第475話【和解6】
<<ヤリス視点>>
スピーダ星での交渉は思っていたよりも順調でした。
それで気が緩んでいたということは無かったはずなんですが、数日後、わたし達は後頭部を殴られたような衝撃を受けることとなります。
◇◇◇
ミリーさんの伯母様との交渉も非常にスムーズに進みました。
ひと通り話しを聞いてくださった伯母様は、ひどく喜んで下さり、すぐに自分の子供達が治める集落に伝令を出して、子供達を呼び集めて下さいました。
遠いところにいらっしゃる方も居られるようで、皆さんが集まられるまで3日ほど掛かりましたが、無事に話し合いの場を持つことが出来たのです。
伯母様の教育の賜物でしょうか、彼等はミリーさんやわたしの言葉を目を輝かせながら聞いて下さいました。
わたしは、ラスク星から持ち込んだビデオの魔導具を使って、向こうの様子をお見せしながら説明していきました。
そしてそれを実際に見てきたミリーさんが補足して下さると、彼らからは感嘆のため息が溢れて来ました。
「……うですね。これはそう考えて貰って差し支え無いと思います。」
2時間ほどにも及ぶわたし達の説明に真剣に耳を傾け、闊達な質疑応答の後、彼らは全員、賛成の意を示して下さいました。
「それでは皆様、よろしくおねがいします。」
「ヤリスさん、こちらこそよろしく頼みます。
これで曽祖父の意志が継げるというものです。」
「ヤリスさん、同意が取れて本当に良かったです。」
「ミリーさん、ご尽力ありがとうございます。
貴方があと押しして下さったから、上手くいったのだと思います。」
「まあ、ふたりとも、これからよろしく頼みますね。
息子達のあんな愉しそうな顔も久しぶりですよ。
今日は宴の用意もしていますから、楽しんでいって下さいな。」
「ありがとうございます。
しばらくの宿もお願いすることになって本当に申し訳ありません。」
「こちらの都合なんですから気にする必要はありませんよ。
何日でも大歓迎ですよ。
さあ、宴席に座って、座って。」
伯母様の長男の奥方で、この集落の婦人会を仕切っておられるミスルさんが、ニコニコしながら、背中を押して下さいました。
実は1番遠い場所から来られた3男さんが、近くの集落を仕切っておられる従兄弟にも確認が必要だとのことで、明日の朝早くに往復されるのだそうです。
片道2日掛かるとのことで、その御返事をお待ちするために、後1週間ほどこちらにお世話になることになったのです。
ミリーさんは大切な用事が残っておられるということで先に戻られることになりました。
そしてそれから4日目の未明にそれは起こったのでした。
「ヤリスさん!ヤリスさん!
早く起きて!!火事です!!早く逃げてっ!!」
バチバチという木材の破裂音と共にとんでもない熱気が、目を覚ましたばかりのわたしに襲いかかってきました。
姿は見えないのですが、ミスルさんの怒鳴り声が遠く聞こえてきます。
バタッ!!ドン!!
周りで燃え落ちた柱や屋根が落ちてきて、その度に跳ねた火の粉が大量に降り掛かってきます。
辺りを必死に見渡しますが、どこもかしこも真っ赤な火の海で、逃げようも無さそうです。
なんでこんなになる前に起きなかったんだろうって、呑気にもそんな考えが浮かぶほどに、諦めがわたしを包み込んでいたのです。
バチバチ!バキッ!!
頭上でひときわ大きな音がしたかと思うと同時に、わたしの意識はぷつんと切れてしまったのでした。
<<ミリー視点>>
その夜、わたしは窓を叩く音で目覚めました。
カーテン越しの明るさは未だ無く、時計を見るまでもなく、深夜であることは分かりました。
こんな時間に何かしら?
コツ、コツ、とリズミカルに叩かれる音に、誰か訪問者が来たことは理解出来ていますが、ここは3階なのですよね。
人が窓を叩くとはどうしても思えませんでした。
コツ、コツ。
やはり窓を叩く音は続いています。
意を決してベッドから降りたわたしは、近くにあった箒を持って窓へと向かいました。
「ヤリスさん!!」
「夜分遅く申し訳ありませんでした。どうやらヤリスさんの滞在しておられた家屋が焼失してしまい、彼女が気絶していたので助けてここに連れてきたのです。」
「いえ、そんなことは。
それよりもヤリスさんのご容態はいかがでしょうか?」
「軽い火傷は負っていたのですが、既に治療済です。
気を失っているだけですから、こちらで少し休ませて頂ければ。」
「それは構いませんが。」
わたしがカーテンを開けると、そこにはヤリスさんを抱えた、マサルという男性が宙に浮かんで微笑んでいたのです。
自室のソファーに案内してヤリスさんをわたしのベッドに寝かせます。
火傷を負ったということですが、全くその痕は見受けられません。
それどころか、衣服の焼け焦げや炭による黒ずみすら見当たりません。
「いやあ、間一髪でしたよ。
社員が危険に遭遇すると、警報が鳴るようになっているんですが、それがこちらに伺っているはずのヤリスさんじゃないですか。
こちらにはまだ警備隊も常駐していませんし、慌てて飛んできたんです。
あと少し遅かったら焼け落ちた家の下敷きになっていたでしょうね。」
淡々とその時の救出劇を語る男性は、自らは何事も無かったかのように飄々とされています。
「あなたも怪我はされていないのですか?」
「ええ、大丈夫です。一応シールドは張ってありますから。
あっ、そうだ!焼失した家屋は1軒だけでした。ご家族は先に逃げておられたので全員無事です。
少し火傷や怪我をされた方もおられましたが、治療しておきました。」
この男性が語ることはよく分かりませんが、本当に大丈夫なのでしょうか?
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