第445話【ユートピア計画8】
<<ゼロス視点>>
「どうしてこうなったんだ!!」
執務机を強く叩き、勢いよく立ち上がるわたしの顔が鬼のような形相であったのだろう。
控えていたメイド達が驚きのあまりその場でへたり込み、長年勤めてくれている筆頭執事のカーネルでさえ、数歩後じさったのであるのだから。
同時に起動させた35の時空空間『ユートピア』のうち、実際に起動できたのはたったの5つだけだった。
大半は起動する以前に、その存在さえ失われていたのだ。
それに気付き調査を始めてから約5時間後、起動したはずの5つでさえ、クーペ星同様内部から破壊されることとなったのだ。
「何故だ?!」
裏返した手首を前に突き出して前後に振り、露骨にホッとした顔の使用人達に苛つきながら退出ると急激に怒りがこみ上げる。
「マサルめ!!邪魔ばかりしおって。たかが家畜の分際で!!」
原因を突き止める必要など無かった。
これほどの遠大で緻密な計画を悉く潰してくれよう輩など、奴しか思い付かない。
この世界に永遠の繁栄を齎すはずの無限エネルギー計画を阻止出来る奴など他には居ないだろうからな。
まあよいわ。こうなったらアースとシルビア星だけでも完全な無限エネルギー牧場、そうユートピアにしてやるわ。
<<マサル視点>>
今地球があった場所に来ている。
既に時空空間の入口は見付けてあるのだが、問題は中に入る方法についてだな。
恐らく入口から入るのは可能だと思うのだが、問題は入ってからになる。
当然ゼロスの監視はあるだろうし、例えそれを無視して強引に入ったとしても分が悪いことは間違いない。
なにせ45億人も人質にされているのだから。
とはいえ、このままというわけにもいかない。
さあどうするかな。
そんなことを考えていると、時空空間の入口が一瞬開いたのだ。
「このタイミングだな。」
何故入口が開いたのかは分からないが、向こうから開いてくれたのなら、見付からない可能性が高いだろう。
強風が吹き出して来るのに逆らって時空空間内に侵入して行く。
真っ暗な空間の中に懐かしい地球が浮かび上がっている。
とりあえず急いで地球へと降り立った。
このタイミングならば地球人に紛れてバレないだろうと踏んだわけだ。
『木を隠すなら森の中』って言うじゃないか。
俺は元々日本人だし、地球人の中に混じってしまえば、絶対気が付かないだろう。
地上に降りてみるといつもと変わらない日常が流れている。
もし俺が弥生ちゃん達囚われた修学旅行生を見ていなければ、目の前の光景を不思議に思わなかったかもしれない。
だがよく見ると違和感が見えた。
全ての学校が一斉に遠足していたり、毎日宝くじの高額当選があったり。
そう、幾つかのパターンはあるにしろ、誰もが楽しいと思われることだけが繰り返されているのだ。
「案外このままの方が幸せな人達もいるんだろうな。」
砂漠ではオアシスが毎日作られているし、最貧国では先進国による政府開発援助で、繰り返し食糧援助が行われていたりとか。
進歩し過ぎた世界というのも考えものということだな。
っと、あんまり感傷的になっていてもしようが無いか。
とっとと、時空空間を破壊させてしまおう。
俺は収納からロケットを取り出しては発射、取り出しては発射を繰り返す。
「お父様、聞こえますか?お父様、聞こえますか?」
「ああ、イリヤ。聞こえるよ。
どうやら上手くいったようだね。」
「お父様が無事で良かったです。」
「ところで、シルビア星はどうだった?」
「ええ、ユウコさんがあっという間に。
ユウコさんって、思い切りがいいですよね。
時空空間の入口を無理矢理拡げて入って行ったかと思うと、すぐに出てきましたよ。
中で魔法に襲われたって言ってましたけど。」
ユウコさんらしいというか、俺が慎重過ぎたのかもな。
とにかく、地球とシルビア星も無事に解放出来たということで一段落とするか。
「イリヤ、もう少しここをしらべてからそちらに戻るよ。」
地球で調べること。それはゼロスの痕跡だ。
地球は間違いなくゼロスによって時間ループさせられていた。
ということは、ゼロスの手が入っていたということになり、奴の痕跡がどこかに残っていてもおかしく無い。
そしてこの太陽系には知的生命体は地球にしか無いため、この地球上のどこかにゼロスがなんらかの形で手を加えた可能性が高いのだ。
薄く薄く魔力を伸ばしていく。地上1万メートルの上空から拡げられた薄い魔力の膜は落ちていく間に更に薄くなり地上を覆い尽くしてくれるだろう。
そしてその魔力にゼロスの魔道具が反応してくれればいいのだが。
場所を何度目か変えて魔力の膜を落とすと、サハラ砂漠の真ん中にその魔道具が見付かったのだった。
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