第469話【閑話 ヤング廟にて】

僕達は新婚旅行でここラスク星に来ています。


僕達の星シベルスが国際連合に参加して早10年。


夏には日照りや害虫に悩まされ、冬には厳寒に全てを閉じ込められてしまうシベルスに国際連合の手が差し伸べられたあの日を僕達は忘れることが出来ません。


空が突然輝き、女神様が現れたかと思うと優しそうに微笑んでこうおっしゃいました。


「皆さん、この厳しい環境にも関わらず良く頑張りましたね。

もうすぐ別の星からあなた達を助けるために使者が訪れるでしょう。

彼らは必ずやあなた達の力になってくれるはずです。


その伸ばされた手を取るかどうかはあなた達の判断に委ねられます。

どうか神の奇跡を受け取って下さいね。」


それだけ言うと女神様は消えてしまいました。


僕達は未だ子供でしたが、その時に女神様のお美しさは目に焼き付いています。


当時、僕達は神様というものを知りませんでした。


古い文献には、神様のことが書いてあったそうですが、我々の祖先が絶えず争う姿を見て絶望した神様は、この星を見放されたと記述があるだけだそうです。


神々に見放された世界として、我々は厳しい環境での生活を余儀なくされたのだと、長老達は話してくれました。


そこに突然現れた女神様。


そのありがたいお言葉をも、当時の大人達は疑いをもって受け取り、議会は喧々諤々の大論争になったそうです。


結局、最長老が受け容れるとの判断を降した翌日、銀色に輝く大きな船に乗った異世界の方達が現れたのでした。


そして10年の月日は我が星に大きな変化を齎しました。


その過程を目の当たりにしながら成長し、成人を迎えた僕達にとって、国際連合こそが救いの神だと思ったものです。


今日、こうして愛するミーニャとこのラスク星に新婚旅行に来られるなんて、夢のようです。


貧しかった僕達の家に手を差し伸べてくださったのは、カトウ運輸でした。


お父さんが働きに出るようになると、僕達も小学校に通えるようになり、成人と共に幼馴染みのミーニャと一緒にカトウ運輸に迎えられました。


生活にもゆとりが出来て、ささやかながらでも結婚式をと思っていたのですが、大勢の同僚に囲まれた素晴らしい結婚式をすることが出来ました。


そして式場の外に出ると、そこには豪華な最新式のトラック馬車が用意されていたのです。






「ミーニャ、ここは良い所だね。


すぐ近くには近代的な街があるのに、そんな喧騒を全く感じさせない。」


「そうね。わたし達がこんなにも幸せになれたのもカトウ運輸のおかげでしょ。


そしてここはカトウ運輸の創業の地なのよね。」


「そうだな、厳密には本当の創業の地は少し離れたところらしいけど、この地に移ってから、他の星とも物流ネットワークを拡げたってことだし、ここが創業だって言っても差し支え無いだろうな。」

そんな他愛のない話しの間も僕達には幸せな時間なんです。


美しい野花が咲き乱れる小径をゆっくり歩いていると、目の前に真っ白で大きな塀に囲まれた霊園が見えて来ました。


「さあ、着いたよ。」


僕達は胸の前で手を合わせて一礼した後、その白亜の門をくぐりました。


端が見えないくらいの大きな敷地には、数え切れない四角形の石が整然と並んでいます。


そのひとつひとつが亡くなった方を祀っていると聞きました。


ひとつひとつの御霊に頭を垂れながら先へと進みます。


そしてそこには一際大きな廟がありました。


ヤング廟


そう書かれた表札の門をくぐると、カトウ運輸創業の礎とも云われる初代大番頭のヤング様のお墓がありました。


その周りには殉職碑と書かれた大きな石碑があるだけの質素なお墓は、創業当時に様々な困難を乗り越えてきたにも関わらず、道半ばで殉職された御霊と共にありたいとの生前のヤング様の希望により、建てられたそうです。


この廟が建てられてから300年あまり経ち、今なお、マサル神やヤング様が創業当時に描いた理想が受け継がれていることを想うと、胸が熱くなります。


今の時代にカトウ運輸の一員として働かせて頂いている僕達も、次の300年後の為に出来ることを精一杯やろうとお墓の前で誓いました。


目を開け顔を上げると、同じタイミングで顔を上げた妻のミーニャと目が合いました。


一筋の涙の跡を残したその晴れやかな顔に微笑みあって、わたし達は、新たなる誓いを胸に廟を後にしました。



ーーーーーーーーーー


いつもお読み頂き有難うございます。


前話で久しぶりにヤングさんの名前が出たので、書いてみたくなりました。


最近は、シリアスな書き方が多かったので、ちょっと寄り道です。


ヤンガさんが野良星の開発に取り組み出してから10数年後の話になります。




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