第十話 技術ツリーを進めよう
武器の作成を依頼し、技術研究を進める事を決めてから数日後。シュミードから連絡が来たので、俺はジュゼとトンスケに執務を任せて鍛冶屋へ向かった。鍛冶屋ではシュミードが試験場へと案内してくれた。彼は大きめの箱を抱えていた。
ドアにロックを掛け、室内に誰もいない事を確認してから、シュミードが切り出してきた。
「ほら、出来たぜ。あんたのための武器だ。」
そう言うと彼は俺にその大きめの箱を差し出した。俺はワクワクしながらその箱を開けた。
梱包材として柔らかい木屑に包まれて、黒い杖が置かれていた。杖は木製だが真新しく、艶めいて見える。杖の先頭には先日の設計通りタッチパネルが組み込まれている。
「持ってみてくれ。」
俺はその言葉に従い杖を持ち上げた。意外と重い、持てないとか持ち上げ辛いというわけではなく、見た目に反して、という感じである。ズッシリとしている。回路とやらが入っているからだろうか。
「パネルに幾つかアイコンがあるだろ?」
そう言うので見てみると、確かにアイコンが一つ…二つ…八つ、円状に並んでいる。中央には[Action]と書かれたアイコンがある。今はそのアイコンは色褪せている。
「八つの円状のアイコンは属性アイコンだ。炎、水、雷、風、土、氷、光、闇。んで、それを押すと、[Action]アイコンの色が濃くなる。濃くなったらその[Action]アイコンをタップする。すると最初に選んだ属性の魔法が発動するようになってる。」
「つまり八種類の魔法が使えると。」
「そう。ちなみに組み込んであるのは全部攻撃魔法だ。最初っから数があっても仕方ないだろうし。魔力の込め具合で威力は変わるから、対抗手段としては十分だろう。取っ掛かりと思ってくれ。この間も言ったが、魔王様がこれを使いこなすことが重要だ。」
「わかった。ありがとう。」
「おう。とりあえず使ってみてくれや。」
そういって彼は俺に案山子のようなターゲットを指さした。俺達のいる場所から大体五メートルは離れている。あれに向かって杖を振るえばいいのかと問うと、彼は肯いた。
俺はターゲットの方を向き、まずは炎のアイコンをタップした。
[Fire!!]
杖が喋った。いや、鳴ったというべきか。
「どれを選んだか教えてくれるようにしてある。」
敵にもバレるけどいいのか?まあいいか。これで[Action]をタップすればいいんだっけか。俺はそれを押し、ターゲットに向けて杖を掲げた。
[Calling!Fire!!]
杖が鳴り、タッチパネルの周りの部分のLEDのようなものが赤く光った。なんだこの音声と光。どこかの光る!鳴る!DX玩具か何かか。
「俺の趣味だ。あと杖の意識もノリノリだったんでな。面白いだろ。」
いい趣味でございますね。俺がそんな顔をしていると、杖から小さな火球がヘロヘロと飛び出し、ターゲットへ命中、ターゲットに小さな焼け跡を残した。
「…。」
「まだまだ十分に使いこなせてないな。もう少し魔力を振り絞ってみてくれ。」
俺は以前から続けていた魔法の勉強の内容を思い返した。えーと、確か、体に力を込めて、手から放出する様子をイメージするんだったか。出てこい、出てこい、でかいの出てこい…。俺はそう念じながら再びアイコンをタップした。
[Calling!Fire!!]
再び音が鳴った。そして杖から巨大な火球が飛び出した。巨大すぎて顔が灼けるかと思う程であった。鼻先が暖かかった。そしてその火球はターゲットに向かい命中、周りのそれにも飛び火し、試験場全体が燃え盛った。
「やり過ぎだよアンタ!!水!!水の魔法使って!!」
シュミードが叫んだ。俺は慌てて杖の水のアイコンをタップした。
[Water!]
[Calling!Water!!]
