第509話【セカンズ 新しい旅立ち】

<<キャム視点>>

「サスガ事務長、ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願いいたします。」


陛下との謁見を終え、公爵位を賜った俺は、宰相のドナウ殿を始め国の重鎮を集めて国際連合加盟後のこの星の在り方や異世界の人々との付き合い方について議論を重ねた。


概ね3週間かけてまとめた草案を持って、今度はこの世界にある残り2国の了承を取り付けるために奔走する必要があったのだ。


他の2国との交渉もそれほど問題になることは無かった。


マリス様がそれぞれの王の夢枕に出て頂いたことも大きいが、それよりも俺の30年間の冒険者としての実績と、両国の王家と良好な関係を築けていたことが何よりも役に立ったようだ。


草案に両国の要望を取り入れ正式な文書として3カ国の王連名でこちら側の要望を書面に認めた。


そして迎えた国際連合加盟への調印式。


数百の星が加盟するといわれ、その想像もつかない規模の戦力を抱えるであろう国際連合である。


多少の横柄な態度も仕方ないと思っていた。だが、あちらの代表として調印に参加されたサスガ事務長は穏やかな表情で終始こちらの話しに傾聴する姿勢を見せてくれた。


こちらからの要望に対しても善処する方向で受け入れてくれ、無事に調印することが出来たのだ。


「キャム殿、これからが大変だと思いますが、手を取り合って頑張って行きましょうね。セカンズの発展を国際連合は心より望んでおります。」


わたしとサスガ事務長の固い握手がセカンズにとって新しい時代への幕開けとなったのだ。





「キャム殿、各国の整備状況は如何ですか?」


「そうですね。これまでの20年あまり、カトウ運輸が地道に街道整備や荒地開拓を行って頂いていたので、調印後、正式に事業を開始して頂いてからも特に軋轢は起きていませんし、しっかりと雇用も確保して頂いておりますので感謝していますよ。」


「それは良かったです。カトウ運輸は全宇宙に広がる国際連合加盟星において物流の大動脈としての役割を担っておりますので、早々の事業範囲拡大はこのセカンズの各地域に大きな変化を齎すと期待しています。」


「セカンズは国際連合加盟国内でも有数の大規模ダンジョン保有国です。

これからの発展には、ダンジョン資源を生かした交易を活かすためにもカトウ運輸は不可欠です。


既に9ヶ所のダンジョン入り口にはカトウ運輸の大規模出荷センターを構築して頂きました。


これも全てサスガ事務長のご尽力のおかげと感謝いたしております。」


「いやいや、キャム殿のお人柄とこれまでの実績が大きいのではないでしょうか。


わたしも事務長に就任以来、20ほどの星とお迎えすることが出来ていますが、各星の大使殿によって、大きく進捗に差があります。


その中でもこのセカンズ星における進捗状況には目覚ましいものがあります。


各3王族とキャム殿の信頼関係の厚さや、実際に狩りを行う冒険者ギルドとの良好な関係性等キャム殿の存在が大きいですな。」


「そう言って頂けると恐縮してしまいます。30年前にマリス様のお告げを聞いて以来、頑張って来たかいがあったというものです。


そうそう、忘れていましたが、各地の冒険者ギルドをまとめて星営企業としての『ダンジョンギルド』を創設しようとしています。


これまで冒険者というのは個人事業主扱いで個人の実力によって大きく収入が変わっていました。


これを企業とすることで、最低賃金の保証や、武具などの一括購入による貸与等を行います。

また、ダンジョン探索以外の様々な業務を作り、冒険者達を適材適所でそれらの職務に着かせることで、効率的にダンジョン管理を行おうとしています。


ただ狩りをして資源を消耗するだけでは、いつかダンジョン資源は枯渇してしまいます。

そうならない未来を作る為にもダンジョンギルドは必要ですからね。


まあ、カトウ運輸の創設理念に触発された部分が大きいのですが。ハハハハハ」


「それは素晴らしい。事務総長のランス様にお聞かせしたらお喜びになられると思います。


カトウ運輸はランス様のお父様であるマサル神様が創められたのですから。


このダンジョンギルドの精神が失われない限り、このセカンズは成長し続けるに違いないでしょう」


国際連合加盟後、俺は様々な星を訪問し、実際にこの目でセカンズの未来を模索してきた。


残念ながら加盟しただけで特にその恩恵を活かしきれていない星もいくらか見られたが、反面、自分の星の特色を上手く活かして、交易や異文化のの取り入れにより自星を発展させている星も多かった。


そして俺はダンジョン資源を中心とした交易産業をメインとした星作りを3王家に提案し、了承されたのだ。


誰もが最低限の生活を保障され、誰もが自らの人生を選択できる世の中を作っていくことが、俺のこれからのライフワークになるのだ。


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