第439話【ユートピア計画2】

<<ゼロス視点>>


「ふふふ、上手くいったようだな。


アースを丸ごと格納できるだけの容積を持った時空空間『ユートピア』へアースを丸ごと飲み込ませることが出来た。


これで、本当の意味での『無限エネルギー思想』を実現できたのだ。」


アース自体をまるごと誘拐する。

実際にはアースを取り巻く太陽系全体を、なのだが。


これだけの規模で消滅させれば、何の痕跡も思念も残すことは無いだろう。


監査部の監視も星単位だったはずだ。


ならば、奴らも何が起こったのかさえ、理解できていないだろうて。


それは誘拐されたアース人にしても同じだろう。


彼らの技術力は素晴らしい。

あんな作り物の世界の中でも、自ら宇宙についての知識を得たのだからな。


だが、彼らの技術を持ってしても、この事実に気付くことは難しいだろう。


彼らの所属する太陽系内のことに関しては彼らは詳しいだろうが、それ以外についてはそれほどの知見は無いはずだ。


せいぜい見える範囲だけを偽装してやれば早々に気付くこともあるまい。


その前に、時間をループさせてやれば済む話だ。


本来であればすぐに時間をループさせた状態に移行できれば良かったのだが、急ぐ以上仕方がない。


ぐずぐずしていたら、マサルが何らかの手を打ってくるのは目に見えている。


現に国軍内に放っているスパイから、わたしに疑いが向けられていることが報告されているのだからな。


「しかしアース人もバカな奴らだ。

マサルが指揮する国際連合とかいう組織に加盟しなかったばかりか、忌々しい異世界防衛連合軍にも参加していなかったのだからな。


もし参加していたら、ターゲットをアースにしていたかどうか。


中途半端な文明の発達ほど厄介なものはないな。


これまでマサルを始めとした異世界管理局による強化された家畜どもに苦杯を舐めさせられてきた。


その全ての元凶であるアースだが、あの世界を支配したつもりのバカどもの無駄なプライドにより自らの破滅を招くのだからな。


いや、そうとも言えぬか。


一番楽しい記憶の中で永遠の生を得られるのだから、彼等は永遠の幸せを得たと言うことかな。


ふふふ、あははははは。」


そうなのだ、アースは国際連合にも異世界防衛連合軍にも参加していなかったのだ。


どちらかに参加していれば、アース人が他の星に残っていたり、異世界防衛連合軍のメンバーがアースに駐留していたりと、何らかの痕跡を残してしまうことになり、今回の誘拐もこんなに上手くはいかなかったはずだ。


数多くのファーム(異世界を揶揄するスラング)の中でも最も生命エネルギーが活発なアースを得ることが出来たのは僥倖だったな。




<<ジーク視点>>


「…と、言うことらしいのです。」


今朝早くにユウコ君から連絡があり、調査室のメンバーを緊急招集したのが、午前8時前。


今、会議室でユウコ君から、現状の報告を聞いていたところだ。


「ウームル卿か…。また厄介な相手だな。」


横でさっきから渋い顔をして報告を聞いていた局長が呟く。


「奴は政界、経済界共に非常に大きな影響力を持っているのだ。


警察が中途半端に起訴出来たとしても、すぐに取り消されて、逆にこちらが名誉毀損で有罪判決を受けるだろうな。


いや、そもそも警察が動かんか。


それだけじゃ無い。


現在は政府の専売となっている生命エネルギーの自由化論争を経済界を揺さぶり焚き付けて、エネルギー公社の民営化を強要してくる恐れもあるな。」


「そんなことになったら…」


「そうだ、ジオン君。


我々異世界管理局は、健全な生命エネルギーを適正量確保し供給することで、この世界のバランスをコントロールしているのだが、エネルギー公社が民営化されて販売の自由化が行われると、我々以外にも異世界を作ってエネルギー量を増やそうという方向に世論が向くだろう。


そうすると安価で粗悪な生命エネルギーが増えてしまい、この世界の生産活動、いや生命活動にも大きな影響を与える可能性があるな。」


「しかしそれは政府がコントロールするのでは無いのですか?」


「本来ならばそうであろうな。


しかしなユウコ君。

その政府をウームル卿は支配しているのだよ。」


呆然とするユウコ君。


あまりにも大き過ぎる敵に言葉を失なったようだ。


横で黙って局長の話しを聞いているマサル君も、眉を寄せたまま渋い表情を崩さない。


彼等にとっては途方もない巨大さであろうし、それは俺達にとってもあまり大差の無いものであった。


「とにかく、今は派手に動くべきではない。


異世界管理局としては管理対象である異世界が消えたことの調査として動いているという体で静かに動いて欲しい。


くれぐれもウームルには近付くなよ。


わたしは、大統領と話してみるよ。」


それだけ言うと局長は席を立ったのだった。



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