバーのダイアルを[Attack]に合わせた。


 [A-A-A-Attack]


 そしてトリガーを引いた。


 [ホープフルブレイブ!!シャイニングスラッシュ!!]


 ブレイブエクスカリバーから光が溢れ巨大な剣の形を取る。そしてその剣をサリアが振るう。


「でぃりゃあああああっ!!」


 光は死霊族達を切り裂き、断末魔と共に彼らの体は光へと消えていった。一人だけ、情報を聞き出すためにあえて残された死霊族ーーーゾンビが、尻餅をついて愕然としていた。


 そして後には、呆然とするブレドール王国の騎士達とイージス王国の騎兵隊達、エスカージャ殿、そして不敵な笑みを浮かべる俺たちだけが残された。


 俺が思わず掌をかざすと、サリアはそれに気付いた。こちらの世界にもそういう文化はないようで、彼女は「こうすればいいの?」という目をしながら、それに合わせて掌をかざした。俺がその掌に向けて自分のそれを打ちあわせ、ハイタッチを交わすと、彼女は少しきょとんとした後、笑顔を浮かべた。それを見て俺も自然と口角が上がるのを感じた。


 何とか、無事に終わらせられたようだ。





<アイテム解説>

■ブレイブエクスカリバー

初代勇者の残した武器。正しき心の持ち主にのみ反応する剣。

剣の柄元の部分についたダイヤルを回す事で、[Attack][Break][Cure][Defend]の四つにモードを切り替えられる。

[Attack]モード・・・剣技シャイニングスラッシュの発動により敵を切り裂く。バロットレットの力を上乗せ可能。

[Break]モード・・・対象にかけられたあらゆる魔法を無効化する。

[Cure]モード・・・対象の自然治癒能力をブレイブエクスカリバーの魔力で強化し、傷を癒す。

[Defend]モード・・・対象に対する攻撃を無効化する。

野晒しになっていたため、音声出力機能にバグがあり、吃る。それ以外にも色々と故障箇所があり、まだ完全には真の力を解放し切れていない。

※[Break][Cure][Defend]各モードはバロットレットの種類に依らず効果は一定。


■ホープフルブレイブバロットレット

勇者サリア・カーレッジの心に応えるように生じたバロットレット。

彼女の心に宿る光の力で、ブレイブエクスカリバーの能力を上昇させる事が出来る。

本編中ではまだ気付いていないが、若干特殊な形状をしているため、ヘルマスターワンドには装填出来ない。

コールは[ホープフルブレイブ!!]。

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