第417話【スマット星の攻防3】
<<ヤコフ視点>>
俺達に足りなかった大火力をあいつらは持っていた。
それも魔法とかいうファンタジーなヤツだ。
その魔法とやらを撃つ為には前線にいる兵達を下げなければならない。
撤退時に襲い掛かる魔物を食い止めるために最後尾で剣をふるおうとすると、あいつらの隊長格のひとりでマイクとかいう奴が「俺達に任せろ」とふてぶてしく言ってきた。
奴が鞘から抜き放った剣はまさしく名剣というべき輝きを放っており、彼の実力は推して知るべしというところか。
俺は近くの将校に前線の兵を引かせるように伝令を出させたが、あまりにも魔物が多すぎて、伝令が前線に辿り着けない様子に歯噛みしていた。
これなら俺が大声を出した方がよく伝わるんじゃないかと思った時、「これを使え。」とマイクが言う。
手前が細くて先が丸い穴のラッパのような機械。
手前の網目状のところから大声を出せと言われたので、ありったけの声で前線の兵に撤退するよう叫んだ。
その瞬間、ありえないような大音量がその機械から吐き出されて、都合よく兵も魔物も棒立ちになってしまった。
いち早く我に返った将校のひとりが前線の兵士達を正気に戻して、まだ茫然自失の魔物を置き去りに撤退させることに成功したのだ。
その後、魔法の準備が出来るまで、マイク達と俺らは連携しながら再起動し始めた魔物を次々と斃していった。
そしてマイクから魔法の準備が出来たとの知らせが入る。
ただ、俺とマイクは前線まで進み過ぎていた。
このまま攻撃されると、俺達も巻き添えになるため撤退が必要であった。
その時マイクが俺のそばまで来て腕を掴んだかと思うと、激しい光の後、俺達は一瞬で元の場所まで戻っていたのだった。
やがて、ムラマサが率いる部隊のうち20人くらいが一斉に魔物の密集地帯に魔法を放つと、それは赤や青、紫など様々な色として着弾。
そしてそこに発生したのは膨大な熱量であった。
その一部は業火であり、また別の場所には巨大な氷柱が何本も突き刺さり、爆音が鳴り響く場所では無数の雷で黒焦げの魔物が斃れている。
その数10秒の攻撃で、半径100メートル以上の大きな空間が出来た。
「よし、ヤコフ。兵達を率いて掃討戦だ!」
呆気にとられていると、マイクが再戦を促してきた。
「おーよ!お前らー!行くぜー!」
興奮のあまり俺は地を出しながらも精鋭兵を率いて、マイク達と掃討戦に走り出したのだ。
しばらくすると、襲ってくる魔物の数が激減し出し、やがて掃討戦は終わる。
どうやらムラマサが、問題となった真っ黒な穴を塞いだみたいだ。
こうして早朝から始まった未知の生物との戦いは、頼もしき味方の力も借りたことで昼過ぎには完遂することができたのだった。
「お疲れ様です、ヤコフ殿。
では報告のため王城に行きましょうか。」
俺とマイクが肩を叩いてお互いを称え合っていると、ムラマサがやってきてクールに話しかけてきた。
「お、おお、そうだなムラマサ殿、今回は本当に世話になったな。さあ正教会へと引き上げよう。」
俺達は兵達をまとめて、聖都に凱旋したのだった。
魔物の大量出現の報を受けた聖都の住民達は一様に心配顔であったのだが、凱旋した俺達の明るい顔を見て、いつもの明るさと落ち着きを取り戻している。
兵達の親兄弟だろうか、我々の凱旋隊列に入ってきては兵と手を取り合って喜んでいる姿を眺めながら、聖教会までたどり着いた。
そして聖教会の前には畏れ多くも聖王様が出座されており、俺達は労いのお言葉を賜ったのだった。
<<前線で魔物と戦っていた騎士テイル視点>>
「まったくビックリしたぜーー。なにせよー、熊みたいなのとかオオカミみたいなのとかさー、なんていうのかなあ、とにかく禍々しいっていうの?
動物には似てるんだけどさあ、大きさも違えば全然雰囲気が違うってやつ?
とにかく、おどろおどろしいわけ!
隊長に行けって言われたら行くけどさあ、本当に勘弁だぜ。
そんなのが100?200?いやそんなもんじゃねえよ。見渡す限りうじゃうじゃいるんだ。
まあ1匹1匹はそんなでも無いから、1対1じゃ負ける気はしねえよ。
俺だって聖王騎士団の第1隊所属なんだぜ。精鋭揃いって言われてる騎士団のエリートなんだ。あんなのにでも1対1じゃ負けねえ。
でもさあ、数の暴力っていうの?ありゃダメだ。いくらやっつけても次から次へと出てきやがる。
剣が刃毀れした時には死ぬんだって思ったさ。
そしたら突然団長の大声が響き渡ったんだ。大声なんてもんじゃないぜ!
俺達騎士も魔物も一斉に膠着しちまったよ。
あの時、将校のハンス様が声を掛けてくれなきゃ、俺ひとりじゃ動けなかったよ。
おかげで騎士だけは無事にあの場を逃れられたんだ。
しかし、あの団長のバカ大声に助けられたというかなんというか。
まあいいや、せっかく聖教会からご褒美として金一封出たんだ。
今日は飲むぞーー!なあ皆んなーーー!!!」
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