第440話【ユートピア計画3】

<<マサル視点>>


「とにかく、今は派手に動くべきではない。


異世界管理局としては管理対象である異世界が消えたことの調査する為だけに動いているという体で静かに動いて欲しい。


くれぐれもウームルには近付くなよ。


わたしは、これから大統領と今回の一連の事件について話してみるよ。」


調査室の奥、局長室への抜け扉を局長が抜けていった後、会議室は静寂に包まれた。


俺はこの世界のことをよく知らない。


ただ、以前ジオンさんから異世界管理局の局長は官僚としてはトップレベルの力と権限を持っていると聞いたことがあった。


それほど大きな力を持つはずの局長があれだけ慎重に言葉を選ぶのだから、ゼロス・ウームルという男はかなりの力を持っているのだろうと容易に察しは付く。


さすがのジーク室長も顎に手を置いたまま試案顔を崩せないでいる。


そんな中ジオンさんが口を開く。


「問題は敵が動いてしまうことだな。研究者としてのゼロスの名は聞いたことがあるよ。


プロフェッサーゼロス。


多才で様々な学会に登場するや否や参加した全ての学会に大きな影響力を残すほどの新しい学術成果を残していたらしいよ。


急進的な学説を唱えるゼロスは若手のホープとして注目され、若い研究者達の支持を集めるのだが、反面、旧来から学会を牛耳ている重鎮達からは危険人物として排除対象となっていたのだ。


そんなある時、ゼロスは全ての学会から突然姿を消すこととなった。


理由は誰も知らないが、その約1年後、突然国軍の将校として現れたそうだ。


その後は、小隊長としてしばらく国軍に所属していたそうだが、彼の正体で大量の死亡事故が発生し、その責を取って軍を追われたと聞いている。


そしてその際に彼の後見人として現れたのが先代のウームル議員だったそうだ。


当時から議会に大きな影響力を持っていたウームル議員が後見人では国軍や警察もゼロスを追求することが出来なくなり、またもやゼロスはその姿を表舞台から消すことになる。


そして3年後、既に引退していたウームル議員の地盤を継ぐようにゼロスはゼロス・ウームルとして政界に現れたのだ。


そして養父である前ウームル議員を超えるほどの議会内での権力を急速に高めたゼロスは、政界のみならず財界をも牛耳ることとなっていく。


当然既存勢力による抵抗はあったものの、彼らは不慮の事故などで消えていき、ゼロスが権力を得るまでにはそう時間は必要なかったらしいな。」


すっかり冷めてしまったコーヒーを一口啜ったジオンさんは話しを続ける。


「そして10年程でこの世界にゼロス・ウームルに逆らえる者はいなくなった。


そして数年前、彼はその地盤を3人の息子達に譲り、自分は隠居に入ると宣言して政界を去ったのだ。


ただ、今もその権力は衰えることなく、息子達を使っての支配は更に盤石になっているとも言われている。」


「丁度ゼロスが引退した頃、アキラ君の事件があったんですよね。」



「そうだな、時期的には一致するな。」


ユウコさんの問いにジーク室長が重い口を開いた。


「あの事件は我々異世界管理局にとって驚愕すべき事件だったんだ。


というのも、異世界から収穫される生命エネルギーは我々この世界の住人にとって無くてはならないものだ。


だからこそ国が厳重に管理し、様々な規制や暗号化技術を施した上で、異世界管理局が管理しているのだ。


本来なら召喚途中の転移者を奪われることなどあってはならないし、もしそれを可能にするだけの技術が存在したとすればそれ自体がこの世界にとって大きな脅威でもあったのだ。」


室長は少し遠くを見るような目をしたかと思うと、こっちに振り向き、強い口調で言う。


「だからこそ、これ以上のゼロスの悪行を見逃すわけにはいかないのだ。


調査室として、慎重を期しながら調査を継続して欲しい。」


「「「はいっ!」」」


「それじゃあ、ユウコ君とジオンは監査部に行って、当時の記録を解析してくれ。


もしゼロスがやったのなら、星ごと時空空間に移動させた可能性が高いだろう。


マサル君は、異世界防衛連合軍に連絡をして、他の地域の監視をお願いする。


次は国際連合加盟国の中でも特に文明の進んだ星がターゲットになりそうだ。」


「「「了解しました。」」」


俺達3人が室長の命を受けて部屋を出ようとした頃、次の事件が起きていたのだ。







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