火に水を浴びせるイメージを浮かべて、杖をかざす。するとターゲットに向かって勢いよく水流が吹き出し、火を鎮火した。だが勢いが良すぎた。というか量が多すぎた。ターゲットの火を消しただけでは終わらず、その水は試験場に溜まってしまった。足元で水がびちゃびちゃという音を立てた。
「…ま、特訓だな。」
彼は部屋の床に穴を開けて水を吸い出しながら言った。はい、そうですね。俺は力なく肯く他無かった。
さて、杖を持って玉座の間に戻ると、知らない魔人が立っていた。メガネをかけた男で、白衣を着ている。頬に稲妻のようなアザがあるように見えたが、よくよくみるとアザではなく、本当にバチバチという音を立てて全身に雷が迸っていた。
「ひぃっ!!」
その男は素っ頓狂な声を上げると土下座し、頭を垂れた。
「魔王様、ご紹介致します。こちら、イレント・ケミエル。以前は魔王城に勤めていた、優秀な科学者で、今は乗り物やその動力に関する技術を研究しています。また他の科学者にも顔が広く、科学者の中でもサブリーダー的な存在でした。」
そう耳元で呟くジュゼにわかったと答えて、俺は玉座に座った。
「うむ、我の召集に…あー、再び応えてくれた事、感謝する。なので、その、面を上げよ。取って食ったり、まして殺し「殺す!?ヒィィィィッ!?」
イレントは頭を抱えて再び蹲ってしまった。こいつが臆病なのか、それとも魔王がそれだけ恐れられているのだろうか。
「…彼はその、気が弱いので、ご配慮願います。それに、その、かつて魔王城に勤めていた科学者は魔王様の癇癪を恐れていますので。」
両方だったようだ。
「…あー、まぁ、そう怯えなくても良い。今回は貴公に頼みがあって呼んだのだ。話を聞いて貰えるだろうか?」
「聞きます!!聞きます!!聞くのでどうか殺さないで下さい!!」
「…勿論そのつもりだ。安心してくれ。…トンスケ、椅子を彼に。」
「御意。」
トンスケが椅子を持ってきて、彼を椅子に座らせた。彼は座った後もガクガクと足を震わせ、俺の事を恐れているようだった。無理もない。
「まぁ、我を恐るる気持ちも良く分かる。だが聞いて欲しい。我は考え直し、今後魔界をより住みやすい場所に変えていくための取り組みを行う事に決めたのだ。そこで貴公に力を貸して欲しい。」
「ち、力…ですか?でもワターシ、力なんて全然…。」
「力というのは不正確だったか。正しくは知恵だ。貴公は優れた科学者と聞いて…いや、優れた科学者だ。そこで、貴公に技術開発の推進を行ってほしい。」
「ぎじゅつ…開発…ですか。」
彼の目の色が変わったように見えた。
「うむ。正確には、技術顧問として、魔王として進めたい方針に対しどのような技術研究が必要かの助言を頼みたいのだ。例えばだが、現在魔界は移動に不便な要素が多い。そこで、貴公に移動手段の研究およびそれに必要な技術の研究を頼みたいと思っている。」
「移動手段…。なる…ほど。ワターシをお呼びになられた理由が分かりました。」
なんでこいつは一人称が変なアクセントなんだ。
「ちょうど今考えていたのが、多人数が移動出来る箱です。街と街を線で繋ぎ、その箱で荷物や人を輸送する。線で移動する方向や場所を決めておけば、歩行者や飛行者が事故に遭う事も無くなりますし、箱の形なら物も人も多数運べます。問題は動力源で、そこの研究がストップしまして、あのエレックのバカが、魔王の野郎に直談判なんてバカな事するから研究を止められて…。」
前の魔王に仲間を殺されたのか。ならここまで怯えるのも分からなくはない。だが目の前にいるのも魔王なのだが、そんな事いって大丈夫なのだろうか。俺は気にしないが。そう思っていると、彼は自分が口走った事に気づいたらしく、吃り始めた。
「あ、ああ、ひ、す、すみません!!野郎なんて言ってすみません!!」
「彼は研究について話し出すと性格が変わるのです。許してあげて下さい。ちなみにエレックというのはかつて魔王様がお殺しになられた科学者チームのリーダーです。」
許さないわけがない。俺は別にこの程度の悪口気にしないし。大体俺に対してでもないし。
「気にしておらぬ。むしろ謝るのはこちらの方だ。エレックの件については詫びても詫びきれん。すまなかった。」
俺は頭を下げた。
「え?ま、魔王様が、頭を…?」
彼は驚いているようだったが、頭を下げて済むなら安いものだ。それに、自分に覚えのない事で謝る事程気楽なものは無い。
「その件については今後は無いように努める。それで、だ。我としては以前の考えを改め、研究にも重きを置く事にした。そこで貴公に研究チームのリーダーをやってほしい。どうだ?」
「…わ、ワターシなどでよければ、全然構わないといいますか、是非やらせて頂きたいところですが…。」
「そうか。ありがとう。ではジュゼ、魔王城内に研究室はあるか?」
「以前彼が使用していたところがございます。」
「ではそこを整理して、再び使えるように手配してくれ。」
「かしこまりました。」
「ではイレント、貴公は知っている研究者を呼んで、まずは交通手段に関する技術の研究・発展に努めてくれ。それが出来上がったら次を考えるので連絡を頼む。」
「わ、分かりました。やるだけ、やってみます。」
そう言うと彼はすごすごと部屋へ向かっていった。廊下に出た後、ドアに耳を当ててみると、
「カレィは本当に魔王様ですか?どう言えばいいのか分かりませんが、凄く温和といいますか、以前と全く違うように見えたのですが」
などとジュゼに尋ねているのが聞こえた。つくづく思うが、前任の魔王はどこまでろくでなしだったのだろうか。やりにくくて仕方ない。ジュゼが適当にごまかしてくれる事を祈ろう。
さて、次は街の設計だ。俺とトンスケは地図を広げ、住居が足りない街をリストアップし、そこに対して材料を送る算段を立てた。といってもまずは線路を引いて、電車が通れるようになってからだ。デカい荷物は転送魔法でも送りづらいし、住居が足りないのは大体辺境。辺境は未開拓領域に近く、物資の収集も難しい。というわけで優先度としてはイレントの研究及びその実現が最優先となる。彼の努力に期待しよう。
計画実行日、即ち選挙当日まで、あと二ヶ月と二十三日となっていた。
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