第476話【和解7】
<<ミリー視点>>
カーテン越しの日差しが感じられるようになった頃、ようやくマサルさんの話しの全貌を理解することが出来ました。
ヤリスさんを伯母の家に置いて帰った3日後の未明に伯母の家が焼けたこと。
伯母の家の者は全て無事で、怪我をした者についても全て治療済み。
状況と火の回りの早さから考えて、放火の疑いが高いこと。
ヤリスさんが寝ている部屋に一番近い入口が一番燃えていたこと。
火の回りにも気付かないほど、ヤリスさんが酩酊していたこと。
これらを総合してマサルさんは、ヤリスさん殺害を目的とした放火殺人未遂だと推理されたようです。
そしてこのマサルさんという男性が、ヤリスさんの勤めるカトウ商会の会頭であり、ヤンガさんがお話しになられていたマサル神様であるということでした。
「いやあ、この星にミリーさんのような方がおられて本当に良かった。
マリスさんからミリーさんのことは聞いていましたが、本当にお優しい方ですね。」
この方、神様ですよね。今、女神様のことを『さん付け』しましたよね。
「マサルさ、いえマサル神様は全宇宙を統べる偉大な神とお聞きしていますが...」
「まさか、誰が..あっヤンガさんですね。あの人はちょっと大げさなんですよね。
全宇宙なんてとんでもない。まあ最近は国際連合加盟星の中ではわたしを信仰して頂ける星も増えてはいますが。
有難いことなのですが、全く面映ゆい事です。」
ちょっと顔を赤らめながら頭を掻く男性は、見た目はわたしよりも少し年下に見えるものの、そのオーラは確かに神と言われてもすぐに信じてしまうものがあった。
「一応簡易な家は建てておいたので、あちらのご一家は普通の生活に戻られていると思います。
ただ....」
「どうかされましたか?」
「ええ、実は放火と断定したのには訳がありまして。
この話しはあちらではしていません。混乱は猜疑心を膨らませてしまいますから。
わたしは、物からその思念を辿ることが出来ます。そして一番損傷の激しかった扉の思念を辿ると、ひとりの男性が火をつけたことが分かったのです。」
「ええっ!!その男性とは?」
「初めて見る方なので詳しくは分かりませんが、少なくともミリーさんの伯母さんの家の方ではありませんでした。」
マサルさんは何処からともなく紙と筆記具を取り出すと、さらさらと似顔絵を描いておられます。
凄く精緻な絵で、まるでその人がその場にいるような錯覚を覚えるほどの出来栄えです。
「この方なのですが、見覚えはありませんか?」
「さあ、わたしは見覚えがありません。でも、もしかすると再従兄弟かも!
実は、ヤリスさんが伯母の家に滞在していたのは、わたしの再従兄弟が来るのを待つ為だったのです。
わたしはその方に会ったことが無いのですが、わたしの曽祖父の次男、つまりわたしの祖父の弟にあたる方のお孫さんが、伯母さんの3男の集落の近くに集落を持っておられるようで、その方をお招きするためにヤリスさんは残っておられたのです。
....まさか、その方が?!」
「なるほど、そういうことですね。分かりました。ヤリスさんはもう少ししたら目覚めると思うので、よろしくお願いできますでしょうか。
わたしはちょっと、その方の集落まで行ってきます。」
それだけ言うと、マサル神様は窓から出ていかれました。
<<マサル視点>>
どうやら今回の事件は、ヤリスさんの殺害を狙った計画的な犯行のようだな。
ヤリスさんの思念をちょっとだけ覗いてみたんだが、昨晩はかなりお酒を飲んでいたようだ。
でも、飲酒中はそれほど酔いが回っていなかったようだが、あの酩酊状態は...
そうか、睡眠薬でも混ぜられていたのかも。
探索魔法を使って現場に残っていた遺留品であるブローチの思念を辿る。
恐らく放火犯の落とし物であるだろう、そのブローチは紋のような模様が施されていた。
その思念を遡っていくとやがてひとつの集落に辿り着いた。
姿を消して集落に入っていく。
メインストリートになるのだろうか、石畳の少し広い道を歩いていくとひと際大きな屋敷に辿り着いたのだ。
その門前には、およそこの世界には似つかわしく無い物々しい気配が漂っており、まるで何かの襲撃に対するかのように門番が立ちはだかっているのだ。
もちろん、門番から俺の姿は見えないから、そのまま脇をすり抜けて屋敷に入って行く。
奥へと入って行くと、立派な扉があり、その中から怒号が聞こえる。
「未だ、冒険者どもは集まらないのか!
早くしないと、奴等が来てしまうぞ。
そうだ!兄上達はどうした!
わたしが、向かう前に連絡しただろう。
親父の遺言があるから、兄上達も、俺と同じ気持ちのはずだ!
なぜ未だ来ない!」
どうやらビンゴみたいだな。
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