第416話【スマット星の攻防2】

<<ヤコフ視点>>


俺の名はヤコフ。スマスト聖国の聖王騎士団の第1隊長だ。


第1隊は聖都の守りを担っている。

優秀な騎士が集まる聖王騎士団の中でも特に優秀な者が揃っている生え抜きの隊だと自負している。


あくまでも人間相手には...だ。


我が国は代々聖王様の加護により、魔物とかいう邪悪な存在はいないはずだった。


遡ること3ヶ月前、突如現れた魔物の存在は我らに新しい脅威を与えたのだ。


それは聖都から遠く離れた場所で起こったため、俺のところには報告書でしか上がってきていない。


草原に突然正体不明の軍が現れて、砦を占拠したこと。


今まで見たことのない武器を使う敵兵に右往左往する我が軍の兵士達を尻目に、それとは別の正体不明な兵がやってきて、追い返してくれたこと。


その後、平穏になるかと思われたその地に、魔物と呼ばれる謎の生物が大量発生したこと。


後から来てくれた正体不明の兵士達がその魔物をかたずけてくれたこと。


等々である。


その後、聖王様を代表として、国際連合とかいう組織に参加したという噂が聖教会内にまことしやかに流れた。


その噂によると、ある夜聖王様の夢枕に聖母イクイナ様が現れて、「翌日現れる使者と共に他の星に行くように」とかいう訳の分からん言葉を残していったらしい。


半信半疑ながらも聖王様が使者を待っていると、はたして本当に異星からの使者が現れたというじゃないか。


その神々しさに聖王様は何の疑いも無く、ついて行ったそうだ。


どうやって行ったんだって?


よく分からないが異星からの使者が呪文を唱えると地面が光輝き、そこに入るとそのまま消えてしまったそうだ。


側近で聖王様の警護隊長のサムは、そこに入り損ねたらしくて、聖王様が戻ってくるまでの2日間、心配で堪らず寝ずにそこを動かなかったらしいな。


そして2日後、聖王様はまるで神の国に行ってきたかのように神々しくなって戻って来られた。


どうやら本物の神様にお会い出来たそうだってよ。


俺には全く理解出来ないが、そのお姿を見たサムが狂喜乱舞しながら、更に聖王様を崇め祀ることになったんだから良かったんじゃないか。


その翌日、俺達聖王騎士団の隊長10人が聖教会の会議室に集められた。


大層興奮しながら話される聖王様の大仰しい言い回しはともかく、話の内容は簡潔に言うと「この前襲ってきた奴等がまた来るかも分からんから、色んな星で集まって軍隊を作ろう」って話しになったんだと。




そして今日、魔物の大群が襲って来やがった。


早朝、王都から馬車で1日程度離れた村で地響きが起こったっていう知らせが届いた。


村ではすぐに地響きのする方角を確認に行ったらしいんだが、大小さまざまな動物が大量に村に向かって走ってきていたそうだ。


猟師達が散弾銃で脅しても少し散らばるだけであまり効果が無いほど、動物達は恐慌状態だったって言ってたな。


それでも、動物をユーザス大草原に誘導することには成功したみたいで、村への直撃は避けたらしい。


動物の集団って奴は、先頭の後を追っ掛ける習性があるからな。


先頭を上手く誘導して方向を変えてしまえばいくら大軍であろうとも何とかなるもんだ。


ただ、こういった群れの中には後になるほど大きな奴が出てくるもんだから猟師達も警戒を緩めない。


いくらかはぐれ者が村の方向に向かって来たが、無事に退治できたそうだ。


安堵するのもつかの間、収まるはずの地響きは更に大きくなっていく。


そしてついには、この星最大の哺乳類ゾーンの群れの後に、禍々しい靄を纏った真っ黒な奴らが出てきたらしいんだ。




早朝訓練をやっていた俺達が急報を受けて駆けつけた時はユーザス草原の村側はその真っ黒な奴らで埋め尽くされていた。


30キロメートル四方もあるユーザス草原は、3方向を海に囲まれていてその海沿いにはいくつかの街や村が存在する。


下手にそいつらを分散させてしまったら海沿いの街村に被害が出ちまうじゃねえか。


俺達騎士団はもっぱら対人戦を生業にしているからそれ以外の経験に乏しい。


まあ、猟師達の手に余るゾーンやグーンみたいな大型動物の大群が現れた時は出動することもあるが、基本は対人だ。


それに今回の奴らは動物でもなさそうだし、あのゾーン達ですら逃げ惑う存在。


とりあえず、15ミリ機関砲をぶっ放してみる。さすがに直撃した奴は斃すことができたが、かすったくらいじゃ止まることも無い。


頭を一部欠損したくらいじゃ勝手に回復してしまうみたいで、全く聞いていない有様だ。


もっと大火力が必要だが、10代前の聖王様によって平和裏にまとめられたこの世界には、戦争なんてものはずーっと過去のもので、野盗達を相手にすることが多い俺達にとってこれ以上の火器なんて必要ねえからな。


さてどうしたものか。幸い近接戦闘に長けた我が兵達は1体1だったら何とか対峙できるようだが、そんなもんじゃ埒があかねえ。


なにせ、無限とも思えるくらい数が減らねえんだからよ。


そんな時に奴らは来てくれたんだ。



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