第474話【和解5】
<<ムスリ視点>>
「わたし達の星にも祭事に使用するガラスがあるのですが、これほどの物を作る技術はありません。
我が家に曽祖父が作ったと言われる至高のグラスが1つ残っているのですが、それに負けず共劣らない出来栄えです。」
「なるほど、この店のガラス工芸は確かに素晴らしいものですが、これよりも少し品質を落としたものであれば、この世界では日常的に使用されていますよ。」
ガラスといえば高温で岩を溶かしてそこから抽出される石のかけらを集めて作る非常に手間のかかる手法で作られる物。
我が集落では年1回の祭事のために製作される貴重なものだが....
そのようなものがこの建物の中には数えきれないくらい存在するじゃないか!
しかも一般でも日常的に使われているだと!
ヤンガの言葉を裏付けるように、その店の隣にある建物の前には丸いテーブルに座って雑談する色とりどりの華やかな服を着た少女達と、彼女達が手にしているガラス製のグラスが見えた。
そのグラスは我々が祭事に使う物よりも素晴らしい透明度と精巧な細工が施されている。
しかもまだ幼さの残る少女達はその高価なグラスをなんの緊張感も無く手に持っているではないか。
本当にこの世界ではあのようなガラスが日常的に使われているのだ。
驚愕と動揺を隠せないでいると、ヤンガが近づいてきて声を掛けてきた。
「ムスリさん、驚かれているようですね。これはマサル神様が齎された物のほんの一部なのですよ。
もし、あなたの曽祖父であるミチオ様がもう少し長く存命されておられたら、あなた方の星もここと同じようになっていたかもしれませんね。」
その後、道沿いにある様々な建物を見て回った。
この辺りは商店街といって、お金?なるものでこの建物に並ぶ物を自由に交換できる場所のようだったが、そこに並ぶ品物を見るだけで、我々の目指すべき未来が見えたような気がしたのだった。
「ムスリ、ヤンガさん達の星に行ってみてどうでしたか?」
「姉上、悔しいですが、全てが我が星を上回っていたと思います。
あんな星が沢山あるなんて信じられないし、それらが連合しているなんて…
だけど、それが真実なのですね。
これまではこの星しか知らなかったので済んでいましたが、これからはそうはいかないと、考えさせられました。」
「そうですね。ヤンガさんも仰っておられましたが、もしミチオ大爺様がもう少し長生きされていたらと思うと、この星の文明をあちらに近付けることは、わたし達の使命かもしれません。
でも、この星にも良いところはたくさんあります。
全てを真似るのでなく、この星にとって1番良いと思われるところを見極めていく必要がありますね。」
姉上の言葉は、俺の心に響いた。
だけど、何から手を付ければよいか分からない。
黙り込んだ俺の背中に手を当てた姉上の優しい顔を見ながら、今日見てきた風景を思い出していたのだった。
<<ヤリス視点>>
ヤンガさんがミリーさん達を連れてラスク星に行った翌日、わたしとヤンガさんはミリーさんに呼ばれて、役所の会議室に来ました。
「ヤンガさん、ヤリスさん、お呼び立てして申し訳ありません。
昨日、ヤンガさんにあちらの世界を見せて頂き、決心がつきました。
わたし達のこの星も、国際連合に加えて頂き、文明改革をしていきたいと思います。
どうかご尽力のほど、よろしくおねがいします。」
丁寧に、頭を下げるミリーさんとムスリさん。
その目には媚びるような色は全く見えず、ただただ使命感に燃えた熱いモノを感じ取れました。
「決心頂きありがとうございます。
なに、焦ることはありませんよ。
良く話し合いながら、この星にとって1番良い方法を模索していきましょうね。」
ヤンガさんの優しげな声に安堵したのか、緊張感が和らいだふたりの顔はとても嬉しそうに見えました。
その翌日、本日から具体的な計画に入って行くのですが、1番最初にやるべきは、他の集落への説明会です。
先ずはミリーさんの兄弟達が治める集落からです。
事前にムスリさんがあちらの集落に行って、概要を説明しておいてくれましたので、比較的スムーズに説明を終えることが出来ました。
どうやらミリーさん達のご両親はミチオさんの意思を継いで改革に積極的だったそうで、そのご子息であるミリーさんのご兄弟も、その意向を受け継いでいるようです。
「この調子なら、他の集落でも受け容れられそうですね。」
「ええ、ここから西に行ったところに、父の妹である伯母がいる集落があります。
そしてその周りには5つの集落があり、伯母を中心として纏まっているのです。
伯母はお父様同様積極派でしたから、丁寧に説明すれば問題無いと思います。」
兄弟達から良い返事を貰えたミリーさんの顔は晴れやかでした。
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