第二十九話 一段落か、それとも
「数年前から頭がぼんやりしておりました。そして最近になり、魔王…様が、自然界に来たというニュースが流れ、王と大臣が御触れを出しました。魔王を討てと。…そこから、熱狂が私達を包み込みました。とにかく魔王を倒す、邪魔する者も全て悪だ、そういう思考が脳を支配しました。それが誤っている考えである事は、頭の中では理解出来ていたのです。しかし、抗う事が出来ませんでした。出来なかったのです。」
先頭に居た騎士は、イージス王国に亡命した後、このように述懐していたという。
「俺はボスから連絡があって、兵士達に付いていって、いざという時に魔王を捕らえて、偽物と入れ替えろって指示されたんだ。それ以外の事は何も知らないんだよ。本当だよ。これが偽物ね。ただの人形だが、奴らには十分な目眩しになるだろうって。それで捕まえたら王宮の部屋に置いておけって。それしか聞いてねぇんだ。…ボスが誰か?それも特には。いやいや嘘じゃねぇよ。連絡ってのも手紙で届いたんだよ。俺達は皆、魔界のクソみてぇなルールが嫌いであれに所属してただけで、ボスが誰かとかも特に興味無かったんだ。本当だってば。」
一方、一人だけ生かされた「混沌の魔界」の構成員は、このように語っていた。
結局、新しく分かった事は無かった。前から予想出来ていた通り、ブレドール王国の王、または大臣が、ユート・デスピリアーーー即ち、「混沌の魔界」の首魁、あるいはそれと直接的に繋がっている事は明白と思われる。だがそれ以上の事は分からないままであった。
俺は溜息を吐きながら、残った構成員を地下の牢獄に叩き込んでおくように言った。
「まぁ、無事終わって良かったけど、結局なんかてんやわんやしただけで、成果が無いよなあ。」
俺が愚痴を零すと、ジュゼが言った。
「そうでもありますまい。この件でイージス王国とは危機感を共有出来ましたし、我々の友好的態度にも理解を得られました。ある種恩を売られた形にはなりましたが、一方で先方との繋がりは強固になりました。それは成果と言って良いのでは?」
「…まぁな。」
あの後、エスカージャ殿は俺の手を握って泣きながら「ありがとうありがとう」と言い、安堵した顔を浮かべていた。無事このどたばたを乗り切った事で相当安心したのだろう。勿論俺も安心はしたが、彼の喜びようは相当だった。自然界では戦争があまり無いと聞くので、そのせいだろう。とりあえず、国際会議にブレドール王国の人々が参加するようなら、気を付けるように言うと、ブンブン頭を振って、後は別途魔通で話そうという事になって別れた。こちらの信用は得られたようであった。
「それに、アタシが魔界に来てあげたんだから、そこも感謝してくれないとね。」
「…頼んだ覚えはないんだけど。」
俺の横に居たサリアが言った。
彼女は結局行き場が無く、そのまま一人でブレドール王国に乗り込む構えであったが、危険なので止めた。そうしたら、じゃあ魔界の様子を監視する等と言い出し、こちらに付いてきてしまった。
魔界は彼女の興味を強く惹いたらしく、見るもの見るものに目を輝かせていた。彼女は十八歳との事だが、その様子はもう少し幼い子供のようであった。体は大人びている分、対照的という感じであった。だが気持ちは分からなくもない。嗚呼、俺も普通に訪問していたらこうであったのだろうか。魔界との出会い方が最悪だったからなぁと思い返してしまう。
話がブレたが、結局彼女は、何かあった時に連携したいという事と、行き場も無いという事、そして魔王を監視するのに丁度良いとの事で、当面は魔王城の住人となる事になった。ティアといい、徐々に増えていっている気がする。
「よろしくネッ。」
出来る限りの愛想をばら撒きながら彼女が言った。こんな事言っているがゴリラである。
「女性が増えて我輩ウハウハ気分ですぞー。」
トンスケが喜んでいた。が、次に飛んできたゴリラの一撃で粉砕され、哀れ医務室へと運ばれて行った。あーあ。俺は言わんこっちゃ無いという顔でそれを眺めていた。
「…はぁ、まぁ、結構ですが。」
ジュゼはそう言いつつも、どこか不服そうな顔をしていた。
「ふむ、嫉妬かね?ボクも来ない方が良かったかな?」
ティアが言った。
「それだけはあり得ません。」
ジュゼが冷徹な声で否定した。
「ふぅ〜ん?まぁいいけれども。」
ティアがニヤニヤしながら言った。
「何の話?」
サリアが聞いてきた。
「知らない。」
俺が答えると、ジュゼの目つきが鋭くなった。俺何か悪い事した?
「これはまぁ、何というか。先行きが怪しいなぁ。」
ティアがまだニヤニヤしながら言ってきた。
「いやいや、先行きは良い方だって。そろそろ研究も終わるから、移動手段の確立も出来る。工事で労働者を増やすことも出来るしな。いよいよマシな政治が出来るってもんじゃないか。」
「そうです。色々とありましたが、しばらくは外側のゴタゴタも無いでしょう。少しはこちらに落ち着けるというものです。」
ジュゼが何かを取り成すように言った。そこが少しだけ引っかかったが、俺はうんうんと頷いた。
「まぁ、そうだね。そういうことにしておこうね。うんうん。」
ティアがまたニヤニヤしながら言ってきた。
なんだろう。生前、こういう展開を漫画で読んだ気がしないでもない。それは確かラブコメで、鈍感な主人公が、ヒロインの恋心に気付かない話だったり、ヒロイン同士が恋の鞘当をする話だったりした記憶がある。
…まさか、ねぇ。俺は一笑に付した。
「アホかな?」
「鈍感なんでしょう。」
「この手(へ)の話ひの中心になったことがないと見まひたぞ。」
「トンスケはいいから医務室行きなさい。」
****************
「例の件は失敗し、出陣した王国騎士団は全員イージス王国に亡命致しました。」
暗い玉座の間で、二人の男が話している。一人は大臣らしき服装に身を包んでおり、もう一人はそれよりも豪華な服と王冠を頂いている。
「分かった。」
「そして彼の国より、他国も含めた会議の場で話を聞きたいとの申し入れがありました。この件については私の方で対処致します。」
「分かった。」
王冠の男は淡々とそう答える。
「また、次回派兵用の要員についても徴集し、今度はより強固な魔法を設定するように致します。宜しいでしょうか。」
「…わ、かった。」
王冠の男は戸惑い、あるいは躊躇を浮かべ、そしてまた同様の答えを提示した。
「ありがとうございます。それでは失礼いたします。」
「…わか、った。」
ただただ王冠の男はその一語だけを垂れ流すだけであった。
そして大臣らしき男は、スタスタと玉座の間を歩き外へ出る。やがて玉座の間には、王冠の男一人だけが残された。
「わ、か、っ…。」
男が目から滴を流しながら呟いた。
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