第470話【和解1】
<<アルト視点>>
国際連合に常駐するようになってラスク星の暦で早3年の月日が流れました。
「イリヤさん、マリス先輩から連絡がありました。
野良星スピーダで女神降臨を実施。無事完了して好評価のようです。
位置情報を送信しますね。」
「アルトさん了解でーす。じゃあ、ヤンガさんに連絡して行ってもらいますね。」
最初は緊張でお互いに様付けしていたイリヤさんとも、今では気軽にさん付けで呼び会えるようになっている。
ランス様だけは未だに、さん付け出来ないんだけどね。
「イリヤとは兄妹なんだから、さん付けで良いよ」って言われるけど、…なんとなく呼びにくいんだよね。
「ヤンガさんと連絡がつきました。ヤンガさん自身が早速行ってくれるみたいですね。」
マリス先輩から送られた位置情報には向こうに設置された転移魔法陣のパスワードも付いているから、ヤンガさんなら2日もあれば向こうに行ってくれるだろう。
最近は部下に任せることが多くなったようだけど、初期は全て自分で行ってたし、今でも難しそうな星には自分で行ってるみたいだし、結構行動的な方ですね。
そう言えば先日、カトウ運輸という商会を訪問する機会がありました。
物流を中心に全ての国際連合加盟星内に手広く商売されているようです。
新たに国際連合に加盟した星にいち早く進出し、国際連合加盟星との交易を一手に引き受けているラスク星の星営商会です。
国際連合への加盟が決まるとすぐにその星に行って物流網の構築を始めるそうですね。
カトウ運輸が早々に物流網を作ってくれることで、効率よくその星の改革を進められるって聞いています。
今回のスピーダ星にもヤンガさんに同行していることでしょう。
この巨大商会、物流事業だけでなく全ての星で慈善事業も盛んに行っているようです。
スラムを共同住宅にして衛生的に変えたり、教育が行き届いていない場所でも雇用を創生し、そこに住む子供に無償で教育を受けさせ、優秀な人材を生み出していったりと、その豊富な財力を使って異世界に君臨しているそうです。
カトウ運輸が物流センターを作った地域では交通網から上下水道、住居までが整備され、充分な雇用が確保されます。
それはカトウ運輸だけでなく、それを取り巻く様々な商会や商店も参入することで一気に文化や生活水準が向上しているって聞きました。
訪問した際に頂いたお土産に「カトウ運輸年代記」という本がありました。
それはこのカトウ運輸がどういう経緯で設立され、どういった形で今の巨大商会になっていったかという記録をまとめたものです。
全30巻からなるその本を電子書籍として頂いたのですが、国際連合事務局の書庫にその原本が置いてあるのを見つけました。
「ポーラ先輩、これってこないだ視察したカトウ運輸の歴史本ですよね。」
「そうね、懐かしいわ。」
「ポーラ先輩もこの本をお読みになったのですか?」
「読んだもなにも、この商会の会頭ってマサルさんなのよ。」
「えっつ、室長が会頭をされているのですか!!」
「そうよ、元々はマサルさんがこのラスク星に召喚された時に設立した個人商会が発端で、今ではラスク星の星営商会になったのよ。
アルトくん。この国際連合自体がマサルさんの提案によってできたことは知っているわね。」
「ええ、それはこちらに来た時事務長のヤンガさんからうかがいました。
国際連合って元々はこのラスク星にある国々が協力して共栄するために設立されたって話でした。」
「そうね、そしてその動脈として活動するのがカトウ商会だったの。カトウ運輸って国際連合が出来る前からマサルさんの個人商会として存在していたから、今でも本当はマサルさんの個人商会なのよ。
でもマサルさんもランス君達も自分のことに頓着しないからね、建前上星営商会となっているのよ。
ほら、個人企業じゃイメージ悪いじゃない。
あっ、でも悪い意味じゃないのよ。もともとマサルさんの個人商会時代から彼ったら必要最小限しか給料は受け取っていなかったし、本来の支給額との差額は全て慈善活動に使っていたから、巨大商会の会頭とは言ってもほとんど自分の手元には残していなかったのよ。
だから星営になった今では報酬なんて受け取っていないんじゃないかしら。」
「そうだったんですね。ますます室長のことを尊敬しちゃいます。
そう言えばこの本の中にヤングさんって方が出てくるんですけど、あのヤンガさんの先祖か何かですか?」
「どうしてそう思うの?」
「この前、イリヤさんにこの本の話しをしたら懐かしがられて。その際にヤングさんって番頭さんの話しが出たもんですから。
名前も似てるからそうかなって。」
「たぶん違うと思うわ。でもあの無欲で精力的な行動力はあの大番頭さんと似ているかもね。」
へえー、マサル室長の意外な一面も垣間見れたし、この国際連合がこれ程までに新しい星でも歓迎されて受け入れられる原因がちょっと理解できたような気がする。
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