第508話【キャム、全権大使になる4】

<<キャム視点>>

リト殿の家で楽しいひと時を過ごした翌日、グラフ伯爵家に王城からの使者が訪れ、15時に登城するようにと伝言があった。


リト殿は朝から登城されており、今は母君と妹君に挟まれ朝食後のティータイムを楽しんでいるところだ。


この国では第1王子と謁見したこともあり、謁見に合わせた支度も昨晩中に終えてある。


後は着替えて迎えの馬車を待つだけだった。


そして登城1時間前の14時に迎えの馬車に乗り込み、王城へと向かった。




<<リト視点>>

キャム殿が登城する日の午前中、わたしは陛下と宰相、ユング騎士団長の4人で膝を突き合わせていた。


「リトご苦労であった。

そちの目から見て、キャム殿は如何であったか?」


「陛下、無事キャム殿を伴い戻ってまいりました。


一言で申しますと、あれほど地域で慕われている者もおりますまい。

そう思わせるほど、アーネストでのキャム殿の存在感は大きいものでした。」


「ほう、そんなにもか」


「はい、彼が王都に向かうということで開かれた送別会では、老若男女問わず街のあらゆる者達が集まり、旅の無事を祈っていた次第です」


「なるほどな。街への貢献も一方ならぬのであったのだろうな。

そしてそれほど皆が慕っているというのは、日常的に繰り返されていた証といえよう」


「そうです。そもそも彼の父親から始まった冒険者ギルドにも幼少の頃からその運営にも中心となって参加し、それが小さな寒村でしかなかったアーネットをあれ程の街に育てたわけですから、街の者は感謝しているのでしょう」


「分かった。それでS級冒険者とのことであったが、その力量はいかほどと見た?」


「恐れながら、わたしでは到底及ぶまい力をお持ちだと思います。

あるいは団長よりも」


「なに!王都随一と言われる剣の使い手であるユングよりもだと!」


「はい。直接剣を交えたわけではありませんが、恐らくは。


実はアーネストからの帰り道に野盗10数人に襲われたのですが、キャム殿おひとりであっという間に抵抗出来ぬように。その速さはわたしの目にも止まることが無かったくらいです」


「そうか。分かった。一度ユングと手合わせさせてみたいものだな。


それはそうと、戻ってくるのが予定よりもかなり早かったが?」


「はい、どうやらキャム殿は今回の話しをご存じだったようです。それも30年も前の幼少期に。


彼に聞いたのですが、幼少時、死の危機に瀕した際にマリス様が現れ、彼を救ったそうです。そして、精進して大人になった時、王から異世界との大使を仰せつかるであろうと。


ですので、彼はギルドマスタの職も早々に引退し、身辺を身軽にした上で、王からの招集を待っておられたようです。」


「なんと言うことだ。それほど前からマリス様は今回のことを託すべく準備されていたわけだな。


それなら、今回のご神託も納得できるというもの。


よし、余は決めたぞ。キャムを国際連合との大使、いや全権大使として彼に全てを委ねることにしよう。


下手に我々が口を出すよりもその方が良いだろう。」


「「「御意」」」


こうしてキャム殿が登城されるまで、その準備をすることとなったのでした。






<<セカンズ王国宰相ドナウ視点>>

リト卿のの報告を受けて、キャム殿の謁見の時間までに全権大使の委任に対する書状をまとめることになった。


様々な状況を想定して幾つかの書状は認めてあったのだが、まさか全権大使の任を与えるとは思っていなかったのが本音だ。


実はリト卿が報告していた野盗団「雷の激突」なのだが、その地の代官も手を焼くほどの盗賊団であったようだ。


多数の魔法士や傭兵崩れを使っての攻撃力は電光石火のごとくであり、襲われた商隊は数知れずとのことで、懸賞金も跳ね上がっていたらしい。


今回、騎士団による討伐ということでわたしの方にも報告が上がってきていた。


それをひとりで、それもリトが把握できない一瞬で片付けてしまうとは、どれほどの力量を持っているのであろうか。



おっ、もうこんな時間か。謁見の間に急がねば。




キャム殿と陛下の謁見はつつがなく終了した。


陛下が同席する第一王子にキャム殿の話しをされたところ、王子がキャム殿をご存じだったことで、和やかの雰囲気のまま謁見を迎えたこともある。


また、キャム殿が陛下と王子にレッドドラゴンの皮で作ったマントを献上されたことで、会話が弾んだことも大きい。


全権大使の任を与えるにあたり、貴族連中からの反発が予想されたが、レッドドラゴンを退治した時の話しを聞かされると、異を唱えるほどの勇者がいなかったのも

無事に終えられた要因であろう。


なお、全権大使が平民では都合が悪かろうということで、その場でキャム殿には公爵位を授けたのは、キャム殿を国に縛り付けておきたい陛下の思惑も存分に含まれていたのだろう。


ともかく、2カ月後の迫った国際連合との調印式に向けてサイは投げられたのだ。




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