第438話【ユートピア計画1】

<<イリヤ視点>>


「マイクさん見回りご苦労様。次はスマット星の方に回ってもらえるかしら。」


「了解です。マイク隊、スマット星方面に移動します。」


「気をつけてね。ふふふ」


「ラッジャー!シャーミちゃん。」


ここ最近、新しく総司令部に配属されてきたシャーミちゃんとマイクさんの甘い定期連絡を横で聞いている。


まあ、いいけどね。


カーチスを討ち取ってから、しばらく何の攻撃も無かったし。


多少のことは目をつむりましよ。


しかし、あのふたりいつの間に仲良くなったのかしらね。




一昨日、久しぶりに屋敷に戻って来たお父様は、渋い顔をしていたっけ。


ユウコさんはその空気をなんとかしようと頑張ってくれてたけど。


どうやら、一連の事件の黒幕が分かったらしいんだけど、かなりの大物みたいなの。


しかもかなり頭が良いみたいで捜査する手掛かりすら掴め無いんだって。


お父様が目を付けている重要容疑者の名前は、ゼロス・ウームル。


ウームル家は、代々神の世界の特級議員を務める名家で、その養子として莫大な財産を相続したゼロス・ウームルは、長期に渡って特級議会の議長を務めたほどの有力者で、今の議会メンバーの大半は彼の派閥なんだそうです。


今は引退してサーゴス地区ってところに隠居しているみたいなんだけど、3人の息子達も議員を務めているし、その影響力は現役時代を凌ぐらしいのよね。


だから、限りなく黒くても誰も手を出せないそうなの。


お父様が言うには引退した時期と一連の騒動が起き始めた時期とが一致するそうで、その辺りもくさいって、考えているみたいなのよね。


それで暫く何事も無いこの期間が、更なる大きな事件への準備期間なんじゃないかって言うのよ。


お兄ちゃんやわたしは、カーチスみたいな幹部クラスが居なくなったからじゃないのって思っているんだけど、どうなんだろうね。




<<監査部 広域監視課アース監視チームライク視点>>


「ライクさんが前に言っていた、ユウコさんとマサルさんって、だいぶ活躍しているみたいね。


この前、異世界管理局から協力依頼が来たって、課長の鼻息が荒かったもんね。」


「そうそう、最近目立った動きも無いからな、課長も出世の機会が巡って来ないって、ボヤいていたよな。」


「そりゃそうでしよ。もうすく定年だし、何とか退職までに部長になりたいと思うよ。


だってさ、部長ともなれば、退職金が段違いだし、天下り先も選り取り見取りみたいだね。」


今日一緒にアースの監視をしているマスカーと、監視の間の1コマ。


マサルさん達がここに来たのはずいぶん前のことになる。


確かアキラ君ってアース人が誘拐されたとかで、その調査依頼にユウコちゃんがマサルさんを連れてきたんだったよな。


その後ラスク星の人が誘拐されたっていうことでラスク星担当のセイラさんのところに案内したっけ。


あの頃から有名人だったとはいえ、異世界管理局の新設部署の新人だったけど、今じゃ異世界管理局長自らが自慢する文字通りのエースだもんな。



「ラ...ライクさん....」


「うん?どうしたんだい? ええっ!!!」


アースが画面から消えていた。





<<ユウコ視点>>


さっきライクさんから連絡があったの。かなり慌てた調子で「アースが消えた」って。


何を言ってるのかと思ったんだけど、念の為に確認したら本当に消えてたわ。


急いで室長とマサルさんに連絡したの。


室長も驚いていたけど、マサルさんは案外冷静だったわ。


「そうか。そう来たか。連絡ありがとう。」


そう言っただけ。


もしかしてマサルさん分かってたのかしら。


なんだかよく分からないわ。





<<マサル視点>>


「ターゲットはアースだったか。」


ユウコさんから一報を貰って最初に思ったのはやっぱり狙われていたのかってことだな。


ゼロスが黒幕だと分かってからゼロス・ウームルが次に起こす行動を考えていた。


最初は次元の狭間に落ちた修学旅行生の誘拐、次が異世界管理局が召喚する途中のアキラ君、そしてラスク星で普通に農作業していたナタリーさんと誘拐を繰り返していた。


そして次元の狭間から、召還の間、そして異世界自体からと、どんどん誘拐するエリアを広げていたのだった。


人数も、最初の修学旅行生はともかく、アキラ君の時もナタリーさんの時も、たったひとりだけ。


まるで実験をしているかのようだったのだ。


そう、ゼロスは異世界から直接誘拐するための実験をしていたんだと俺は気付いた。


そしてナタリーさんで小規模であれば可能なことが証明されている。


ということは、次に狙うのは異世界からの大規模誘拐。

それも痕跡さずに実行する方法をだ。


ナタリーさんの時はラスク星に残された彼女の思念から痕跡を辿った。


ということは、なんらかの誘拐の痕跡を残せば、そこから追跡されることが分かっているはず。


となれば、星ごと誘拐という最悪の結論に達するのに時間はかからなかった。


そして生命エネルギーが強い星と言えばアースもしくはラスク星が考えられる。


だから、どちらかが狙われる可能性も視野には入れていたんだ。


「思ったよりも早かったな。」


未だ準備が整わないうちに先手を打たれてしまったことに歯噛みするしかなかったのだ。

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